サイゾーウーマンカルチャースポット「ガーリーカルチャー」の本当の魅力とは? 林央子が語る過去と現在 カルチャー 『拡張するファッション』刊行記念トークイベント 「ガーリーカルチャー」の本当の魅力とは? 林央子が語る過去と現在 2011/06/26 17:00 インタビュー 机の上には「Olive」のバックナンバーが用意された 林央子(はやし・なかこ)氏の最新刊『拡張するファッション』(ブルース・インターアクションズ)の刊行を記念して「ガーリーカルチャーのエッセンス」と題するイベントが、2011年6月3日に渋谷にある書店兼出版社、SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS)で開催された。 トークは、林が著書のなかでもガーリーカルチャーの源流として紹介している、90年代初頭にアメリカで発生した女たちのムーブメントの話題からはじまった。新たなフェミニズム運動のスタイルとなった「ライオットガール(Riot Grrrl)」と呼ばれる動きだ。これはガールズバンドが起こしたムーブメントであり、フェミニスト活動と、同性愛の権利を求める運動(レズビアニズム)の二つを標榜していたが、その活動は彼女たちの素直な欲望と、思春期に必ず訪れる身体的違和感と向き合った素朴な表現活動だった。楽器を触ったことのないような少女がバンドで叫び、その歌詞が共感される。70年代のフェミニズムとは一線を画した次世代的な動きではあったが、アメリカを経由して、まさしく90年代から現在にみられる日本のひとつのカルチャー、クリエイティビティとしての「ガーリー」につながっている。 日本のガーリーを表象するクリエイターのひとり、HIROMIXが世の中に登場した時、林は「時代が待っていたというよりは、彼女の個性がそれ以外にはありえない形を見つけて世に出てきた」という印象を持ったという。コンパクトカメラで日常の生活の雰囲気を切り取る彼女のスタイルは鮮烈な印象をシーンに与えた。そして育児をしながら写真を撮り続け、女子の写真家ブームを牽引し育てたともいえる長島有里枝の活動……。男性だらけのクリエイティブシーンにカメラという表現ツールで登場した彼女たちは「ガーリーフォト」という言葉をも生み出した。 林は、「自発性」と「マルチクリエイティビティ」に支えられた表現活動であることが、「ガーリー」の特徴であるという。簡単に、即、表現できる手軽な手段を使うこと。バンド活動でも、映画でも、ファッションでも「やってみたい!」と思うことを、流行を待たずに次々と実現してゆくため、おのずと彼女たちの活動の範囲は、さまざまなジャンルにおよぶ。自分の生活の中で自然にあふれてくるクリエイティビティがガーリーの本来の姿なのだ。現在では映画監督として知られるソフィア・コッポラが自身のロールモデルとして敬愛する、ファッションブランド「X-Girl」の立役者でもあるキム・ゴードンは、ガーリーとは「可能性に満ちた未熟な少女が、力強く自己実現しようとする過程」であり、またその「多義性」こそが魅力であるという。 このイベントで林が紹介した「ガーリー」の流れをくむ2011年現在の表現者の作品は、確かに枠にとらわれていないし、とにかく生々しい。東京都現代美術館の展示で注目をあつめ、世界でも活躍が期待されている25歳のアーティスト「スプツニ子!」は、みずから「サイボーグフェミニスト」を名乗る。「フェミニズムは暗い、自分は明るくてポップな表現をしたい」と、自己を定義付けている。音楽をともなう映像作品「生理マシーン、タカシの場合。」は、好きな男の子に「生理の痛み」について理解して欲しいという、女子の肉体に根ざした思いが根底にあり、生理を体験する機械「生理マシーン」を装着している男子というストーリーだ。その物語の中身もさることながら、YouTubeに新作を発表する中で作家としてスプツニ子!が社会に見出されてゆくプロセスも、どこか日常生活の延長がそのままアーティストとして認知されていく印象を受ける。 また、林氏は最近注目の作家として、小林エリカを絶賛する。小林エリカの新著、『親愛なるキティーたちへ』(リトルモア)で展開される、アンネ・フランクの日記と小林の実父の日記、そして実際に旅をしながら綴られる、小林自身の日記を組み合わせていくという執筆方法も、シンプルでありながらガーリー的だという。注目すべきなのは、文章のところどころに生理現象がさし込まれていること。記述は淡々としながらも、食事シーンなどにビビッドな表現をさしこみながら、戦争というテーマと向き合っている。難しい教養が含まれているものではないけれど、生活的で身体に密着したところから発せられる、憧れや旅先での思索は、まさにアンネ・フランクが記した、思春期を迎えた自分の身体の変化や、成長の記録と重なる。 林が紹介する女性たちを見ていくと、年齢を問わず、彼女たちの表現には「境界」と呼べるものがほとんどない。むしろ、その境界をいつわりなく行き来する姿勢がガーリーカルチャーのエッセンスなのかもしれない。さらに、クリエイティビティやカルチャーに終わらない、「ガーリーとは生き方の追求だった」という林の言葉が示すように、だからこそ私たちは彼女たちに魅せられているのかもしれない。 ※ ソフィア・コッポラ:1971年生まれ。女優、モデル、ファションデザイナー、フォトグラファー、映画監督と活動は多岐に渡る。94年にファッションブランド「MILK FED.」を立ち上げる。98年に映画監督デビュー。03年の『ロストイントランスレーション』でアカデミー脚本賞などを受賞。10年に映画『SOMEWHERE』でヴェネチア国際映画祭で金獅子賞受賞。 ※キム・ゴードン:1953年ロサンゼルス生まれ。ミュージシャン、アーティスト。90年代のグランジ、オルタナティブシーンに影響を与えたバンド「Sonic Youth」のベーシスト。94年にファッションブランド「X-girl」の立ち上げ時にデサイナーを務めた。アメリカのガーリームーブメントのゴッドマザー的存在。 ■林央子 1966年生まれ。資生堂企業文化誌『花椿』編集部を経て、現在フリーの編集者。『GINZA』(マガジンハウス)などの雑誌等に執筆。02年、服部一成をADに迎え、バイリンガルのインディペンデントマガジン『here and there』を刊行、2010年には10号が発行された。ファッションやアート、カルチャーのジャンルを自由に横断しながら執筆活動を続け、日本におけるガーリーカルチャーの読解を実践し続けている。 ■SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS) 渋谷区神山町にある、出版社兼書店として、08年から営業。「そこで作って、そこで売る」をコンセプトに、書店営業だけでなく、出版事業、トークイベントや、ワークショップや添削講座などのスクール事業などを行う。また自社媒体として雑誌『ROCKS』の発行も行っている。 公式サイト 『拡張するファッション アート、ガーリー、D.I.Y.、ZINE……』 詳しくはこちらで 【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます】 ・「セゾン文化」の証人・永江朗が語る、2010年代、文化と風俗のありか ・「an・an」「Olive」から見た、”かわいいカルチャー”の源流 ・女子カルチャーの衰退か躍進か? 東京ガールズコレクションが示す現在地 最終更新:2013/04/04 00:34 次の記事 嵐・櫻井翔主演、『神様のカルテ』劇場鑑賞券を5名にプレゼント! >