摂食障害との合併、高い再犯率……知られざる「窃盗癖」という病
――竹村院長は、摂食障害の人が窃盗癖に陥る根本にある心理を、「溜めこみ」と指摘されていますね。
竹村 摂食障害の人、特に過食症の人は溜めこみが多い。食べるものがないという状況が彼女たちにとってはものすごい恐怖で、冷蔵庫が物であふれているんです。それは食品だけじゃなく、ピアスを200個以上、折りたたみ傘を30本近く持っている人も。生理的な飢えと心理的な涸渇感を埋めるために、予備を手元に置きたがり、それがさらに予備の予備、予備の予備の予備を溜めこむというようにエスカレートします。これが“溜めこみマインド”です。ただ、生活空間には限りがあるので、欲求があっても実行できない人もいます。溜めこみたい物の中には生活資金もありますから、お金を払わずに物を手に入れようと窃盗するケースも多いのだと考えます。単に、おなかがすいたから食べ物を盗むということではない。拒食症の人も、過食症の人ほどではないけど、溜めこみマインドと窃盗癖はありますからね。
――本書では盗んだものをオークションで売りさばき、落札者にお礼を言われることがうれしいという人もいましたね。
竹村 オークションで売る人もいるし、周りの人に配る人もいます。でもそれは経済的利益のためよりも、「あの人は気前がいい」という他人からの好意的評価を溜めこみたいんですよ。
――それは、窃盗癖者の多くは自己評価が低いということでしょうか?
竹村 摂食障害の人は自己評価が低いことが多いので、それもあります。ただ、窃盗癖から回復した人に聞いてみると、私たちの想像以上に彼女たちは捕まっていない。そうすると、彼女たちにとって盗みは確率のいいギャンブルになり、ギャンブル依存に近いような感覚になるんでしょう。私の病院に来るのは日常生活に困るようになってからの人が多いですが、その頃にはほとんど自動的に手が出て盗んでいるように見えます。盗みだけが生きがいになっている人も結構いますね。それを治すのは容易ではない。
――本書でも「再犯は“するものだ”ぐらいの覚悟がないと、窃盗癖患者とはつき合っていられません」と書かれていましたね。
竹村 そうじゃないと身がもたない。治療を始めたからすぐに回復するなんてことではないんです。公判中に万引きで捕まったというニュースを見たら、なんていう常習犯だと思うでしょう? でも、それは病気なんです。ただ誤解しないでいただきたいのは、犯罪者を病気扱いすることで免罪符を与えているわけではない。私は病気だから責任がないと言ってるわけじゃなく、罪は罰しなければならないけれど、刑罰だけでは再犯が防げないと考えているんです。刑務所に入れても、早ければ、仮出所から満期までの間に再犯します。