カルチャー
『稼がない男。』著者インタビュー

結婚も同棲も選ばないカップルが手にした、「世間に認められる」より得難いもの

2014/01/04 21:00

――仕事についてはどうでしょうか。マキエはフリーライターをやって生きていこうと決心した時、「世間から負け犬と言われようと、バカといわれようとも、そんなことはどうでもいい」と決意しました。実際に「負け犬」などのにレッテルを貼られたり、言われた経験があるんですか?

西園寺 実際に言われたことはないです。ただ、自分が「非正規雇用・未婚」という、私と同世代の人が思い描く標準的な幸せと異なる選択をしたことで、折にふれ「正規雇用・結婚」というマジョリティサイド、いわゆる「世間」を意識してしまうところは確かにあります。「世間が何だ」と言いたい気持ちと「世間や社会に自分を認めてほしい」という矛盾する気持ちの間は行ったり来たりですね。生活に不安を感じた時は特にそうなりがちです。「世間の声」は完全にはなくならないでしょうね。

――自分の中にある、「正社員じゃなきゃ」「自活しなきゃ」「結婚しなきゃ」「子どもを生まなきゃ」などの世間の声は、自分を鼓舞することもあるかもしれませんが、自分自身や、他者を傷つけるケースもありますね。

西園寺 「世間の声」に無理に自分を合わせようとして、本来の自分らしさを見失っている人が結構いるような気がします。テレビやネットがそういう空気を作っているところもあると思います。私の場合、「世間の声」とはまったく別の階層として、実際の友人たちから自分とヨシオとの関係性を認めてもらえたことが、とても力になりました。友人たちに理解してもらえたことで、迷いに決着が付いたり、楽になった部分は大きいです。ですから、人生において信頼のおける友人関係を築くというのは、「世間の声」に踊らされないためにも、とても大切なことのような気がしています。

――最後に、ヨシオと絵についてどう思いますか? ヨシオは「絵描き」を名乗るわりに年に数枚しか絵を描きません。個展を開く、売り込みにいくなどの営業もしません。絵で稼ぐつもりがないなら趣味といえばいいのにそれもしません。

西園寺 絵については、私にもいまだによくわかりません(笑)。ただ、私自身はヨシオに絵は趣味だ、と言ってほしくないところはありますね。

――それはなぜですか?

西園寺 ヨシオにとって絵は「趣味」のように軽い感じのものではなく、もっと重いものなんです。それに、ヨシオが「絵は趣味だ」といってしまったら、つまらないというか、収まりがよすぎる気がします。もっと不安定で、よくわからないから楽しい部分もあるんじゃないかなと。これは正規雇用に就かず、結婚もしなかった、つまりマジョリティ側に行かなかったヨシオや自分の生き方に重なる部分でもありますね。先も決まっていなくて、不安定で、不安だけれど、それゆえにどうなるかわからない面白さもあるのだと思います。

『稼がない男。』
「気楽なフリーター生活ができるのは、若いうちだけ」。そんな世間の声をよそに、気づけば47歳。月の手取りは11万円。そんなヨシオと、結婚せず、同棲もせずに付き合ってきた、フリーライター・マキエが描く、2人の17年の姿。
(インタビュー:石徹白 未亜)

最終更新:2014/05/30 16:57
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