カルチャー
[連載]ぶっちゃけ結婚ってどうですか?【乙武洋匡氏 前編】

乙武さんの提言「労働も家事・育児も大変、だからこそ互いの立場を想像しよう」

2013/04/12 11:45

――結婚当時、子どもはいつぐらいに欲しいかなどのライフプランは考えていましたか。

乙武 僕はすぐにでも欲しかったのですが、妻は「欲しくない」ということだったので、「5年後にまた話し合おう」と決めました。実は結婚自体、肝臓がんで闘病中だった親父を安心させたいという思いから決断した見切り発車的なものでもあったので、まあ子どもに関しては、そんなに焦る必要もないのかなと。親父は僕らが入籍した後、ひと月半後に亡くなりました。

――その後、お子さん2人に恵まれました。奥さんを、どのように説得したんですか。

乙武 特に説得はしてません。5年たって彼女が27歳になった時、自然と「子どもがいてもいいな」という気持ちになったみたいで。でも、子どもに僕の障害が遺伝したらどうしようと、不安に思う気持ちはあったみたいです。それは「こういう体だとかわいそう」という意味ではなく、僕の世話をしながら障害のある子どもを育てるとなると、物理的に家が回らないのではないかという現実的な話です。万が一遺伝したら、彼女1人に負担がかかる。「僕も手伝うから」なんて無責任なことは言えないので、「そこは考えて」と彼女の判断に任せました。

――子どもが生まれた後、夫婦がもめやすい点は教育の方針だと思いますが、乙武家ではいかがですか。

乙武 方針は基本的に同じです。食い違っても、2人で話し合います。家に帰ると妻が「今日、こんなことがあって、こう対応をした」と報告してくれますし、出張中でも電話やメールで連絡が来るので、それに対して「それはよかったね」とか「次はこうしてみるといいかもね」などと返答しています。妻も「ただしゃべりたい」というだけの時もあるので、そういう時は聞き流してますけど(笑)。

――夫婦で話し合う際のルールはありますか。

乙武 夫が子育てについて意見すると、主婦である妻は「そうはいっても四六時中一緒にいるのは私だし、言葉通りできたら苦労しないわよ」と感じると思うんですね。だから、何か言う時は「僕はあなたほど子どもと一緒にいるわけではないから何を言っても理想論かもしれないけど、少し距離がある人間だからこそ見えるものもあると思うから、参考意見として聞いてもらえたら」という言い方をするように心がけています。
 男性はプライドを捨てた方がいいですね。だいたい女性が言うことの方が正しいことが多いんですよ(笑)。自分で間違っているとわかっていても、女性に言い負かされたり、自分の非を認めることが男性は苦手。プライドを捨てて、夫婦のため、あるいは子どもの健全な成長のためにどちらの言っていることがプラスになるか、冷静に考えるように僕はしています。
 例えば料理で「おいしくない」と感じたとしても、「まずい」とそのまま言ったらカチンとくるでしょう。いったん「おいしかった」と肯定した上で、「次はもうちょっと塩を濃くしてみると、もっとおいしいかもね」という言い方をします。その方が相手は抵抗なく受け入れやすい。妻を思う気持ちがあるから、自然と思いやりのある言い方を心がけているのだと思います……なんて言うと、ちょっと気持ち悪いですが(笑)。
 
――そういうふうに互いに認め合うことが、結婚生活を続ける上でのポイントかもしれません。

乙武 うちは性格が正反対なので、かえって互いにリスペクトする気持ちがあるんです。例えば、妻は僕のように外を飛び回って人前で話をすることが絶対にできない内向的な性格なので、僕をリスペクトしてくれてるし、僕は家事と育児は物理的にできないし、たとえ手足があっても家の中でじっとしてることが性格的にできない。だから、妻をリスペクトしています。
 外で働くにしても、家事育児にしても、どちらも楽なわけない。自分のことしか見えないと「なんでこの大変さをわかってくれないんだろう」と不満がたまってしまいますよね。それで、相手の立場を考えずにその不満や愚痴をぶつけてしまうと、衝突するのかもしれません。
 ただ、一般的に共働き夫婦では、奥さんが働いているにもかかわらず旦那さんより家事や育児を負担しているケースが多くあって、奥さんの不満がたまる傾向にある気がします。それはフェアじゃない。

――妻の負担が大きくなるのは、夫が育ってきた家庭において母親が専業主婦で、それが当たり前だと思い込んでいるからかもしれません。夫は、その価値観が刷り込まれていることに気づいていない。

乙武 いや、多分気づいているけど、甘えているんでしょうね。奥さんが働いてきて疲れているのはわかるけど、その点は突き詰めずに、「なあなあのまま行きたい」というのが男の本音だと思います。2人とも働いているなら、家事も育児も分担すべき。僕に手足があったら、家事もしてるでしょうね。

(後編へ続く/構成 安楽由紀子)

乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)
1976年、東京都生まれ。大学在学中に出版した『五体不満足』(講談社)がベストセラーとなる。卒業後、スポーツライターとして活躍した後、杉並区立杉並第四小学校教諭に。教員時代の経験をもとに書いた初の小説『だいじょうぶ3組』(講談社)が映画化され、自身も出演。現在、地域との結びつきを重視する「まちの保育園」の運営に携わるほか、東京都教育委員として活動している。

最終更新:2013/04/12 11:45
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