黒髪ブームは女が強い証し!? 日本史から読み解く、黒髪と日本女性の美意識
恩田 美しい髪は、神への最大限の尊敬の表現だったのかもしれませんね。髪は、神格化された神秘的なものである半面、恐ろしいものの表現にもなっていますよね。雪女や幽霊の絵では、髪が長くてボサボサの女が描かれている。髪には、尊敬と畏怖の念の両方の表現があるのでしょうか?
平松 日本は、いい神と悪い神って神と怨霊で表裏一体なので、そういう面もあるかもしれませんね。
■歴史を知って見通せるもの
平松 今年の初めに出た「ヘアモード」(女性モード社)という美容師さん向け雑誌の特集も、黒髪でした。そこでの内容は、日本人だから黒髪というわけではなく、黒というのも髪の色の1つだよというもの。僕は「日本人だから黒じゃなきゃいけない」ではなく、服を着替えるように、ほかの髪色を楽しんでいいと思います。ただ、日本人がなぜ黒髪を愛でてきたのか知ることで、よりファッションが楽しめますよね。普段やっているファッション、メイク、髪が昔といろいろつながっていることに気づけば、未来も見通せると思います。
恩田 染毛技術の発達により、さまざまな髪色を自由に選べる現在の私たちが、なぜいまだに黒髪を美しいと思うのか。その背景には黒髪を大切にし、愛でてきた先人たちの歴史があることを知ってほしいですね。桜の花の美しさが儚いように、平安時代の女性にとって、美しい黒髪でいられる時期も、また短かったのだと思います。だからこそ、髪を命のように大切にした。「髪は女の命」といいますが、同じ女性として、その姿勢は私も学びたいと思います。
平松 平安時代って、たかだか1200年くらい前じゃないですか。それくらいでは、人間の心理は変わらないんですよ。美や髪や化粧への思いは、ずっと変わらないものなんです。来年の商品の開発を考えるメーカーさんたちも、歴史を学ぶことで、女性が何を求めているのか、おのずと見えてくる部分があるでしょう。今の僕たちが最先端だと思うのではなく、過去とつながっていると思うと、それはそれで面白いと思うんです。
恩田 本日は、黒髪の美しさについて、歴史を超えて思いをはせることができました。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
平松隆円(ひらまつ・りゅうえん)
化粧心理学者、タイ国立チュラロンコーン大学専任講師。1980年滋賀県生まれ。2008年、世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。国際日本文化研究センター機関研究員(講師)や京都大学中核機関研究員などを経て現職。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。よそおいに関する研究で日本文化を解き明かしている。
06年に財団法人日本繊維製品消費科学奨励賞を、07年に佛教大学学術奨励賞を、11年に京都文化ベンチャーコンペティション日本経済新聞社賞を受賞。NTV「所さんの目がテン!」、CX「めざましどようび」、NHK「極める 中越典子の京美人学」など番組出演も多数。主著『化粧にみる日本文化』(水曜社)は、11年度関西大学入試問題に採用された。
恩田雅世(おんだ・まさよ)
コスメティックプランナー。数社の化粧品メーカーで化粧品の企画・開発に携わり独立。現在、フリーランスとして「ベルサイユのばらコスメ」開発プロジェクトの他、様々な化粧品の企画プロデュースに携わっている。コスメと女性心理に関する記事についての執筆も行っている。
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