剥き出しの性欲とセックスを嘲笑する私たちが、突き落とされる『愛の渦』の場所
「着衣時間、たった18分半。」
3月1日(土)から公開の映画『愛の渦』は、このキャッチコピー通り、役者陣がほぼ裸の状態で展開していく映画である。原作は、人気劇作家・三浦大輔が主催する演劇ユニット「ポツドール」の代表作で、2006年の第50回岸田國士戯曲賞受賞作。「乱交パーティーに集った男女」を描いた異色の舞台劇だ。
閑静な住宅街にあるマンションの一室。ここは、「ガンダーラ」という秘密クラブで、「単独男性2万円、単独女性1千円、カップル5千円」の料金設定の元、乱交を楽しむことができる。ある夜、そこに集った男女8人は、バスタオル1枚の姿で、気まずそうに思い思いの場所に座っている。終始俯いている暗いニートの男(池松壮亮)、茶髪でノリのいいフリーター(新井浩文)、真面目そうなサラリーマン(滝藤賢一)、工場勤務の太った男(駒木根隆介)、メガネの地味な女子大生(門脇麦)、気の強そうな保育士(中村映里子)、可愛らしい今どきのOL(三津谷葉子)、常連らしきピアスだらけの痩せた女(赤澤セリ)――。職業も年齢もバラバラな彼・彼女らは、唯一「セックスがしたくてたまらない」という共通点だけでつながっている。セックスが開始されるまで、ぎこちないやり取りが続くが、一度してしまえば、自然と欲望はむき出しにされる。果たして、欲望渦巻く一夜の行方は――?
『愛の渦』は、誰しもが「触れてはいけない」と思いがちな、他人様のセックスと、それをめぐる駆け引きを楽しめる作品である。マンションの一室に集った初対面の男女は、バスタオル1枚という丸腰状態、「セックスしかすることがない」という状況に追い込まれ、ぎこちなく「職業」などを質問し合う様子は、とてもむず痒く笑えてしまう。参加者は皆、「したくてしたくてたまらない」人であるはずなのに、なぜそれを目前にすると、気まずくなってしまうのか。そこには、性欲を丸出しにすることに対する恐怖心や不安が、ありありと見て取れる。その戸惑うさまを見ることが、まるで他人様の至極プラベートな部分にズカズカ足を踏み入れ、下世話な好奇心を満たしているようで、たまらなく楽しいのだ。
しかし、一旦誰かが突破口を開けば、つまりセックスしてしまえば、後は雪崩のように皆が快楽に身を任せだす。4組のベッドが用意された部屋で、それぞれの男女がセックスに没頭するというシーンは圧巻で、先ほどまでの窮屈な空気から一気に解放されたような気になる。けれど、その開放がきっかけとなり、参加者は「美人かブスか」「痩せているか太っているか」「セックスが上手か下手か」などと、セックス相手に求める自身の欲望も表に出すようになり、小競り合いが始まってしまう。