甘くて柔らかいもの好きの「ガキ舌」女から、「薬味なしに生きられない」女になること
「え~~、ショウガ、やなんだ~~?」
「うん、ネギとかも、や~~~」
この、河西智美丸出し娘は、ワサビやショウガやネギだけでなく、もう薬味系全般が嫌いだと言っていた。
「だったら何で寿司屋なんかに来るんだよ!!」
私だけでなく、その場にいた全員がそう思ったに違いない。片方の女の子は割と普通に「コハダ下さ~~~い」などと食べてはいたが、薬味嫌いのもう片方は「卵焼きとか頼めばいいの~~~?」と、まったくラチのあかない状態であった。
そんなわけで。あの、河西智美ヅラの女の子は、生まれてこのかた「甘いお菓子しか食べた事がない」みたいな顔をしてたのであった。脳みそが、砂糖汁に漬け込まれてそうな感じなのであった。そのせいか知らないけど、人に「してあげる」のではなく「してもらう」事にしか興味がなさそうだった。もてなされる事が「普通」で「当然」。多分、料理なんてしないのだろう。作ったとしても、マズいものしか作れなそうである。でも、たとえそんな料理しか作れなかったとしても、自分は「許される」と思ってそうだった。彼女は、お菓子以外に、ハンバーガーやスパゲッティや、ふわとろのオムライスばかり食べてるみたいな顔してた。
食べ物に好き嫌いがあるのは仕方のない事だ。しかし、こういう女の子がもし、自分の仕事で担当になられたら、非常に困る。なぜなら、こういう味覚の子が、一緒に仕事をする上で「唸りたくなるほどにいい意見」を言ってくれるとは、到底思えないからだ。脳みそも「ふわとろ」に出来てそうだから、「スパイシーな、ピリっとヒネリのあるいいネタ」を提供してくれるようには絶対思えない。
とはいえ、かく言う私も実は、若い頃は味覚に関しては、どうしようもなく貧困であった。しかし、そんな自分を「カワイイ☆」とか思ってるフシがあった。「もうねぇすっごいガキ舌なの~~~☆」などと、今思えば赤面したくなるようなセリフを周囲に豪語していた。あの頃の私の頭の中は、「男に可愛がられる」とか「してあげる、じゃなくて、してもらう」で一杯だった。月日は流れ、ケッコンだのリコンだのシュッサンやらイクジとかやってたら、気が付けばすっかり「薬味がないと生きていけない体」になっていた。
今じゃ、家でカツオのたたきなんか食う時は、ネギだのみょうがだの大葉やショウガ、ニンニクの薬味を大量投入、カツオ食ってんだか薬味食ってんだかワケわかんねぇような状態に、ウットリ恍惚となるのであった。
ドヤ顔で「自称ガキ舌宣言」してた頃には想像もつかない変化である。焼き鳥を食う時に、山椒やゆず胡椒をぶっかけて、あまりのうまさに卒倒しそうになってる自分の方が、昔の自分よりはるかに好きだ。
ところで私は、白子とか、レバー、うに等のこってり濃厚系な食べ物が苦手である。このへんのものに、ねっとりと官能的に舌鼓を打てるようになったら、もっと色気のある作品が書けるようになるのだろうか?