『最高の片思い』から18年、『泣くな、はらちゃん』に見る長瀬智也の吸収力
今回ツッコませていただくのは、『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)に主演中のTOKIO・長瀬智也。
ヒロインが描くマンガの世界から飛び出し、実体化して、ヒロインと恋に落ちるという主人公「はらちゃん」を、底抜けにピュアに演じている長瀬。マンガから現実の世界に出てきた「はらちゃん」は、見るもの聞くもの触れるものすべてが初めてのものばかり。別世界にきて、さまざまな未知のものに触れる様子は最初、ジャングルでワニと戦ってきた男がニューヨークに出てきて活躍する映画『クロコダイル・ダンディー』(1986)みたいだと思った。でも、言葉にならない魂の揺らぎのような感動を、顔をくしゃくしゃにして大きな体全体で表現する「はらちゃん」の姿を見るうちに、いつしか『奇跡の人』でヘレン・ケラーが水に触れて「ウォーター」と発したのは、こんな感じだったのだろうかなんて考えてしまう。
ジャニーズの演技派筆頭と言われる嵐・二宮和也とはまたまったく違うタイプながら、やはり演技派として知られる長瀬智也。でも、最初から味のある演技派だったわけではなく、振り返ってみると、デビュー翌年のドラマ『最高の片思い』(フジテレビ系、95)出演時などは、まだ中性的なルックスで、「キレイなおねえさん」のような雰囲気だった。注目を集めたのは、初主演ドラマ『白線流し』(TBS系、96)だろう。成績優秀だが、不幸な生い立ちのため、一人暮らしで働きながら定時制高校に通う、影のある役を見事に演じていた。次いで、『ふぞろいの林檎たちIV』(TBS系、97)で田舎から上京したばかりの朴訥な青年を演じた際、女性に対する不慣れな気遣い&強い訛りで放った「ピッツァとろうか」というセリフを聞いた時、そのあまりの自然さに、彼の演技力を確信した。
方言もめっぽう上手に聞こえただけに、もしかしたら耳が良いのかもしれない。ちなみに、歌唱力においても、ジャニーズの筆頭によく挙げられるが、改めて聞いてみると、デビュー当初などは決してうまい方とは思えない。歌のうまい歌手はそれなりにいても、長瀬のように、中島みゆきや椎名林檎の楽曲を歌いこなせる男性がそうそういるとは思えないから、伸びのある声を持っているだけではなく、技術や表現力がついて「うまくなった」のだろう。
気づいたらいつの日からか、「キレイなおねえさん」よりも「ゴリラ」に似ている長瀬智也。でも、歌も演技も、何でも素直にスイスイ吸収して自分のものにしていく姿は、まさに「はらちゃん」のようでもある。
「天然度最強クラス」と言われ、数々の伝説がネット上などに存在する長瀬智也にとって、最強のハマり役に見えた『泣くな、はらちゃん』も間もなく終了する。あまりにハマりすぎていただけに、次にどんな役をやるのかは気になるところだ。
(田幸和歌子)