プリプリも登場! 10周年の「STORY」が手放した“女のエグみ”と“生臭さ”
今号で「STORY」はめでたく10周年を迎えます。顧客層が完全にバブル世代からDKJ(団塊ジュニア)へと移り変わった感のある「STORY」。「所帯染みたことは一切考えず、カワイイ私を夢想する雑誌」だった同誌が、リーマンショックや東日本大震災をへて、ファッションも夫の経済状態を誇示するためのものから、自身のセンスやオリジナリティを問うものへと変わっていきました。表紙も中身も10周年のお祭りムード漂う中、みんな大好き林真理子センセイの連載「出好き、ネコ好き、私好き」も4ページ(通常は1ページ)と大盤振る舞い。40代女性における“激動の10年”に関して、さぞかし深いご考察をされているのかと思いきや……その内容はまさかの「マリコ、整形しちゃうかも宣言2012」。すごい。何のための増ページなのか、編集部の思惑一切無視。なんだか、筆者が真面目に考えていた冒頭部分がスベってるみたいに思えてきましたので、この辺りで今月のラインナップを。
<トピックス>
◎いま絶頂!40代は、10年前より10倍キレイになった!
◎被災地に笑顔を取り戻したいから、40代の今、もう一度、16年ぶりにプリンセスプリンセス
◎もう年末は始まっている!「冬のイベント服」アップデート講座
■そもそも「こなれ」がわからない。
そんなこんなで記念の大特集のタイトルは「いま絶頂!40代は、10年前より10倍キレイになった!」。扉には大口を開けて笑う表紙モデルの富岡佳子。その下には彼女の過去のスナップと共に、ライターやヘアメイクからの証言として「富岡さんも20代、30代のときよりもいまがいちばんキレイ」の文字が。う~ん、もちろん現在の富岡さんが一番オシャレには見えますが、やはり美人は昔も美人ですよというのが正直な感想です。
現在の「STORY」の時流に、この「富岡佳子」というモデルはなくてはならない存在。黒田知永子から清原亜希、そして富岡佳子。「STORY」の表紙モデルは、いつもその時代の40代女性の気持ちを代弁してきました。元祖カリスマ主婦、黒田知永子が夫の経済的基盤を後ろ盾にしながら優雅に遊ぶ専業主婦像を作り上げ、“努力と根性”の人・清原亜希はより身近で泥臭いポジションに。富岡佳子は「CLASSY.」(光文社)、「VERY」(同)と王道ラインを歩んできたことは間違いないですが、前者2人に比べるとだいぶ穏やかな印象です。
抜群のプロポーションよりも整った顔立ちよりも驚きの美肌よりも、富岡佳子を富岡佳子たらしめるのはその「笑顔」です。だいたいどのカットも笑顔、笑顔、また笑顔。100人に聞いたら100人が「好き」と答えそうなその笑顔には、それまでの「尖ってやる」「出し抜いてやる」といった40代女性の闘争心や、「いいの~ババアだから~」といった自虐や諦め(「そんなことないですよ~」のフォロー待ちでもある)などが一切匂ってきません。「STORY」はこの富岡佳子を表紙に据えたことで、40女に漂う生臭さと決別したのです。
そんなこんなで10周年。「40代は、10年前より10倍キレイになった!」は、言い換えれば「10年前より10倍賢くなった!」ということ。同性同士で競わない。若い子にも同世代にも上世代にも好かれるオシャレ、それがカジュアルです。カジュアルこそ40代女性の生きる術であると、今号の特集では繰り返し述べているように思います。しかしカジュアルを“気楽”と直訳できないのがファッションの世界。例えば「実例・オシャレの機会は自分で作る!『私の毎日はオシャレ』な自分劇場」というページに登場するのは、ひとりカフェも、ちょっとした散歩でも、いつでも「こなれたオシャレを楽しんでいる」私。今後この「いつでもこなれたオシャレ」と「いつでも満面の笑顔」という呪縛が、「STORY」および40代女性を支配していくことになるのでしょうね
■「家庭が大事」なのはわかりました。
80~90年代に活躍したグループの再結成がもはや日常となりつつある昨今。「消せな~いアドレス~Mのページを~」で全オナゴを泣かせたプリンセス・プリンセス、通称プリプリも2012年限定という形で再結成しました。続きましてはプリプリ5人の現在の姿をレポートした「私の服にはSTORYがあるSpecial 40代の今、もう一度、16年ぶりにプリンセスプリンセス」を。「STORY」が10年でこんなに変わったのですから、プリプリ16年のビフォーアフターは言うまでもありません。
「昔、いっぱい働いたからもういい、私は焦るタイプじゃないから、子供が生まれてからは郊外の街で伸び伸びと専業主婦をやっています」とは、ドラムの富田京子。キーボードの今野登茂子も出産後は子育てに専念し、今は趣味の木工に夢中。リーダーでベースの渡辺敦子は音楽専門学校の副校長に、最もROCKなイメージだったギターの中山加奈子が唯一ミュージシャンとしてバンド活動を続けています。あのゴリゴリメイクだった中山加奈子が「04年に結婚してからは、義母の影響もあって手芸を始めたり、パン教室に通ったり」ですって! 「家では切り干し大根を煮ている自分がいます」ですって! しかしライブではギターを壊したり、客席にダイブしたりしてるそうですから、加奈子担の方はどうかご安心を。
ほかのメンバーが半ページ(のスペース)の中、ドンと約2ページを使って紹介されていたのはボーカルの岸谷(旧姓奥居)香。16年たってもメンバー内格差は相変わらずか……と思いながら読みましたが、やっぱり一番面白いことを言っているのも岸谷さんなのでした。
「長男がお腹にいる時、何となく見ていたテレビで私のことが話題になっていて。『奥居香』って呼ばれて、すごく違和感があったんです。(中略)その場でマネージャーに『これから全部、岸谷香でいきたい』って電話して、芸名も改めてもらったんです」
「いつかはまたロックバンドをしたいという思いもあって、息子が小学校に上がった年から、マネージャーの勧めもあり、リハビリも兼ねて、年に一度だけソロでコンサートしていました。それでも『子供がインフルエンザになったら本番でも私は行かないよ。それでもよかったらスケジュール入れてね』と言っています。仕事よりも子供が第一、そのスタンスは崩したくないんです」
家庭を大事にしている……と言いたかったのでしょうが、完全に売り時を間違えた人の勘違い発言に聞こえてしまうところが悲しいですね。そりゃあ子どもが病気になったら、ずっとそばについていたいですよ。しかしそれが、時に困難なのが仕事をするお母さん。今の時代、仕事と子育てをうまく両立させようとしても叶わず、どうしても四苦八苦とあがいてしまうものなのです。岸谷さんは時代に取り残されている……、そんなことを感ぜずにはいられない、なかなか酷な企画でした。
プリプリというグループは、恋愛の唄を歌いながらも「女性としての生臭さ」からは無縁なバンドでした。なんてったって“プリンセス”ですからね。プリンセスは16年たってもプリンセスのままで「家庭が(子供が)一番大切です!」と言えるのです。クイーンの重圧とは無縁なのです。「STORY」もまた女の生臭さを捨てることで、プリンセスな40代になろうとしているのかもしれません。
SHOW-YA派の筆者としては、「私は嵐~いつわりの~安らぎを~吹き飛ばす~」(「私は嵐」より)くらいの衝撃も欲しいところなのですが。
(西澤千央)