海外
[連載]海外ドラマの向こうガワ

史上最もスキャンダラスなローマ教皇? 田舎貴族の上昇志向を描いた『ボルジア家』

2013/09/16 14:30

 実は、このロドリーゴ率いるボルジア家は、スペインのバレンシア地方のイチ田舎貴族だった。僧侶だったロドリーゴは、どんな汚い手を使ってでも権力を手に入れる欲の塊のような男であり、教皇に就いてからも身内で婚姻関係を結び、陰湿な悪徳行為を繰り返し、権力を揺るぎないものとした。アレクサンデルという名は、古代世界の征服者アレクサンダー大王にちなんで選んだもの。前代未聞のサクセスストーリーなのだが、上昇志向の強いアメリカ人は「ひどい」と思いつつも、強い興味を抱くようになったのだ。

 ボルジア一族を演じる役者たちだが、演技力はもちろんのこと、誰もがとても美しい。ボルジア家は遺伝子的に美男美女が生まれる美貌の血統だったと伝えられているのを、忠実に再現したのである。彼らが身にまとう衣装も絵画から抜け出してきたのかと思うほど鮮やかで美しいのだが、それもそのはず。衣装を担当したガブリエラ・ペスクッチは、『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』(1993)でアカデミー衣装デザイン賞を受賞している、映画界きっての衣装デザイナーなのだ。彼女の手がける衣装には定評があり、この作品でもその才能を十二分に発揮。この作品でエミー賞衣装デザイン賞を獲得している。

 大河ドラマの成功の鍵を握るのは製作費だという説があるが、本作品の製作費は、なんと破格の50億円。ファースト・シーズンは全9話で構成されているため、この製作費は当時のきらびやかな世界を再現するために必要な、重厚なセットに惜しみなく費やされた。そして、『クライング・ゲーム』(92)でアカデミー脚本賞を受賞している監督ニール・ジョーダン自ら執筆した第1話と第2話で、がっちりと心をつかみ、視聴者を獲得。アメリカ人が強い関心を抱いているローマ教皇の中でも、最もあくどいアレクサンデル6世を題材に、アメリカ国外のドラマのファンからも支持を得たのである。

 米ニューヨーク・ポスト紙が、レビュー記事で「『THE TUDORS~背徳の王冠~』がお遊戯に見えるほど、『ボルジア家』は本格的で素晴らしい」と評したほど。史上最悪の教皇がいかにして世を支配していったのか、メロドラマを超えるドロドロの愛憎劇を堪能しながら、学んでほしい。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国→台湾を経て、現在は日本に帰国。数年後に来るだろう海外生活を前に、日本での生活を満喫中。

最終更新:2013/10/10 13:29
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