カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「HERS」12月号

辛口コーデかオバチャンか、「HERS」が五十路の“豹柄”問題に斬り込む

2012/12/05 23:00
「HERS」2012年12月/光文社

 なんと、今月の「HERS」(光文社)には、「女モテ」という文字がどどーんと踊っています。先月号の萬田久子さんのニューヨーク企画でクローズアップされた、「辛口スタイル」と「女から見てカッコいい人」という要素がミックスされ、今月号の特集「増えてます!女モテ『新・辛口』族」になったようです。萬田さんもアルマーニのパンツスーツを着たり、黒のドレスを着崩したりしています。

 その後も、「『新・辛口』族が同性ウケする理由」「少年風がモテる!」「関西読者の“ピリ辛化”現象をSNAP」などと、脱・可愛い系のキーワードが躍っています。

 そもそも、「女モテ」や「同性ウケ」は、女性誌全体の傾向としてはなんら珍しくはないのですが、50代向けの「HERS」は、バブル全盛期の人々が読者なので、あくまでも雑誌にはコミュニケーションの話題よりも物欲を刺激するものを求めてきました。そのため、昨今の若い女子たちが気にするほど、「HERS」読者は女目線を気にしない傾向があり、 女の友情についての特集はあっても、「女モテ」「女ウケ」に対しては、表立って取り上げたことはなかったように思われます。この「女モテ」という時代の流れを受け入れたというのは、結構な事件です。

<トピック>
◎増えてます!女モテ「新・辛口」族
◎愛される豹柄vsお出かけ迷彩
◎「4人組」なら一生つき合える

■いらん心配な気もしますが……

 さて「HERS」の変化に驚いた後は、「愛される豹柄vsお出かけ迷彩」という企画を見ていきましょう。「愛され」は、比較的最近の女性誌で使われるキーワードですが、そこに「HERS」が昔から好きな「豹柄」が合わさるとどうなるのでしょうか。

 なんでも、「大阪のオバチャンが着る、柄のみならず豹の顔までプリントされた服のイメージだったのは、遠い昔」で、最近は「下品でも派手でもなく女らしく使える柄として、メインでもOKに」なったとのこと。当然、豹柄のような個性的なモチーフを取り上げるとなると、男目線も気になるようですが、登場する読者の方が夫に意見を求めたところ、「この(豹柄)パンツはデニム気分だから『一緒に出掛けてもいい』って(笑)」と太鼓判を押されたそうです。 

 ほかの方も「盛りすぎない」「やりすぎ感を出さない」「頑張りすぎない」とか、「バブル期の印象が強い」「しり込みする」と、女として豹柄は是か非かに揺らぎながらも、さまざまな言い訳をして、最終的には「大人可愛くまとめれば、バブルっぽくなりすぎません」などと豹柄を肯定しています。って、もう好きなんだったらつべこべ言わずに豹柄を取り入れればいいのに!

 でも、やっぱり「オバチャン」とか「バブル」とは言われたくないのが、「HERS」読者の気持ちなんでしょうね。 正直、どんなに今風に豹柄を取り入れたって、若い人のような着こなしにはならないのです。だったら、好きなものを好きなように着た方が見ているこちらも安心な気もします。「HERS」読者は、もともと現代の若者ほどは人目を気にするという概念が薄かった世代。それがここへきて、「オバチャン」に見られたくないがために人目を気にする姿は、正直ちょっと寂しい気持ちすらします。この世代だけは、世知辛い世の中でも図太く天真爛漫に自由に生きてほしい……そんな希望を「HERS」には抱きがちです。

■女の友情はババアになってから!?

 今月は「『4人組』なら一生つき合える」という特集もあり、韓国旅行好き4人組、ネットサークル会員仲間という2組の女友達集団が登場。なんでも「3人だと話題によっては2:1に分かれて気を使うし、一方、5人だとスケジュール調整や店の予約が面倒になってしまう。でも4人なら2:2のさまざまなユニットが構成されるから、気兼ねなく動ける」とのこと。確かにそういわれればそうですが、どう考えても『SEX AND THE CITY』の影がちらつきます。

 ただ、ほかの世代の女性誌では、「仲良し」といいながらも、その実、さまざまな思惑が交錯しているように思います。独身OLだったら、これからの結婚や出産などの人生設計で、女の友情はあっさり壊れてしまう可能性が大きいですし、既婚女性のアイデンティティで成り立っている女性誌になると、夫の年収や子どもの学歴によるお互いのポジションを意識し、どっちが上でどっちが下かと、けん制しながら一緒にいるような「魂胆」が見えるもの。しかし、この世代になると、あまりそういった人生設計の相違やマウントの取り合いがなくなり、これから迎える老後に対して、「夫なんてあてにならないし、子育てからもやっと解放されたから、女性同士で身を寄せ合って一緒に立ち向かおうね」という、友情の芽生えを感じさせるのです。

 ちょっと前にバラエティ番組で、山本陽子と淡路恵子という大女優2人が伊勢へお参りするという企画が放送されていました。それぞれ波乱万丈の人生で、生きてきた道はまったく違う2人ですが、70歳を過ぎたらそんなことはどうでもよくなったよう。気の合う2人のやり取りには、すがすがしさが漂っていました。未婚・既婚、夫の地位、子どもの学歴などでヒエラルキーができがちな女の友情ですが、そこから離れて本来のフィーリングで友情が育まれるのが、老後だなんて……。もっと早く、女が女を評価し、評価されることを辞め、真の友情が育まれるようになってほしいものです。
(芦沢芳子)

最終更新:2012/12/20 17:41
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