「誰もが離婚に向いているわけではない」円満離婚に憧れる男と女のまやかし
「夫婦」とは何なのか、「家族」とは何なのか、そして「結婚」とは……2組のアラサー夫婦を通して結婚観を問い直すドラマ『最高の離婚』(フジテレビ系)が話題になっている。結婚が幸せのゴールではないことも、離婚が不幸のお墨付きではないことも、頭ではわかっているもののやはり結婚したからには一生添い遂げたいし、なるべくなら離婚は避けたいところ。ラジオ番組『離婚さん、いらっしゃい。』(KBS京都ラジオ)は円満離婚した夫婦たちがニコニコグッバイの秘訣を語るという、世にも珍しい離婚トーク番組。思わずマネしたくなる、イケてる離婚とはどういうものか。番組の公開録音に潜入してそのヒントを探った。
「離婚さ~ん、いらっしゃ~い」。
本家『新婚さんいらっしゃい!』(朝日放送)とは一線を画す、低めテンションのタイトルコールで始まった『離婚さん、いらっしゃい。』公開録音。MCはあの“離婚式”仕掛け人の寺井広樹氏と、3度の離婚経験を持つアーティストプロデューサーhiroko氏。円満離婚をした元夫婦たちにさまざまなエピソードを語ってもらうという趣旨で、昨年10月から始まった。今回はゲストに倉田真由美氏(以下、くらたま氏)を迎え、『円満離婚・オブ・ザ・イヤー』を決めてしまおうというスペシャルバージョンである。何でもここ下北沢で行われる収録に、番組の熱狂的ファンが大阪から駆け付けたとか。おそるべし離婚パワー。
和やかなムードの中、離婚経験者2人(くらたま氏、hiroko氏)と未婚の寺井氏でオープニングトークがスタート。とにかく、このバツ3のMC、hiroko氏の離婚エピソードがすさまじい。「それまでちゃんと働いていたのに私と付き合ってからヒモになっちゃったり……あとどうしても別れたいから相手の借金(総額700万!)を全て肩代わりするという条件で離婚した人もいましたね~」と明るく語るhiroko氏。それ以上にすごいのは「次こそは」とまだまだ結婚に前向きなところだろう。一方、くらたま氏の夫と言えば、当サイトの子育てコラムでもおなじみの叶井俊太郎氏。バツ3、借金まみれ、600人斬り……これまた強烈な経歴を持つ夫に対する「嫉妬や束縛をどうコントロールしているか?」と聞かれたくらたま氏はこう答える。「もうそういう気持ちはないですね。浮気されたらされたで仕方ないし。だって愛情のない相手にしがみつかれるほどイヤなものはないでしょう。昔すごい束縛してくる男がいて『別れるなら俺を殺せ!』って。それってもう愛じゃなくて単なる執着じゃないですか」。
この番組に登場するのは、円満離婚した元夫婦だ。では、そもそも円満離婚とはどのような離婚のことをいうのだろうか。寺井氏によれば「お互い遺恨を残さない」。「大体離婚して1年くらいたった元ご夫婦に出演してもらうことが多いです。遺恨は時間が解決することが多いようです」とのことだ。円満離婚を達成するのには「子どもの存在」も重要なファクターになりそうだが、ここでまたくらたま氏から名言が飛び出したので紹介したい。
「子どもに聞いたら『別れてほしくない』って言うに決まってますよ。だけど何が子どもの為になるかなんて誰にもわからない。未知数なんです。確かなものは自分の気持ちだけで、自分が離婚をして前向きに生きられる、笑顔になれるんだったらそれに従うべきだと思います。子どもの為に離婚しないって聞こえはいいけど、子どもが楽しく笑って過ごせるかどうかが一番大事なことで、子どもが笑っていれば自分も笑えるようになりますからね」
「寿命を縮める一番の原因は、ストレスフルな配偶者」だと言うくらたま氏だが、「誰もが離婚に向いているわけではない」ということを最近痛感したようで、「折り合いの悪い夫との関係に悩んでいた友人がいざ離婚をしたら、今度は周囲の目が気になってしょうがなくなってしまったって……いつでも自分が後ろ指を指されているような気分になるって言われて、あぁそういう目線もあるのかと。結婚も離婚も本当に人それぞれなんですよ」。
それぞれがお互いの「結婚観」ならぬ「離婚観」を語り合ったところで、本日のメイン企画である『円満離婚・オブ・ザ・イヤー』の発表へ。今回晴れてその栄冠に輝いたのは越後智広さん、越後昌美さん元夫妻。以前番組に出演された際も離婚した夫婦とは思えない仲良しっぷりで、「あんな離婚がしたい!」とリスナーから大反響だったらしい。智広さんが経営する小岩のカフェ「Queen’s Surf Café」をスカイプで繋ぎ、受賞の報告及び現在のお2人の様子について語ってもらった。なんと昌美さんは今でも智広さんのカフェに週3で通っているよう。これぞまさに別れても好きな人!
30年連れ添った上で離婚を決めたという越後さん元ご夫妻。離婚に大きな原因はなく、「小さな原因がいくつも積み重なった感じ」なのだとか。今でも近所に住み、離婚記念日には2人で旅行も行く。どうして離婚したの? と聞きたくなるほど仲睦まじいが、お2人に言わせれば「離婚したから仲良くなった」ということ。お互いに新たなパートナーを作って、家族ぐるみで付き合うのが希望だと話すお2人、最後に「円満離婚キス」をして授賞式は幕を閉じた。
「お互い嫌だから離婚するのに、どうして円満に別れられるのか、そこは釈然としないんですよね」――くらたま氏の、軽くちゃぶ台をひっくり返すこの発言に私も深く頷いた。もしも一緒に暮らすことでうまくいかないなら別居でもいいのではないか。離婚して近くに暮らすこととそれはどう違うのか。離婚したからこそ夫婦(男女)関係がうまくいくのであれば、結婚という制度自体に大きな疑問が残る。「それこそ『円満離婚・オブ・ザ・イヤー』の狙い」だと寺井氏は語る。「夫婦の絆、結婚・離婚の本質とは何かを今一度見直していただきたい、そういう願いを込めて、今後も選出していきたいです」。
バツを重ねながら運命の人を探し続ける人、不満を抱えながらも婚姻生活を続ける人、離婚しても尚仲良く暮らし続ける人……一筋縄ではいかない、結婚、離婚、男と女。「僕も一度は円満離婚がしてみたいですよ」そう話したのはバツなし婚活中の寺井氏。離婚率0.19%(2012年)だという現在、結婚生活より“離婚生活”の方が人生で長い者もいる。さらに仮面夫婦歴で干支一周……なんて話もザラにあるのだから、別れてから絆が生まれる“円満離婚”に夢を見てしまう気持ち、わからなくもないが。
(西澤千央)