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黒髪ブームは女が強い証し!? 日本史から読み解く、黒髪と日本女性の美意識

2013/06/06 21:00

■日本人が研ぎ澄ましてきた黒への美意識

恩田 先生の本にありましたが、黒髪に対する美意識は、平安時代から現在までそんなに変わっていないんですね。当時の女性にとっては、特に長さが重要だったようですが、毛量や艶にこだわるのは今も同じ。ただ、1つ違っているのは、今はカラーの1つとしての黒ですが、平安時代は白(白髪)か黒(黒髪)しかなかった。だからこそ、黒のニュアンスもいろいろあって、黒への意識が現在の比ではないほど高い。例えば植物に見立てた黒の色だったり、鳥の羽の色を模した黒など、黒の中に色がすごくある。日本人の並々ならない黒への思いと、とても繊細な美意識がうかがえます。

平松氏

平松 表現がたくさんあるということは、それだけ思い入れが強く、関心が高いことの表れですよね。自分の髪の色はほかの人とは違って、こういう黒なんだと主張したい思いがあったんだと思います。

恩田 その時代の日本人の髪色は、欧米のように髪色にはっきりとしたバリエーションがないし、カールもしていないので動きがないですよね。「静の美」というか、動かない中で美しさをどう表現するのか、そして見だしていくのかを考えると、繊細な中での美しさを磨かないと他者との差別化ができない。現代でもそうですけど、髪を美しくするには手入れも相当必要だし、こだわらないとキープできない。ましてやあの時代、髪を洗うのも乾かすのも大変なのに、艶も毛量も求められていた。どれだけ大変だったかと思います。そのこだわりや、美しい黒髪に対する憧れの念が、私たちのDNAに脈々と受け継がれているような気がします。

平松 だからこそ、美の基準となるんですよね。平安時代は、ウェーブのかかった髪は美しくないとされていた。しかし江戸時代になると一転、あえてウェーブを作ろうという動きになる。江戸中期は、人と違うことが粋という文化になってくるんです。

恩田 そういう意味では、平安時代の貴族の女性たちにとって黒髪ロングは、ある意味ステータスを表す道具であり、美の象徴でもあったんですね。人と違う個性を髪で表現するというよりは、職人的に美しい髪を追い求めた――「研ぎ澄まされた美意識の時代」なのかなと思いました。黒髪ロングに特化した美しさを追い求めていたからこそ、現在でも「黒髪」というと、この平安時代の女性がイメージされるんでしょうね。

■神への賛美でもあり、恐怖の象徴でもあった黒髪

恩田 黒髪の歴史を考察した本の中では、平安時代の女性が髪の毛を垂らすのは、顔を隠すためであるという解釈が多かったのですが、個人的に、ちょっとそれだけでは単純すぎるなと思っていました。なので、先生の本で、顔を隠すためという物理的な理由だけでなく、全てをさらけ出さない「恥じらう行為」そのものが女性を美しく引き立たせ、女性の神秘性をも引き出しているという解釈に、とても納得しました。髪は貞操観念に及ぶところもありますよね。先生が引用されている文献に、旦那になる人にしか髪を梳かさせないといった表現や、好きな人の髪を敷いて寝ると思いが通じるといった、いじらしい女心を表した記述もありました。古来から、髪には思いや念が入ると信じられていたようですね。

平松 愛する人に裏切られて、それこそ藁人形に髪を入れるとか(笑)。日本人は諸外国に比べて髪への思いが強いと思います。

恩田 呪術的というか(笑)。失恋したら髪を切るとか、今も名残がありますよね。そのほかにも髪が関係している歴史的記述はありますか?

平松 天照大御神が天岩戸に隠れた時、アメノウズメが裸踊りをしましたよね。「ウズ」というのは髪飾りという意味なんです。そういったことから、何かを舞う女性には、髪の美しさが求められていたのかなと思います。

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