コラム
[連載]悪女の履歴書

「愛犬家連続殺人事件」――4人を殺害“透明”にした偽装夫婦、風間博子という女

2014/03/08 19:00

■2度の結婚と関根との偽装結婚

 博子は1957年に熊谷市生まれている。実家は資産家で、気の強いお嬢様タイプだったという。結婚して2児をもうけるが離婚。82年、犬好きの博子がドッグショーで出会ったのが関根だった。そして翌年には関根と再婚し女児を出産した。だが、幸せは長くは続かなかった。結婚後、博子は関根に言われるまま刺青を入れ、関根は女児を可愛がったが、博子とその連れ子には壮絶な暴力を振るったという。

 その後、関根とは93年に離婚しいている。ただこれは、税金対策の偽装離婚であり、この時博子は「アフリカケンネル」の名義上の代表になった。度重なる暴力や、周囲のトラブルから、博子は関根と“本当に”別れることを望んでいたといわれるが、しかし関根は博子の実家が資産家でもあったことから、それを決して許さなかった。別れるといえば、再び暴力を振るわれることを恐れ、博子はあきらめたのだろう。関根とビジネスパートナーとして主に経理を務め、元夫の仕事を支えていた。関根とともに殺人と死体遺棄などで逮捕された博子だが、ここから事態は思わぬ方向に向かう。

 逮捕後自供を始めた関根に対し、博子は一貫して無罪を主張したのだ。それは一審裁判が始まっても同じだった。そこにこの事件の最大の特殊性がある。一連の連続殺人には一体の遺体も存在しない。物証がないのだ。ではどうやって立件したのか――。当局がその唯一最大の柱と位置づけたのが遺体解体現場を提供し、その様子の一部を目撃していた山崎の証言だった。

 山崎もまた、遺体を運搬したほか死体損壊で逮捕されたが、山崎は捜査段階から事件解明に全面的に協力した。山崎は検察から「殺人には問わない。執行猶予をつけてやる」などと便宜を約束されたことで、詳細な供述をしたとされる。検察にとって山崎は事件解明のための重要なキーパーソンとなったのだ。

 しかし、裁判が始まると検察が約束を反故したことを山崎は知る。そして、検察との密約――例えば、詐欺容疑で逮捕された妻の早期釈放、妻との面会と検察庁舎内で情事のセッティングをさせたこと――などを暴露し、法廷での証言を拒否した。検察側が立てたストーリーにとって、山崎証言は絶対に外せない“証拠”であったはずだ。山崎の証言から関根を、そして博子の犯罪を暴こうとした。だが、山崎が供述を翻したことで、検察側は捜査段階での供述調書等を証拠とするしかなかった。

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