“自然志向”という言葉に隠蔽された、食品系ブラック企業の「奴隷制度」と「男尊女卑」
経営陣がこんな調子なので、事業のそのものも極めてズサンだったという。
「戦略とか工夫とかいうものが、一切ないんです。あるのは『無添加・自然志向を広めよう』という意気込みだけ。営業がどんなに努力しても、『いい物は売れて当然。売れないのはお前らが悪い』としか考えていない。売る努力というものを、全然理解してくれないんですよ。だから、いくらよい商品をたくさん扱っても、業績はまったく伸びませんでした」(同)
そんな経営陣に、営業担当者が改善策を提案したこともあったが、まったく聞く耳を持たなかったようだ。
「今思い返しても、経営陣から人間として扱われたという実感はまったくありません。奴隷か、ロボットのようにしか思われてなかったですよ。『命と暮らしを大切』になんて言っておきながら、自分の部下たちを人間として見ていませんでした」(同)
こうした処遇は、ほかにもある。「女だから当然」という理由だけで、理不尽な要求をされた女性社員もおり、男尊女卑の思想がはびこっていたようだ。
「女性事務員は、作業服のつくろいをさせられていました。『昼休みにやっておけ』といわれたそうです。もちろん、そんなのは持ち主が自分でやればいい話で、女性だからといってやる必要のない仕事。また、事務所の片づけは女の仕事だと、サービス残業を課せられていた経理の女の子もいましたね」(同)
そういう状況に耐えきれず、採用から1年ほどでYさんは自ら退職したが、こういったデタラメな経営がたたってか、それから数年後、その企業は倒産した。
「潰れた時、経営陣はなんて言ったと思いますか。『我々の活動と精神が世に認められたと思われるので、使命を終えて組織を解散する』なんて書類を配ったそうです。自分たちに問題があったなんて、一言もなかったとか」(同)
自らの非を絶対に認めない。それもまた、ブラック企業の特徴の1つではなかろうか。
(橋本玉泉)