カルチャー
[連載]マンガ・日本メイ作劇場第32回

ヒロイン=非処女が前提になった、少女漫画における「セックス」の意味

2013/11/16 19:00

 『新東京廓恋酔夢』第一弾のヒーローは古川さま。頬までかかる眼帯で片眼を隠した性欲もりもりのイケメンである。キャプテンハーロックみたいなマントとコートを着込んで、なぜか未来なのに日本刀ブンブン振り回して人をぶった切る機動警察という職務にお就きです。クールな顔して遊女2人連れ込んで3Pしたりしてます。次々と違う遊女を指名するのに、主人公のあやめのことは指名してくれない。なんやかんややって、ようやく指名してくれたのに、今度は抱いてくれない。どうして? と思うと古川さま、「アンタを抱くのは簡単だ。――だけどオレはアンタの心が欲しい」んだそう。いやー、この手のセリフ、少女漫画でよくあるけど、男の側からしたら、簡単に抱けるのなら、その方が都合がいいはずじゃん! リアルにはそんなのいないから要注意だよ! まあでもリアルにはいない、希少価値の高いことを言うから、少女漫画のヒーローなんだけどね。

 70年代の少女漫画では、男とセックスするのには一大決心が必要で、重苦しく重大なことだった。『ベルサイユのばら』(集英社)のオスカル様なんか、アンドレとしただけで「生まれてきてよかった……!」とか叫んでますよ。しかも革命前夜、明日死ぬかもしれない状態になって初めての一夜。それまでアンドレに押し倒されたりしたって、静かに涙を流して拒否をしてきたオスカル様がですよ。当時、セックスは愛情表現の最上級行為だったわけだ(アンドレは、よそでさっさと済ませてたらしいけどさ)。

 一方、最近の少女漫画には、「援交だのなんだので体は汚れちゃったけど、そんなあたしを認めてくれるステキな男性が現れたのでやっちゃいます」というのがよくある。「あたしってダメな女の子だけど、それを理解し認めてくれるステキな男性がきっと現れるよ!」という少女漫画お得意の夢のあるパターンは、最近こんなところで発揮されるようになったのですわ。それは、読者がすでに非処女だという前提なのね。つまり今さら「セックスは愛する人と一生に一度覚悟を決めてやるものです」とか言ったところで、「あたしにはもう関係ないや」と読者の共感を得るどころか、「今さらそんなことを言われたって」と不快な思いをさせる可能性が高くなってきたのでしょう。

 この『新東京廓恋酔夢』もその1つ。うーん、設定が遊郭だから、不特定多数とセックスするのは仕方がないってことだけど、どちらにしても読者には性を軽々しく扱っているようにしか見えないんだよな。そりゃそうか、時代物にしなかった時点で、結局は読者へのサービスシーンが目的ってことだから。 ここはひとつ、深いことは考えずに、みんな一緒にはあはあしましょってことで。

■メイ作判定
名作:メイ作=2:8

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター、少女漫画研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。街で見かけたおかしな英文から英語を学ぶ「Henglish」主宰。

最終更新:2014/04/01 11:13
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