[連載]悪女の履歴書

銀幕スターとの生活で膨らむ優越感……「高島家長男殺害」の少女

2013/03/30 19:00

■「私だけが愛されたい」佳子への歪んだ嫉妬心

 だがこの公演の2カ月の期間、高島家の状況は大きく変わっていた。美恵が忠夫の付き人をしている間、家の家事などが手薄になったことで、遠縁の69歳女性がお手伝いさんとして、また道夫が生まれたことで専任の看護婦・佳子が高島家で働き始めたことだ。特に佳子は道夫の専任であり看護婦資格を有していることもあって夫妻は信頼を寄せた。待望の、しかも最初の子どもは家族の中心であり宝物でもある。夫妻が道夫を溺愛し、そのために佳子を頼るのも当然の流れだった。しかし17歳の美恵はそうは思わなかった。「夫妻は佳子ばかりが可愛がって、自分はのけ者だ」と佳子に反感と嫉妬心を募らせた。さらに当時、高島夫妻は北南米に40日間の旅行を計画していた。当然付き人でもある自分も同行できるはずだと思っていたが、置いてきぼりだ。夫妻が佳子に「道夫ちゃんをよろしくね。お土産を買ってくるから」と話しているのを聞いてしまった。しかし、自分は何も言われない。お土産さえ買ってもらえない――。

 あまりに幼い感情、完全な逆恨みでもあるが、世間知らずの美恵は被害妄想を募らせていった。

「道夫ちゃんさえいなければ佳子は用なしになり、再び自分が寵愛される」と。

 美恵は道夫を可愛がっていたというが、それ以上に佳子に対する嫉妬心が大きく膨れていく。また不幸な偶然も重なった。美恵は犯行の数日前から風邪をひき、道夫に近づくことを禁じられていた。このことも美恵を追いつめていく。さらに犯行直前、美恵の部屋を佳子が覗いて「まだ寝ていないの」と声をかけているのだが、これを佳子の嫌がらせと感じてしまった。


 積もり積もった佳子に対する嫉妬心、その表裏一体の「高島夫妻に自分だけが信用され可愛がられたい」という歪んだ欲望がついに爆発する。昭和39年8月24日未明、美恵は佳子と添い寝していた道夫を抱きかかえ部屋を出た。しばらくあやすなどした後、浴槽に沈めて溺死させたのだ。世間は驚愕し、哀悼を捧げた。出棺の際、高島家の沿道にはファンなど1,000人以上の人垣ができた。

(後編につづく)

最終更新:2019/06/28 12:20
『高島忠夫の坊ぼん罷り通る』
一度芽生えた優越感は肥えるばかり