「夫の肩書き」「出会い方」を省略、「steady.」結婚式企画の淡白さ
今月の「steady.」の表紙は、ドラマ『結婚しない』(フジテレビ系)で主演を務める菅野美穂。雑誌自体のターゲットは20代だと思うのですが、ドラマや映画の宣伝があると、菅野美穂や篠原涼子といった30代女優も表紙になってしまうのが「steady.」なんですよね。では、そんな今月のカバーガール菅野美穂さんのインタビューからチェックしていきましょう。
<トピック>
◎スペシャルインタビュー 菅野美穂
◎石原さとみのAtoZ
◎みんなの“結婚式”見せて!
■「steady.」に合う女優・菅野
やはりインタビューはドラマ『結婚しない』に関連した質問が多く、「実際まだ結婚していない30代の女性についてどう思う?」と聞かれると、「焦るだけじゃないっていうのはすごく共感できます。でも子供も産みたいし」とリアルな心情を吐露。また、ブータンを旅したこと、ホームパーティするのが楽しみなことなど、未婚アラフォー女性っぽい模範解答を続けます。
ターゲットの読者とは年齢のちがう菅野さんですが、インタビューを読んでいて彼女と「steady.」の食い合わせがなかなかいいというか、自然な組み合わせにみえるんですよね。菅野美穂と同じ30代中盤の女優やタレントは、どんどん結婚して母になっている。そんな中、米倉涼子のようにキャリアに一直線というわけでもなく、ほんわかと生きていて、無理やり人生の軌道修正をしたりしていない、“気立てのいい子”菅野美穂というキャラクターは、正直「steady.」そのもの。「steady.」読者の将来を見ているようにすら思えてきます。ドラマの中でも、菅野さんは、旅行代理店で働く契約社員で、いつかは結婚したいけど、ガツガツはしたくないという、どこかぼんやりした、夢見がちな役を演じています。やっぱり「steady.」読者の成れの果てにしか見えない……。
■キャラを演じて自分を守る女子
それとは対照的に、ふんわりした風貌の割に、意外と意識が高そうなのが石原さとみです。
最近、FacebookやTwitterが当たり前の世の中で暮らしているいまどきの意識の高い女子たちは、「自分もメディアである」と自覚しているのではないかと思うことがあります。芸能人ではないにしろ、SNSを利用して自分自身のことを発信しているということは、いつ誰に批判をされてもおかしくない危険性をはらんでいます。そんな脅迫観念は、リアルな生活にも影響をおよぼし、本来の性格とは別に、「こう見られたい」という自分が演出して作ったキャラのようなものを演じているのではないか……と。今月の石原さとみの連載「AtoZ」にも、そんな「キャラを演じる私」を感じてしまいました。
今月は「D」に関する事柄を紹介するということで、「do,day,diary,delicious」をテーマに、習慣、癖、現状、性格などを語っています。そこでまさに、「私ってこういうところあるんですよー」という自分語りをしているんですが、どうも「こう見てほしい私」が透けて見えるのです。
例えば、「髪の毛を乾かすときや歯を磨くときはバランスボールを椅子代わりにする」は、「ふわふわしてるように見えて女優としてのプロ意識もしっかりある私」アピールに、「未だに毎週録画機能の使い方がわからない」は、「機械に弱い私(テヘっ)」アピールに見えてしまいます。また、「一年前から腕をあげて寝るようになった」は、「真面目に見えて実は不思議な部分もある私……」と言っているようで。テレビで見かける石原さとみ自身のイメージも、「ちょっと野暮ったいけど、絶対にボロは出さない!」というクレバーさが見え隠れしているんですが、この連載にも、同様の緊張感を感じます。石原さとみのボロが出ないか、次号以降も注目していきたいと思います。
■「steady.」には足りないのは下世話さだ!
さて、以前特集されて好評だったのか、「みんなの“結婚式”見せて!!」というコーナーが戻ってきました。このレビューのために、何カ月も「steady.」を追ってきましたが、この雑誌のリアルというのは、「良くいえば気がいい、悪く言えば意識が低い」ことだと思うのです。なので、ほかの雑誌の結婚特集なら、肩書きや出会いがこと細かに書かれていて、祝福よりも嫉妬心を煽る作りになっていたりするのですが、「steady.」の場合は、肩書きも「会社員」とか「メーカー勤務」とか、ものすごくぼんやりしています。人と比べるという空気もなくて、ただただ読者から送られてきた結婚式の写真を掲載するだけの誌面には、底抜けに明るい祝福ムードが漂っています。
そんな中、騎手という珍しい職業の旦那さんと結婚した女性が登場していました。騎手……、過去には佐野量子やほしのあきなどアイドルが射止めただけに、セレブの証のようにも思える職業といってもいいでしょう。普通ならば、デカデカと派手に扱っていいと思うご夫婦ですが、「steady.」では、誌面の上三分の一という小さな扱いしかしてもらえず……。
また、その内容も、「結婚に至ったきっかけは?」という質問に「仕事に対してマジメだったし(中略)一緒にいるのが楽しかったから」というなんとも普通な答えを導き出したと思ったら、「プロポーズの状況は?」という質問に「m-floのライブでBeeTVの協賛でテレビカメラが入り、観客の前でプロポーズされた」とけっこうなネタフリしてくれているというのに、それ以上の深堀りもなく「え? なんでそんなことになったの? いやだからそもそも騎手との出会いってどうなのよ!」というモヤモヤばかりが残る記事になっていました(いや、扱いが小さすぎてそんなことにも気づかないほどかもしれません)。どんな人だって、少しは下世話な根性を持っており、「どうやって出会ったの?」「正直儲かってんの?」と、根掘り葉掘り聞きたくなるのが性ってものだと思うんですがね……。
というか、「steady.」ちゃんには、人を妬んだり、嫉んだり、僻んだりという醜い感情は欠片もないんでしょうか? せちがらい世の中では、「steady.」ちゃんのような、ぼんやりして人のアラに気付かない態度が、一服の清涼剤として重宝されることもあるかと思います。しかしその一方で、「そんなんで、この世の中を本当にサバイブできるの?」と、心配になりながら今月号を閉じました。
(芦沢芳子)