サイゾーウーマンカルチャー漫画レビュー『彼氏はドーベルマン』、忠犬彼氏にエロをまぶしておかしなことに! カルチャー [連載]マンガ・日本メイ作劇場第18回 『彼氏はドーベルマン』、忠犬彼氏にエロをまぶしておかしなことに! 2012/01/27 17:00 マンガ・日本メイ作劇場 『彼氏はドーベルマン』(西城綾乃、小学館) ――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史にさんぜんと輝く「迷」作を、ひもといていきます。 「恥ずかしい話」といって、たいていの人が思いつくのは、「勘違いしちゃった話」だろう。それも、「自分に都合のいい方に勘違いしちゃった話」が一番恥ずかしい。恋人に振られたのに「私のためを思って別れ話してるのよね」とか妄想大爆発でつきまとったり、アイドルのコンサートに行って「今、翔くんと目が合った!」みたいな。まあ人に話せる「恥ずかしい話」は、せいぜいおつりを間違えた程度の話で、ここまで痛々しい話はあまり人には話さないかもしれないですが。 『彼氏はドーベルマン』(西城綾乃、小学館)という短編がある。タイトルの通り、ドーベルマンを彼氏にする話である。『ネオ・ドーベルマン』(清水玲子)という読み切り作品も、同じくドーベルマンを彼氏にする話だが、こちらは垂涎モノの面白さである。ドーベルマンの彼氏は、犬のときには犬の彼女がいてプレイドッグな感じなんだけど、好きなのは飼い主である主人公。危なくなったら危険を冒して助けに来てくれて、クールで知的で、頼れるお兄さんみたい。こんな犬なら今すぐ飼いたい。 しかしこの『彼氏はドーベルマン』は、せっかく凛々しく従順なドーベルマンを彼氏にしているのに、なんだかものすごく気持ちの悪い話なのである。 話は、友達と上手くいってない高校生のみつこ(最近の少女マンガはこういう話ばっかりだな)が、とある廃墟の洋館でどう猛なドーベルマンのクロ(黒い犬だからクロ。愛情の感じられない名前だなあ)にいきなり猛烈に好かれるところから始まる。そして問題は、そのクロは実は100年も前に「瞳」という女に飼われていた犬で、人間に変身できるようになった化け犬だったというところ。 クロは、その瞳にそっくりなみつこを飼い主だと思い込み、「僕、人間になったから結婚して」と言って、みつこに抱きつき、顔を舐め、激しくキスをする。そのたびにみつこは顔を赤らめちゃってドキドキしたりして感じちゃう。確かにクロは、みつこに「結婚しよう」「ずっと一緒にいて」などと萌え台詞を連チャンで吐く。 しかしこのクロ、みつこのことをずっと「瞳」と呼び続けたりして、ちょっと頭が弱そうな感じなのだ。人間に化けてるとはいえ、犬だけに精神年齢3~4歳という感じ。「結婚しよう」の萌え台詞も、読者には「おとなになったらママとけっこんするー!」レベルに聞こえるのである。酸いも甘いも噛み分けて、それでも一途に慕ってくれるならまだしも、相手は分別も生活力もなさそうな子どもなのだ。みつこ、大丈夫か? 子どもの「大好き」を真に受けて「彼氏です」とか言っちゃってるイタイ人みたいに見えるよ。 クロが顔を舐めるのも、そりゃ犬だから。だけど、それにいちいちみつこは反応してしまうのだ。なんかそれってバター……いや、なんでもないです。 少女マンガで彼氏を動物に例えるなら、間違いなく犬だ。飼い主に忠実で、まっすぐで、頭がよくて、ひたむき。確かにこんな彼氏がいたら最高でしょう。だけどこの作品では残念ながら、大きな間違いを犯している。彼氏を犬に例える場合、女はそこにエロを求めていないのである。 女がセックスを純粋な愛の表現だと思うことなど、現実ではほぼないと言っていい。セックスさえしなければ、恋愛に関する女の傷なんか、バンドエイドもいらないかすり傷程度なのだ。性というイヤな部分を取っ払って、傷つくことなく恋愛を楽しむコツが、セックスという見返りを求めない「忠犬彼氏」なのだ。要はそこにエロを介入させてはいけないのである。 にもかかわらずこの作品においては、クロが人間に変身すると、いきなり全裸なのである。ここがもういかがわしい。犬のクロがペロペロとみつこの顔を舐めている最中に、なんだか知らないけど突然全裸の男に変身。その度にみつこは真っ赤になったり驚いたりドキドキしたりしている。こう描かれると、まるで女が飼い犬にそうなって欲しいと欲情してるみたいじゃないか。それ、すごく需要少なそうだけど? せっかく、「忠犬彼氏」「輪廻転生」と女の好きなテーマを入れ込んでいるにもかかわらず、犬が人間に変身したら全裸男という、割とどうでもいい部分だけリアルにしたおかげで、全部が台無しになってしまっているのである。そして、犬の頭脳はやっぱり4歳児並でした、というところもやっぱりリアルなのに、それにいちいち欲情しているみつこは、読者に「あたし、こいつよりはもう少しまともだから」と思わせてしまうのである。 エロと犬は、正しく使わないと、決して萌えにはならないのである。残念。 ■メイ作判定 迷作:名作=10:0 和久井香菜子(わくい・かなこ) ライター・イラストレーター。女性向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。 『彼氏はドーベルマン』 小学館のマンガは基本エロの使い方を間違えてるよね 【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでます】 ・少女マンガにおける、「女の性の解放」と「男の処女性信奉」の落としどころ ・男はもう女を救わない、少女マンガとして夢を与えることを放棄した『こころ』 ・『Theチェリー・プロジェクト』に見る、スポ根マンガ+恋愛の限界 最終更新:2014/04/01 11:35 次の記事 主演ドラマで「シドー」と連呼する竹内結子の豪胆さ >