お出かけスポットに「おひとり女子率」を併記、「日経ウーマン」の過剰な気遣い
案の定というか何というか、バレンタインに大忙しだった世間の女子たちを尻目に、先月号にも今月号にもバレンタインのバの字も登場しなかった「日経ウーマン」(日経BP社)。さらに今月号の特集は「『ひとり時間』で私を癒やす」。この時期に、あえて「ひとり」を特集に掲げてしまうこのマイペースっぷりはさすがですね!
しかし、自立を信条に掲げる「日経ウーマン」が「ひとり暮らし」や「おひとりさま」を取り上げるのはめずらしいことではありません。そんなことより、何より驚いたのは「日経ウーマン」の特集タイトルに「癒やす」という言葉が登場したという事実。仕事に貯蓄に、常に全力投球であることを推奨する本誌に、癒やしを説かれる日が来るなんて……!! 「日経ウーマン」的癒やしとはどのようなものなのか、期待に胸がふくらみます。
<トピックス>
◎「ひとり時間」で私を癒やす
◎食費節約&買い物テク
◎ストレスフリーな働き方、大研究
■教養アップに懸賞&プチ稼ぎ……迷走する「癒やし」の行方
いつも女性実業家や、ワーキングママの就業日のタイムスケジュールを分刻みで公開してくれる「日経ウーマン」。まさかそのノリを「癒やし」というテーマにまで持ち込んだりしてないよね!? おっかなびっくり特集ページをめくったら……やっぱりありました、休日のタイムスケジュール。その名も「初めての“おひとり休日”リアル体験日記」。
自称「ひとり時間初心者」のライターさんが、朝から晩まで東京おひとり一日散歩にチャレンジ。なんと朝は7:00にロイヤルホストでモーニングを食べるところからスタート。そしてカフェで一仕事→白金でランチ→東京ソラマチの水族館→水上バス→浜離宮庭園→カラオケで熱唱→1人ラーメン→四谷坊主バーと、休む間もなく動き回り、午後11時に近所の銭湯で1日の疲れを「癒やし」てフィニッシュだそうです。休日を謳ってるのに、仕事から完全に離れられていないのはなぜなのか? 水族館から庭園という、いかにもなデートコースを狙い撃ちしているのに意図はあるのか? こんなに予定を詰め込んで早朝から深夜まで出歩いて、近所の銭湯くらいで疲れが癒えるか? などなど、突っ込みたいところが次々と出てきます。これ、1分1秒も時間を無駄にせずに、仕事の効率化やスキルアップを目指す「日経ウーマン」イズムそのままじゃないですか。そう、今回の特集は、タイトルも、女性誌にありがちな「○○に癒やされる」ではなく、あくまで「(私が)私を癒やす」なのでした。
さらには、「なりたい自分に近づける!」と銘打って、「ひとり時間」の過ごし方に「懸賞&プチ稼ぎを楽しむ」ことを推奨したり、「自分に自信を持ちたい人におすすめ」と銘打って「女子力&マナー力を上げる20問」を繰り出してきたり……。「できなかった問題があれば、全問正解するまでトライしてみて。繰り返し解くうちに、以前の自分よりも自信が持てるようになるはず!」という言葉から、計算ドリルの間違えた箇所を何度もやり直しさせられた小学校時代の記憶が甦ってきます。無理矢理やらされる計算ドリルで学力が向上するわけもなく、ましてや自信なんか持てるはずもなく。まるで親か教師のように、「自分で自分を癒やしなさい!」と押しつけられる「日経ウーマン」イズムに反発してしまうのは、筆者が小学生時代から成長していないということなのでしょうか……。
■周囲の目を気にしすぎ! 「ひとり時間」でぐったり
さて、今回の特集には宮崎あおいも登場し、インタビューで「ひとり時間は大好き」と語っています。編み物や絵、写真や陶芸などの創作活動に力を入れているそうで、「ひとり時間」を満喫している様がうかがえます。「周りからどう見られているかは、あまり意識していない」「いつでも今が一番幸せ」「ひとり時間は、自分の心を解放できる」という言葉に、“離婚や不倫騒動からは欠片もダメージを受けていない”アピールを感じ取ってしまいます。
「ひとりが好き」「収録の合間にも編み物」とことさらに主張するその姿勢は、結局、第三者の視線があるからこそ生まれるものです。バジルを育てるエピソードも、得体の知れない創作活動も、三つ編みおさげも、他者からの視線やイメージを意識したエピソードなのでは。時には1人が淋しくなったり、過去の恋愛を後悔したり、女友達とやけ酒したり、植物枯らしちゃう時だってあるじゃないですか。そういう面を見せずに、他者からの評価があっての「自然体」アピールは、やっぱり不自然な気がします。宮崎あおいは、どこまでも「自分を持ってて自然体」というイメージに捉われた女のようです。
さて、今回の「ひとり時間」特集で、第三者の視線に囚われているのは、あおいちゃんだけではありませんでした。前述の「“おひとり休日”リアル体験日記」では、1人行動を楽しむヒントとして「目的に集中しつつ周囲への配慮も忘れない」ことが挙げられています。「ひとり客も歓迎しているか確認しておく」「一番奥が常連客の指定席であることも多いので、手前の席を選んで」などなど、ウーマン読者が仕事で嫌でも発揮しなければならない「他者への気遣い」を、「おひとり休日」にまで強いられているのです。
さらに「ひとりでも安心スポット一挙公開!」として、カップル&ファミリーと遭遇しないですむスポットが、「おひとり女子率」などの情報と共に紹介されています。例えば「パワースポット&開運スポット(おひとり女子率50%):縁結び系がいい」「森林公園(おひとり女子率30%):広めの公園を選ぶと、カップルやファミリーの存在が気になりません」などなど。そんなに周囲の視線が気になるなら、無理に1人で出かけなくてもいいのでは。同じく「ひとりで気軽に楽しめる!0円スポット案内」という、節約大好きな本誌らしいページもあるのですが、「実家にひきこもっていれば0円だし、誰にも気遣わなくていいんだよ」と、伝えてあげたい気持ちになりました。
■リレーエッセイやインタビューと雑誌の方向性の乖離
ところで、「日経ウーマン」には毎号、年齢別のキャリアプランや貯蓄法、婚活法等々が掲載されます。今月だったら「20代、30代、40代…年代別ひとり時間でやっておくべきこと」(「ひとり時間」で私を癒やす)「いつまでも“必要とされる”私であるために、20代、30代でやっておくべきこと」(ストレスフリーな働き方、大研究)という2つの記事がありました。「日経ウーマン」イズムとも呼ぶべき、「一生働く」「定年までにいくら貯める」等の具体的な目標が明確に存在しているからこそ、逆算して「○○歳の時にはこれをしなければならない」という忠告が頻出するのでしょう。
しかし、今月号の表紙の人・柴咲コウはカバーインタビューでこのように語っています。「『この年齢ならこうあるべき』と言って人を型に当てはめるのは、小さな考え方だと思います」!! これは、「日経ウーマン」お得意の、「年代別やっておくべきこと」ページに対するアンチテーゼだとしか思えません。
さらに、今月からリレーエッセイで登場する作家の井上荒野は、著名な父の教育下で「やりたいことが見つからない」でボンヤリと過ごした少女時代をとくとくと語っており、これも、「夢をかなえる」「努力で道を切り開いていく」という1分1秒もムダにしない「日経ウーマン」イズムとかけ離れた内容になっています。
冒頭から著名人2人に雑誌の方向性を否定され、「癒やし」なんてらしからぬ特集まで組んで新境地に足を踏み出したかと思いきや、やっぱり空回りしている今月号。「日経ウーマン」こそ、雑誌の方向性を見直す、「ひとり時間」や「癒やし」が必要なのではないでしょうか。
(早乙女ぐりこ)