蟹めんま×椎名ひかり「病みからかまちょへ」なバンギャルちゃんの今昔を語る
ヴィジュアル系……古くは「お化粧系」とも呼ばれ、過激で派手な衣装やメイク、音楽性が人々の注目を集めているジャンルである。しかし、世間一般には、その奇抜さが受け入れられないこともしばしば。そんな中、ヴィジュアル系をこよなく愛する女たち「バンギャル」は、独自の文化を作り続けてきた。
今回は、バンギャルたちの知られざる生態について描かれたコミックエッセイ『バンギャルちゃんの日常』(エンターブレイン)の著者・蟹めんまさん(27)と、バンギャを公言する「Popteen」(角川春樹事務所)の人気モデル・椎名ひかりさん(18)の対談を企画。昭和生まれのバンギャル・蟹めんまさんと、平成生まれのバンギャル椎名ひかりさんが「バンギャル」について語り合った。時代の移り変わりと共に、バンギャルはどう変わったのか、そして、変わらず受け継がれているものとは?
――今回、『バンギャルちゃんの日常』刊行記念対談ということなのですが、椎名ひかりさんは読まれてみて、どのような感想を持ちましたか?
椎名ひかり(以下・ひかり) こういうバンギャルについて描かれた本ってありそうでなかったので、そこをついてくれたのがうれしかったし、面白かったです。ご出身は奈良なんですよね? 遠征の苦労や、ネットのない時代はメンバー募集やファン同士で文通するのも一生懸命ですごいなって思いました。気合が入ってますよね。
蟹めんま(以下・めんま) ありがとうございます。ひかりちゃんはどんなきっかけでヴィジュアル系の世界に入ったんですか?
ひかり 小学6年生の時、友達にちょっと暗めの男の子がいたんです。その子がヴィジュアル系が好きで「これマジ良い曲だから」とthe GazettEをオススメされました。そこから、いろいろなものを聴きだしたり。
めんま やっぱり友達の影響って大きいですよね。私も、漫画にも描いたんですが、小学5年生位の時に、クラスにあまりなじめてなくて、よく隣のクラスに避難してたんですよ(笑)。そこにも私みたいな厨二病(笑)な子がいて、彼女のお母さんもバンギャルだったせいか、MALICE MIZERが表紙のヴィジュアル系雑誌「SHOXX」(音楽専科社)を持ってきていて、それを見てハマりました。
――ひかりさんはthe GazettEから入って、今はどんなバンドが好きなんですか?
ひかり SEX-ANDROID! それにメトロノームやグルグル映畫館、新宿ゲバルト、カミカゼ少年團とか。ちょっと暗くて、意味ありそうで意味わかんない感じの歌詞のバンドが好きかな。あと、蜉蝣は、あの変態チックな感じがホントに大好き!
めんま ……全然ネオ世代っぽくないですね、完全に私と同い年くらいの人の発言ですよ(笑)。さっき好きなバンドにメトロノームを挙げていましたが、メトロノームはV6の『学校へいこう!』(TBS系)にも出てましたね。「ヴィジュアルK‐1グランプリ」という企画だったんですが。
ひかり 漫画の中にもありましたね。ひかりは知らなかったんですけど、ママが前に「(メトロノームを指して)この人たち昔テレビに出てたよ」って言ってて。今思うと、あれはこのことだったんだなって。
めんま そこはやはりお若い……。最近のバンギャルさんを見ていると昔と全然違うなって思うんですけど。
――例えばめんまさんは、どんなところに、バンギャルの世代ギャップを感じますか?
めんま まず服装ですね。昔はものすごい厚底のブーツだったり、ゴスロリやゴスパンクみたいなバンギャルさんも多かったんです。今のバンギャさんは、制服がステータスみたいなところもありますよね。それにニーハイ(ニーハイソックス)も多いですよね。
ひかり ああ、ニーハイは多いですよね! あとガーターも。全体的にギャルっぽいですよね。それにバンドマンさんが好きだと公言してるファッション、制服やメイドさんコスの子も多いですよね。漫画にもあったけど靴はルームシューズとか、クロックスで踏まれても痛くないようにしてたり。あと髪型も「小悪魔ageha」(インフォレスト)風の盛り髪やキャバ嬢風のファッションも多いですよね。それにツインテール! ひかりの中ではツインテール=バンギャルです。あとはやっぱりグルーミーが人気かな~。
めんま グルーミーは今でも人気あるんですね。
ひかり ほかにもマイメロちゃんや、最近だと頭が取れちゃうクマちゃんのキャラクターも。コントロールベアでしたっけ?
めんま ああ! あれはよく見かけます。ゴールデンボンバーの喜矢武豊さんが着てたことでも注目されてますね。なんていうか、バンギャルさんは、本当にここ数年で本当に可愛くなったと思いますよ。最近はバンドマンの方も、化粧していなくても元が綺麗なんですよね。だから、なんでヴィジュアル系に来たの? っていう(笑)。
――ヴィジュアル系って、一部の層にしか受け入れられないものというイメージがありましたからね。
めんま 完全にそうでした。ヴィジュアル系好きだというと、「え、ヴィジュアル系(笑)?」みたいに、(笑)がつくという。でも、バンギャルじゃない人に「何アレ」って言われると、「わかってないなぁ……」と優越感を感じられたんですよね。言い方が悪いかもしれないんですけど、今のバンドマンを見ていると、そんな鬱屈した10代を過ごしたようには見えないなぁ……なんて。普通にモテたでしょって。
ひかり 私の世代だと、純粋に「ヴィジュアル系? 何それ?」って感じの子も多いですね。モデル仲間の子たちに話しても、「何それ?」って言ってましたよ。
めんま 私が10代の時は、その世界観も相まって、ファンの人も病んでるアピールをするというか、ネット上やライブでも極端な言動をとる子が多かった気がします。それがバンドへの忠誠心みたいな。
ひかり それに比べたら、今は平和なんですね。何となく、昔よりはヴィジュアル系は怖くなくなったんじゃないかなと思います。キラキラ系が増えたせいかもしれないですけど。昔は「病み」っていうのが本気だったんですね。今は「かまちょ(※かまってちょうだいの略)」みたいな子はいますね。
めんま いや、当時の人も誰かに「かまって欲しかった」ことには変わりはないと思うんですけど、今は病んでることをアピールすると「痛い人」認定されるところがあるじゃないですか。あの頃は「病んでることがカッコいい」みたいな時代というか世代だったというか。
ひかり それに、今はかまって欲しいからわざと侮辱するようなことをバンドマンに言ったりする人もいますね。
めんま 「貶し愛」ですか? 若いバンギャルさんがメンバーをディスることで愛情表現をしているという。そうやって、メンバーとバンギャルがコミュニ ケーションを取る文化には、びっくりしましたね。
ひかり ツンデレっぽい感じ、今風かも。
――今のヴィジュアル系といえば、今年『NHK紅白歌合戦』への出場が決まったゴールデンボンバーですが、彼らはバンギャル以外にも人気が高いですよね。
めんま そういえば、ひかりちゃんのブログを拝見させていただいて「パパとママはひかりが中学の頃からゴールデンボンバーのファンだよ」っていう記事を読んでびっくりしてしまったんですけど、何年前ですか?
ひかり えっーと、今高3だから……3年前くらいですね?
めんま おお……。ご両親は以前からヴィジュアル系バンドのファンだったりしたんですか?
ひかり いえ、最初から特に否定されていたわけではないんですけど、「ひかりちゃんはお化粧したお兄さんが好きなの?」って。面白がってデスボイスのマネをしてたら、「『ヴァーッ!』って叫ぶ人が好きなの?」みたいな(笑)。おばあちゃんもひかりがライブに行くって言ったら、「またひかりちゃん『ヴァーッ!』っていう声を出しに行くの?」「それが楽しいの?」って。
めんま おばあちゃんかわいい……。
ひかり その後、ひかりの影響でゴールデンボンバーにハマったんですよ。ママが自分でTシャツやDVDを通販で買ったり。ホントに、ゴールデンボンバーは周りの人の「ヴィジュアル系」のイメージに変化を与えてくれたと思います。
めんま ゴールデンボンバーって親世代にも受け入れられやすそうなヴィジュアル系ですよね。私は昔、ヴィジュアル系バンドを聞いてると両親にあまりいい顔をされなかったんですけど、そこでちょっとお茶の間にもウケたバンドを見せると「これならまあ良いかな」って。たとえばX-JAPANも「小泉(純一郎)総理(当時)が好きなら……」みたいにイメージが良くなったり。ゴールデンボンバーは、最近テレビにもたくさん出るようになったし、すごい人気ですよね。
ひかり そうそう! 学校の友達の間でも超流行ってて! 普通にヤンキーの子とかも知ってるんです。ただやっぱり「ひかりちゃんもゴールデンボンバー好きなの? 今度カラオケで『女々しくて』歌おうよ~!」って言われると、ちょっと「あ、それしか知らないんだ、ひかりは中学生の頃からずっと好きなのに……」とか思っちゃったり(苦笑)。
めんま そういうのってホントに複雑ですよね……。何かこう、みんなが見て、「うわぁ、そんなののどこがいいの?」って言われるバンドを、隅っこの方で、「うちらはよさがわかる」みたいな。そのバンドとバンギャルの強い仲間感ってあるじゃないですか。
ひかり ああそれ、いいですよね。
めんま でも、バンドがビッグになることで、それが薄れてきちゃうから、寂しいというか、新規がやだなっていう発想になるという。「私の方が先に知ってたのに!」「遠くに行っちゃう!」みたいなファン心理が働いてしまって。バンドのことを考えると人気が出て欲しいし、売れて欲しいのは山々なんですけど。それにさっきも言ったように、お茶の間にまで認知されるバンドが出てくると「ヴィジュアル系」全体のイメージも良くなったり、ほかのバンドのライブに行くにしても門限伸びたりしますから、ありがたい存在なんですけどね。
ひかり ひかり、前に両親と一緒にゴールデンボンバーの出る年末のイベントに樽美酒研二のコスプレをして行ったこともあります(笑)。
めんま おおお! やっぱり今でもライブに親同伴っていうのはあるんですね。私も中学生の頃、ラクリマクリスティのライブに行きたいのを親に反対されて、結局「親と一緒なら良いよ」ってことになって……。今思うと心配してくれたんだなって思うけど、それがなんだか当時はすごく恥ずかしくって……。
ひかり それはちょっとわかります。でもひかりの場合白塗り研二コスしてたから、逆に親の方から「ちょっと離れて歩いてよ」って言われました(笑)。
めんま 私の生まれて初めてのコスプレは、地元の制服屋さんでとりあえず買った普通の白衣で、これだけでもちょっとショボイのに、その上親からは、「(白衣に)血のりをつけたら勘当だ」って言われたんです。 だから真新しいぴっかぴかの白衣に白塗りで、アイライナーで全部目の周りを塗って。ほかに化粧道具も持っていないから、唇もアイライナーで黒く塗って……。ホントになんていうか芋の煮っころがしみたいな、今思うと芋過ぎるコスプレでしたね(笑)。
――ひかりさんは今度歌手としてデビューされるということですが。なにかヴィジュアル系的なことを取り入れたいとか考えていたりしますか?
ひかり ひかり自身もライブにはヴィジュアル系要素を入れていきたいと思ってます! 最初だからまだ控えめなんですけど、これでも。もっとヴィジュアル系っぽさを出したいです(笑)。カップリングの曲にも「メランコリック」みたいなヴィジュアル系が使いそうな言葉を入れてるんですよ。
めんま 衣装に黒い羽も生えてるし、ちょっとヴィジュアル系っぽいですよね。
ひかり 普通のアーティストのライブって「見て楽しむ」ものじゃないですか。でも、ヴィジュアル系のライブは「参戦」という言葉があるように、なぜか客なのに終わった後に「やり遂げた感」があるんです(笑)。その空間がすごく好きで。
めんま 「やり遂げた感」というのはすごくわかります(笑)。ライブ前に、バンギャル同士で円陣を組んで「やったるでー」って気合いを入れて、それで始まったら全力で盛り上がって、終わったら「ウチらすごい! ウチらをこうさせるバンドはもっとすごい!」「お疲れ様!」と言い合う。それで、号泣して抱き合っちゃったり。この「参戦」っていう感覚は、今も昔も変わらない、バンギャルのすごく面白いところだと思います。
ひかり ひかりのライブもファンの人にそういう気持ちで参加してほしいと思っていて。ヘドバンや振り付けとかもしたいです。そうしたら絶対楽しいし、「またライブに暴れに行きたいな!」みたいになれるじゃないですか(笑)。そういう、絶対飽きさせないライブをしたいです!
(構成/藤谷千明、撮影/坂本慶介)蟹めんま(かに・めんま)
奈良県出身。ほんのり漫画家。大阪芸術大学デザイン学科卒。カレー屋店員、不動産広告営業、ウェブ編集などの職を迷走したのち、漫画家になる(現在はスーパー銭湯でアルバイト中)。著書に『バンギャルちゃんの日常』(エンターブレイン)がある。椎名ひかり(しいな・ひかり)
2009年よりギャル雑誌の読者モデルとして活躍。2012年6月発売の「Popteen」(角川春樹事務所)7月号にて、同誌初登場から3年目にして初の単独表紙を達成。12月12日に、シングルCD「侵略ぴかりん伝説☆」(avex trax)で歌手デビュー。 最終更新:2013/05/01 15:09 アクセスランキング今週のTLコミックベスト5
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