摂食障害との合併、高い再犯率……知られざる「窃盗癖」という病
――「赤城高原ホスピタル」では、治療中に患者が万引きした場合、迷惑料を添えて返却・返金させていますね。店側の反応は、どういったものなんでしょうか?
竹村 病院の近くの店に、患者本人には怒らず、「患者に付き添いをつけろ、なんでこんな患者を1人で外出させるんだ」と看護師に怒る人がいます。そうすると、看護師の後ろで加害者はいたたまれなくなり、帰りがけにポロポロ泣いて看護師に謝るということです。それが治療的に有効なんです。
別の店では、患者が謝罪文を読み上げたら、お店のオーナーのおじいちゃんが自分の孫とイメージが重なったのか、「いいからいいから、お金がなかったら貸してあげるから」と泣きだしてしまい、加害者ももらい泣きしたそうです。そういったいろんな体験を通して、“窃盗には被害者がいる”ということを体験として理解させることが大切なんです。窃盗しているうちに加害者の中ではそれがゲームになり、被害者がいないと思っていますから。窃盗癖は薬が効くわけでも、手術が効くわけでも、説教が効くわけでもない。嗜癖対象の代わりに、健康な人間関係をいっぱい埋め込むしかないんです。
――窃盗癖を治療する立場として、社会にどういったサポートを望みますか?
竹村 こういう病気があるということを知ってほしいですね。簡単ではないけど、辛抱強く治療すれば治ります。ただ、司法システムが窃盗癖に関しては機能していない。窃盗癖患者は早くに司法判断が下ると、それに安心してしまって本気で治療をしようと思わないんです。在宅状態で警察・検察の「呼び出し」を待つ期間や、裁判進行中などの司法判断待ちの状況では、危機感を覚えて本気でなんとかしようと思うので、最善の治療チャンスです。患者さんによっては、この時以外に治療のタイミングがない。なので、最近では弁護士と連携して、なるべく司法判断待ちの期間を長引かせるような方針を採っています。それでも、治療が必要な人の8割がドロップアウトする。そのぐらい完治に根気のいる病気なんです。
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竹村氏は週に1度、「京橋メンタルクリニック」でも外来診療を行っており、赤城高原ホスピタルとクリニックの両施設で常習窃盗患者の登録を始めたところ、症例数は平成20年1月からの5年半で720人を超えたという。患者の中には、家族・親族から絶縁されている者、絶望のあまり自殺を考える者も多い。一刻も早い、窃盗癖の研究と正しい認知、そして刑事罰だけではない有効な治療システムの整備が望まれる。
(インタビュー・文=小島かほり)
『彼女たちはなぜ万引きがやめられないのか? 窃盗癖という病』(河村重実・著、竹村道夫・監修、飛鳥新社)
著者の親族に窃盗癖と疑わしき言動が見られたことから、窃盗癖や合併症の1つである摂食障害、多重嗜癖の仕組みをさまざまな文献や赤城高原ホスピタルで治療中の患者へのインタビューからひもといた。窃盗癖の治療だけでなく法律問題、弁護活動など、いまだシステム化されていない窃盗癖に関する対応の中で、モデルとなり得る手法が多く掲載されている。