かつては売れっ子、低迷するアラフォー女漫画家の自虐コメディ『都の昼寝物語』の叫び
【雑誌】「フラワーズ」の新連載『都の昼寝物語』
秋里和国先生と言えば『それでも地球は回ってる』や『THE B.B.B』(ともに小学館)などで知られるコメディの名手です。デビューから32年、常に第一線で描き続けてきた秋里先生の新連載『都の昼寝物語』が、「フラワーズ」(小学館)で始まりました。
かつては売れっ子だったが今は人気低迷中のアラフォーまんが家・北里都。さっさと結婚して引退するはずだったのに、その野望がかなうことなく、唯一の家族だった母が急逝。保険金3,000万円と京都の町家を相続するが……というお話。おや、もしかしてこの主人公は……という予感は的中。先生ご自身がブログで「モデルはもちろん私」と明言するように、本作中にはいかにも興味深い、ベテランマンガ家ゆえのエピソードが数多く登場します。
とある出版社の新年会。顔なじみの同業者が声をかけてきました。「今度小楽館漫画賞を受賞したことのある人たちで集まろうって話あるじゃない。都ちゃんも来るでしょ?」。しかし実は都はその賞を受賞していないのでした(そして確かに秋里先生も小学館漫画賞を受賞したことがないのです!)。追い打ちをかけるように、編集長からは「次回作は連載じゃなくって読み切りやってみませんか? 人気があれば連載にするという形で」と非情な通告。話もそこそこに編集長は、到着したばかりの売れっ子作家のもとへ飛んで行ってしまうのでした。都はバリバリのヒットメーカーと自分との境遇の違いを思い知ります。
言うなれば「黄昏の『バクマン。』」と言ったところでしょうか。ベテランゆえの身の処し方の難しさがそこにはあります。描く方も掲載する方も勇気のいる作品だったと思いますが、この生々しさは唯一無二。イケメンたちとの恋の行方、町家の今後も楽しみですが、秋里先生の心の叫びをもっと読みたいと願います。そして今度こそ小学館漫画賞を……! 5月号は休載ですが、6月号では第3話が掲載予定とのこと。やはり秋里先生のコメディは絶品だなあと思った次第です。
「キス」5月号(講談社)では、東村アキコ先生の新連載がスタートです。『海月姫』が終わったわけでもないのに! 「モーニング」(講談社)で『メロポンだし!』、「ココハナ」(集英社)で『かくかくしかじか』、そして「キス」で『海月姫』とこの『東京タラレバ娘』を同時に連載する大車輪ぶり。そしてこれがまたおもしろいんです。アキコ選手、さすがですわ。「よし!死の!」で大爆笑いたしました。だけど先生、どうかご無理はなさらず……。
「メロディ」4月号(白泉社)では樹なつみ先生の『花咲ける青少年 特別編』が完結いたしました。玉石混交の続編ものの中で、一際輝いていた同作。往年のファンのみならず、新たなファンをも惹きつけ得る、魅力あふれる作品となりました。「もっと!」vol.6(秋田書店)掲載の、新人・陸野二二夫先生の『それでも世界を崩すなら』は、非常にテンポの良いブラックコメディ。今後の活躍に期待です。
小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題が欲しかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって遂には仕事に。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。