“干支が同じ”上司とセックスした新卒男子、「恋愛でも不倫でもない」という地獄
■恋愛でもない不倫でもない
しかし満さんの中で、体の関係を持ったことで、「彼女と僕とでは違いすぎる」「歩んできた人生も、人としての器も」ということに気づき、二度と上司である彼女にアプローチせず、現在に至るのだそうだ。
「彼女も、あれ以来一度も上司としての態度を崩したことはありません。あの日のことをどう感じているのかはわかりませんが……男女の関係になった直後は、素っ気ない彼女の態度に混乱し、悲しくなったりもしましたが、今ではだいぶ落ち着きました」
「今でも、愛してます」と語る満さんに、「それは恋愛として?」と聞いてみた。既婚女性を「愛している」とはっきり言う、その裏に何があるのか知りたくなったのだ。
「わかりません。彼女は既婚者ですから。僕が“恋愛”と言っては、彼女の負担になってしまうかもしれない」
「だったら不倫ですか?」とも聞いた。私からの率直な質問に、満さんは数秒俯きながら、真っ直ぐに私を見据えて首を振った。
「だとしたら、こんなにつらいと思いますか?」
それはまるで、「決して遊びの関係ではなかった」と私を責めているようだった。「不倫=遊び」満さんの中ではそう定義されているのだろう。恋愛でもなく、遊びでもないとしたら、満さんはどこにこの感情を落ち着かせたらよいのだろうか。
彼女との一夜の後、満さんは誰とも付き合っていない。大好きな写真を撮り続け、たった1枚でも誰かの目に触れることを信じているのだそうだ。
満さんと話をして、思ったこと。夢をかなえることと、女性に愛されることを、同じ「誰かに認められる」こととして、混同しているのではないだろうか。そんなところに、満さんの幼さを感じてしまった。
けれど上司である彼女は、そんな満さんの「誰かに認められたい」という無言の叫びを感じ取ったからこそ、彼を受け入れたのではないかと、私は感じる。まだ幼く未熟で、欲しいものを手に入れられないもどかしさに捕われている満さんに、年上の女として手を差し伸べたかったのではないかな……と思うのだ。
満さんが誰かの唯一無二になれる日は、訪れるのだろうか。
(文・イラスト=いしいのりえ)