オリーブ世代と90年代生まれが受容する、「Olive」の女子カルチャーの“あり方”
「ピクニックに行ったら紙コップを帽子にしてみよう!」と、アイディア帽子を被ったり、「私だけのうれしい手作りトランクス」と題してトランクスにレースをつけてみたり、手描きのTシャツを着た読者が「さすが高レベル!」とたたえられ、ファッションスナップでプリンセスに選ばれたり。1980~90年代に少女たちを魅了した雑誌「オリーブ」(マガジンハウス)には、個性的なファッションの数々が、独特のガーリーな世界観でラッピングされたページが満載だった。独自の感性で着こなすことを良しとする「オリーブ」のDNAは、読者の想像力とクリエイティビティを鮮烈に刺激し、やがて多くの「オリーブ少女」が生まれた。
金沢21世紀美術館キュレーターであり、昨年「オリーブ」の魅力を振り返る『Olive 1982-2003 雑誌「オリーブ」のクリエイティビティ』展を企画した高橋律子さんも、その1人。「私の感性はオリーブでできている」と語る元オリーブ少女だ。その高橋さんによる講演『ガールズカルチャーの「読むこと」「描くこと」「語ること」~「美術趣味」の時代、「オリーブ」、そして今~』が、VACANT課外授業として渋谷パルコで行われた。
「昨年12月に発売されたカルチャー誌『spoon.』(プレビジョン)の1990年代生まれ女子の特集を読んでいたら、『お母さんはオリーブ少女』という一文を発見して衝撃が走りました。そうか、元オリーブ少女だった母親によって育てられた90年代生まれの女の子たちは、『オリーブ』を愛読して育ったのだ、オリーブ少女の文脈は、脈々と受け継がれているんだ、と感慨深かったです」
高橋さんは、「spoon.」の一文を参考資料として参加者たちに紹介した。「彼女たちはお母さんが80年代後半から90年代前半の雑誌文化全盛の当事者だったからでしょうか。母親がとっておいた昔のオリーブを愛読したり、YouTubeで過去の時代のエッセンスがつまったミュージックビデオをどんどん吸収したりして、自然に時を駆ける少女化が進んでいたのです」(「spoon.」2012年12月号)
リアルオリーブ世代と、90年代生まれ世代。同じ「オリーブ」を受容するにしても、その構図が異なることにも気がついたという。リアルオリーブ世代は、実際にページをめくりながら、一つひとつのコンテンツに胸を躍らせた“コンテンツ受容”型。一方、90年代生まれ女子は、「オリーブ」がカワイイの原点・教祖であることを前提に読んでいる“コンセプト受容”型であるとし、「これは、私の世代で言えば映画が近いと思います。レンタルビデオ店で、小津安二郎やタルコフスキーの作品もチェックして、エッセンスを吸収しておきたいっていう感覚に似ている」と分析した。
では、90年代生まれの女子は、具体的に「オリーブ」のコンセプトをどのように受容しているのだろう? 手がかりは、同じく「spoon.」に掲載された90年代生まれの東大生イラストレイター・ライターの大石蘭さんによる、90年代生まれ女子の特徴をまとめたプロファイルにあった。
「彼女の分析に、『90年代生まれは何でも屋さん』『ないなら作ればいいじゃん』という項目がある。『技術、文化、音楽、服飾、多くのジャンルにおいて修行し表現する。やりたいことが混乱しているのではなく、手を出していることすべてが自分のやりたいことのために必要だから』とありますが、これはすごくオリーブ少女っぽい感覚。女子にとってはセンス自体が重要で、それがどんなジャンルに属するかはあまり意味がない。オリーブ少女ならではの、『何でもやりたがり』の文脈にあるかもしれません」
1991年に「オリーブ」で『かわいい悪趣味』という特集が組まれ、少女の持つ「毒」がクリエイションのスパイスだと紹介されていた。いまや、全てのクリエイションの大前提に「かわいい」という絶対的な価値観が存在し、そこにプラスαで何をするかで、その人のオリジナリティが見えてくると説明し、91年に提示された「かわいい+毒」のクリエイションは、現在も変わらぬ女子カルチャーのあり方だと語った。
■「かわいい」は自分で見つけると気づかせる
そして、講演は後半戦に突入。作家で漫画家の小林エリカさんが登壇し、対談が始まった。高橋さんの話を聞く中で、「オリーブ」を読んでいた頃を思い出したという小林さんは、パリ(ジェンヌ)のスナップで、絵を描く筆で髪の毛を結っているパリジェンヌの写真に感動したことを振り返った。
「私には12歳年の離れた姉がいるんですが、彼女が90年代当時、バブル全盛期の格好をしていたことも手伝って、ブランドに憧れる気持ちが私にもありました。しかし一方で、筆もOKなんだと知ったことで、すごくホッとしたんです。そうか、皆が共通にカワイイと思っているカワイイじゃなくて、ワタシが見つけたカワイイがカワイイよね! と自信を持って言っていいのかって! まあ、実際にパリに行っても、筆で髪を結っている人は1人もいないんですけどね(笑)。私はヴィトンは持てないけど、筆なら挿せるかも! といった自己肯定感を与えてくれました」(小林)
また、高橋さんと小林さんから見た、現在のガールズクリエイターの作品についての意見も述べられた。「いまは、内面がファッションになっちゃっているというか、自分の汚らしい部分も表現しちゃわなきゃという感覚、悪趣味な部分が前面に出過ぎている気もする。もっと、キレイなものを、キレイなものとして突き詰めていけば、女子の内面の深いところまで行き着いたクリエーションになって、もっと面白いのかなと思います」と高橋さんは話し、「やっぱり90年代生まれのクリエイターは自由で、羨ましかったです。高橋さんのお話しされていた、ジャンルにこだわらない表現がナチュラルにできていて。私は、自由に描くとしても、まず絵はキャンパスに描かなきゃ、マンガはマンガらしく、ってとこを乗り越えるところから始めなきゃならないので」と、小林さんは同じクリエイターからの視点で語った。
リアルな「オリーブ」世代と90年代生まれの女の子。世代が異なれど、クリエイションの感覚が脈々と受け継がれているのは、「オリーブ」がただのファション誌ではなく、女子カルチャーを育て伝える豊かな土壌となっていたからだろう。最後に高橋さんは、「私は、90年代生まれの女の子と、これから一緒に何かを作っていく機会も増えてくるんだろうなという気運を感じています。これから、女性が、女の子が、どんな物作りをしていくのかが、すごく楽しみです」と期待を語った。新しい女子カルチャーの萌芽はすでに育まれているようだ。
(取材・文=城リユア)