女性誌のトンデモ情報を生み出す、世間の欲望と“女子”のコントロール欲求
『女のカラダ、悩みの9割は眉唾』(講談社)で、「セックスできれいになる」「不妊や体調不良と冷え」「私らしい出産」といった女性誌が取り上げるテーマを医学的に検証し、NOを突き付けた産婦人科医・宋美玄氏。『日本の女は、100年たっても面白い。』(KKベストセラーズ)で、「青鞜」から「こじらせ女子」まで“女子”の変遷を追い、岡本かの子、瀬戸内寂聴、西原理恵子といった「ロールモデル」というきれいな枠には収まらない女性の多様な生き方を知らしめたコラムニストの深澤真紀氏。角度こそ違えど、女性誌の“あやしげな”情報や狭い価値観に疑問を投げかける2人に、女性誌を下支えする世間の欲望を解き明かしてもらった。
――『女のカラダ、悩みの9割は眉唾』と『日本の女は、100年たっても面白い。』を読むと、女性誌のロールモデルや「こう生きねば幸せになれない」といった“正義”の押し付けが、読者を誤った方向に導いていると感じました。
深澤真紀氏(以下、深澤) 日本の女性誌って、すごく独特なんですよ。欧米の女性誌は、私は「2つの乳首の出方」と呼んでいるんですが、ものすごくオシャレなモード誌で洋服のデザインの延長として乳首が出てくるか、ハリウッドセレブのゴシップ誌で誰々のトップレス写真という形で乳首が出てくるか、どちらかの価値観のもとで作られている。でも日本の女性誌はその間の価値観で、ものすごく細かにセグメントされていて、それぞれにライフスタイルの提案がされているんです。
宋美玄氏(以下、宋) 脳科学がはやってきた時から、生き方を提案してた女性誌にエセ科学が入ってきたんですよ。女の幸せは多様なはずなのに、「恋愛をしていないと、男性ホルモンが増加してヒゲが生えてくる」「出産は最高のデトックスでキレイになる」という明らかなウソに、もっともらしいホルモンの作用をくっつけることによって、女性を誘導している。それを真に受けた患者からの相談がめちゃくちゃ多いんです。なんでそんなことが起きるかというと、マスコミに魂を売った医者がいっぱいいるからなんですよ。
深澤 問題はそこ! マスコミに出ることでパブリシティになるからって、タレント性を強めることでドクターを凌駕してる人がいるんですよね。一方で、本当にトンデモな先生もいる。私も20何年前に子宮筋腫を持っていたんですが、その頃の婦人科医は本当にひどかった。「そういうこと(セックス)するから病気になるんだよ」と真顔で言われたんですよ。医学的にそんなわけないのに。10年ぐらいは毎回医者とケンカしてて、そうするとどうしてもオルタナティブなものに心が揺れちゃう。
宋 医学に対して不信感を抱くと、例えばトンデモなヒーラーみたいな人に「いままで大変でしたね」と共感力だけ示されると、その人を信じちゃうパターンはよくありますよ。
――一部の女性誌の極端な自然派志向を支持する人は、医療に不信感を持った人が多いのかもしれないですね。
宋 病気になるのは、ハッキリいって運命に近いものなんですよ。でも患者さんは「なんで私は自然出産できなかったんですか?」「なんで私は妊娠できないんですか?」と受け入れられずに、何か理由があるはずだと考える。そこまではおかしくないんです。そこで「冷えが悪い」「骨盤の歪みが悪い」と雑誌に書かれていたら、「これか!」と。すると、靴下を5枚も履いたり、首という首は温めて「冷え」を防ごうとする。例えば、子宮は体の中で一番温かい場所だから手足が冷えたぐらいでは影響はないし、「冷え」を客観的に評価することなんてできない。でも「どうにか努力して、自分の人生をいい方向にコントロールしたい」という当然の欲求が、トンデモと結びついてしまうんです。
深澤 「コントロールできる」という幻想があるんですよね。日本の女性誌は80年代までは女の時代だったんですよ。女の時代って何かっていうと結局男目線で、だからこそワンレン・ボディコンとか男受けしたものがはやった。でも「女子の時代」の女性誌は、女子の女子による女子ための媒体で真面目なんです。「自分を探そう」「少しでもいい明日を作ろう」と行動するのが、女子の時代の女性誌の最も大きな特徴。