コラム
介護をめぐる家族・人間模様【第24話】

「ただ無性に腹が立つ」家をたたみ見知らぬ土地で暮らす、老老介護の妻

2014/02/04 19:00
Photo by honan4108 from Flickr

 どうでもいいことだが、細川元総理大臣が樹木希林に見える。年を取ると、まったく違うところにいた人が近づいていくものなのだな。おお、怖い。今回は「民生委員」の話。いかにも昭和の雰囲気を漂わせているが、どっこい、超高齢化日本ではこの人たちが大きな役割を果たしている。数年前の“消えた高齢者”問題を暴いたのも、この民生委員だ。

<登場人物>
赤坂 照美(55) 関東地方に住む民生委員
遠山 克子(73) 青森から関東地方に引っ越してきたばかり。夫と2人暮らし

■1人で決断し、1人ですべてを処分した

 赤坂さんは民生委員として、担当地区の高齢者の家を訪問するなどの援助活動を行っている。離れて暮らす赤坂さんの実母が、地元の人たちに支えられて暮らしていることから、赤坂さんも自分の住む地域の高齢者の力になりたいと思ったのが民生委員を引き受けた理由だ。民生委員は自治体から委託される形になっているが、ほぼボランティア。担当地区に高齢者が多ければ、それだけ仕事も増える。ボランティアとはいっても責任の重い仕事だ。

「うちの地区はまだそれほど高齢化が進んでいないので、なんとかパートと両立できていますが、研修とか勉強会とかもあって結構大変ですね。それでも、私が行くのを心待ちにしてくれているお年寄りのためにも、がんばろうって思っています」

 そんな赤坂さんの担当地区のアパートに、ある老夫婦が引っ越してきた。それが遠山さん夫婦。青森から来たという。

「民生委員が来たというと、嫌な顔をする方もいるんです。でも遠山さんは、引っ越してきたばかりで心細かったのでしょう。すぐに受け入れてくださいました」

 遠山さんは赤坂さんに、遠く離れたこの土地に来た長い物語を伝えた。それは、自分自身を納得させるために語っているようだったと赤坂さんは言う。

「遠山さんが住んでいた土地は、12月から3月まで雪に閉じ込められるそうです。ご主人が元気なうちは車も運転できたので、2人での生活を続けられるだろうと思っていたそうですが、ご主人が雪で滑って腰を骨折してしまったらしいんです。リハビリを続けて、杖をつけば歩ける程度には回復したものの、自分の身の回りのことをするのが精いっぱい。雪が積もると身動きが取れなくなってしまう。そんな場所でこれ以上暮らし続けるのは無理だと思ったそうです。ご主人は実業団でスポーツを続けてきたほど立派な体格で、小柄な遠山さんにとっては負担だったようです。引っ越す体力のあるうちに、すべてを片づけようと決心したと。ご主人も遠山さんがいなければ何もできないのがわかっているからか、引っ越すことに特に反対はしなかったそうです」

 ずっと専業主婦で、なんでも夫に従っていたという遠山さんのどこにそんな強さと行動力があったのだろうと思うほどの決断だった。

「遠山さんはどこに住もうかと考え、遠山さんの長男が住む、この街を選んだそうです。長男のマンションから車で5分ほどのアパートを探し、青森の自宅を処分し、引っ越しの荷造りも全部1人でやったとおっしゃっていました。たくさんの思い出の物も、感傷に浸っている暇もなく、ほとんど捨ててしまったと。気丈におっしゃっていましたが、精神的にも肉体的にも、それは大変だっただろうと思います」

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