コラム
[連載]安彦麻理絵のブスと女と人生と

女の数だけ「股間」がある——おばあさん産婦人科医の「女の股間と人生」

2013/03/24 21:00
(C)安彦麻理絵

 股間がかゆい。のっけからなんだが、かゆくて困っているのである。市販の、「女性向け股間用かゆみ止め」を塗ってみたが、さっぱり効かない。しかも、かゆいのは股間だけではない。目、顔。花粉のせいで、それこそもう、目なんて、ムヒをグリグリと入念に塗りこみたいほどに痒く涙目、目ヤニで常に腫れぼったくなっている。顔も、ガサガサに荒れて赤らばみ、気が付けばボリボリとかいてるような有様。とてもじゃないが、化粧なんてできるような状態ではない。顔と股間にここまで問題がある女に、新しい恋に出会う資格なんてないだろう(もとより、子持ち・夫持ちの私には、はじめからそんな資格はないのだが)。花粉症持ちの、独身の娘さんにとっては、つらい季節だろうと思う……春なのに、ブス。お花見シーズンなのに、ブス。どこかで新しい出会いが待ってるかもしれないのに、それなのに、ブス。外出時に顔面を覆うマスクは、私にとって「花粉よけ」というよりも「ブス隠し」として重宝している今日、この頃。

 先日「股間問題」にケリをつけたくて、久し振りに婦人科に行った。近所にあるのは知っていたが、今まで一度も行った事のない病院。待合室には若い女が一人、女性週刊誌を読んでいる。別に、体の不調なんてどこにもなさそうに見えるのだが、こんな場所にいるという事は、やはり、股間に何かしら問題を抱えているのだろう。クラミジアだの膣炎だの色々あるからねぇ~などと、人様の股間に思いを馳せながら、受付のおばさんに保険証を渡したら、いきなり大きな声で「今日はどうなさいましたー?」と、聞かれた。

「は!?」
「だから、今日はどうなさいました!?」

 すぐそばに、見ず知らずの女が聞き耳をたててるかもしれないのに、こんな場所で今、己の股間の問題点を、自己申告しなけりゃならないものなんだろうか? 確かドリフのコントでこんなやりとりがあったような、なかったような……。2~3秒の躊躇&絶句の後に、仕方なく「……かゆみが……」と、上ずった声で申し出たら「そうですか」とあっさり返答。そしてすかさず「こちらの用紙に、記入お願いしますね」と紙を渡された。そこには「本日の来院理由」を書くスペースがちゃんとあり、受付のおばさんが、一体何のために直接聞いてきたのか、さっぱりわからないのであった。

 そんなわけでその後、名前を呼ばれて診察室に入ってビックリした。なぜなら医者が、80歳はゆうに超えてるだろうと思われる高齢のおばあさんだったからだ。頭に毛糸の帽子をかぶり、耳には補聴器をつけている。私は「志村けんのドリフコントみたいな診察になったらどうしよう……」と、一瞬不安を感じたのだが、しかしそれも杞憂に終わった。おばあさんの女医さんは「まぁ~、あなた一度離婚なさってるの? ふっふっふ」「娘さんには、別れたダンナの悪口言っちゃダメよ~~、ふっふっふ」などと、いちいち「ふっふっふ」と、妙に色気を含んだ微笑みを織り交ぜて、世間話に花を咲かせてくる。……きっとこの人、少なくとも50年はこの仕事をやってるはずだ、と、私は思った。そう考えると、とにもかくにも、色んな、ほんとに色んな女の人生(と、股間)に出会ってきてるはず。

 『肉体の門』みたいな、かたせ梨乃を地でいくようなパンパンの股間も見てたりしたら、ちょっとすごい……そう思ったら、この、酸いも甘いも噛み分けたような女医さんを、ものすごく取材してみたい好奇心にかられた。

 さて、その後、診察台に横になって脚をおっぴろげて内診してもらったのだが。「こんな高齢のおばあさんに、陰部を診察されるって、そうそうないな」と、私は思った。しかも、「世間話をしながらの内診」である。

「あなた、お子さんはどちらの病院で産んだの~~??」
「あ~~、あそこの病院って、もう産科はやめちゃったのよねぇ~~」

 そして「わかる?ここが◯◯でこれが××なんだけどね、ここの部分が」などと、御丁寧に、アソコの実況中継までしてくれた……おばあさんからナマの実況中継。それにつけても、毎回毎回「内診」をされるたびに思うのだが、女のアソコの奥は、深い。アソコの入り口部分が「始発の東京駅」だとしたら、ポコチンという名の新幹線が入って到達する地点は、多分せいぜい「大宮」とか、そのあたりなのではないかと思う。病院での内診は、その「大宮」を通過して、「宇都宮」「郡山」もすっ飛び抜けて「福島」あたりまでグイ~~~っとくるもんだから、時には激痛も伴って、非常にビックリするわけである……「その先の日本へ・JR東日本」。婦人科で内診されるたびに、いつも私の頭には、このフレーズがよぎるのであった。

 てなわけで、とりあえず病院で出してもらった塗り薬が、あれだけしぶとかったかゆみを、なんとか鎮静させてくれた……。感謝の念とともに、あのおばあさんの女医さんが、いつまでも元気で仕事を続けられますように、と願ってしまう私である。そして、彼女に是非聞いてみたい質問がある。

「今までみてきた患者さんの中で、一番印象に残ってる女性ってどんな人でしたか?」

 きっと相当数の「女の股間と人生」をみてきた人である。そんな中で、一番印象に残ってる女なんだから、かなりの強者なのは間違いない。一体どんなふうに強者なのか……人生経験の浅い私には、ちょっと想像がつかないのが残念である。

最終更新:2019/05/21 16:25
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