コラム
「タレント本という名の経典」

「ブスといじめた者への究極の復讐」“整形モンスター”ヴァニラは本当に異常なのか?

2014/04/06 15:00

 容姿を他人から勝手に批判され、自尊心をズタズタに傷つけられてきた人が、メスも入れず縫合もせずに、その傷を癒やすには、「でも心はきれいだから」と価値観をすり替えるか、「これは個性、これが私らしさ」と開き直るか、「彼はほめてくれるからいいもん」と自分をだますか、さもなくばずっと他人の目に怯え続けるか。いずれにせよ、自分が理想とする美はあきらめ、妥協する訓練をして生きていくしかない。

しかし、そうして自尊心の傷は癒えたとしても、容姿は元のまま。それはただの「妥協の産物」である。ヴァニラは、妥協の道を選ばなかった。整形を「カスタム」と呼び、容貌をいくらでも自分の好みに応じてカスタム(改造)して、理想を追求しようとしているのだ。

 だが、ただ整形手術を受けて周囲から「キレイ」と称賛され、それで自尊心が満足するのであれば、それは他人の評価に振り回されているという点で、「ブス」という言葉に傷ついていた自分と大差ない。ヴァニラは、他人から「美しい」と評価されるために手術を繰り返しているわけではない。自分のために、自分が自分を愛するために「カスタム」しているのである。他人の美の評価基準を超越すること。人間でなくなること。他人を勝手に評価するアホどもとは違う次元の、美しきフランス人形として生きていくこと。それが、図らずも「ブス」といじめた者への究極の復讐となるのではないだろうか。

 後頭部から皮膚を切開し、骨膜ごとはがしてプロテーゼをセットする「額プロテーゼ」という施術と、鼻のプロテーゼの入れ直しを同時に行った際は、手術は6時間にも及び、その後2週間寝込み、完全な回復までに2カ月かかったという。そんな危険を冒してまで、自分の容姿を愛したいと欲するまっすぐな情熱に呆れると同時に、心打たれた。容姿なんて、早々にあきらめた方がよほど楽。切開の痛みもない、心は少し痛むけれども、神経を鈍麻させ、哀れな自分の姿を見て見ぬフリをする――そんな道を筆者は選んだ。

 かつての面影がまったくなくなるほど改造して、自分の容姿を愛そうともがいている人。自分の容姿を愛することをあきらめ、無視しようともがいている人。自分の容姿にわだかまりを抱えている人の生き方として、どちらが自分に対して誠実なのだろうか。現代の日本においては、前者は「異常」とされ、後者は「正常(ただの怠惰な人)」とされるだろう。ああ、よかった私は正常だ、なんてとても言えない。ヴァニラとは、喉の奥に異物を詰められたような気持ちにさせる存在だ。
(亀井百合子)

最終更新:2019/05/17 20:56
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