カルチャー
[女性誌速攻レビュー] 「Ray」10月号

大好きなカレにもウザがられていた! 「Ray」の素直さという“毒”

2012/09/03 21:00
『Ray』2012年10月号(主婦の友社)

 今月号の「Ray」は、女優の桐谷美玲がカバーガールを務め、巻頭インタビューにも登場しています。故つかこうへい氏の代表作『新・幕末純情伝』に沖田総司役で主演、映画『荒川アンダーザブリッジ』では、自称・金星人のホームレスという突飛な役を演じるなど、「実力派若手女優」というイメージもある桐谷ですが、インタビューでは、自身の「素」の部分について言及しています。「仲よしは5人いて、似た者同士。甘えん坊の集まりなんで“甘ちゃん会”って呼んでるんです(笑)」「ひとり暮らしを始めた頃はよく料理してました。ル・クルーゼのお鍋で煮込みハンバーグとか」「(好きな男性のタイプは)年上で引っ張ってくれる人。ギャップのある人も好きです」など、大好きなカレに愛されたい欲が強い、いわゆる“キャピキャピした可愛らしいお嬢さん”である「Ray」読者に寄り添うような発言を連発。「実力派若手女優」にありがちな、アングラ系CDを片手に「私、けっこうヤバいのが好きで」とアピールしたり、Twitterで高架下や夕焼けの“ちょっとよさげ”な画像と共にポエムを投稿するなど、オシャブカル(=おしゃれ+サブカル)の痛々しい自意識が桐谷には一切ありません。まさに「Ray」らしいインタビューから始まった今号を、早速読んでいきましょう!

<トピック>
・美玲Style★美玲Beauty
・ハートに響くMyライブラリー
・プリ娘。の部屋

■「Ray」の書籍特集がカオスに

 どの女性誌でも、専属・読者モデル以外に、「●●ちゃんのカバンの中身を大公開~!」「●●ちゃんの秋のイチオシアイテムを教えて!」などといったコーナーに、芸能人が登場することがよくあります。「Ray」も例外ではなく、先月号では、関ジャニ∞が登場し、「僕たちが出会いたい(はぁと)夏の胸キュンコーデ」を提案したり、今号でも「西野カナちゃんみたいになれる秋おしゃれKey word7」という企画で、実際に西野カナが最新トレンドアイテムを着こなしていました。女性誌に登場する芸能人というのは、その雑誌の想定読者層が憧れているであろう人物を登場させるのが基本。つまり、「Ray」編集部は、「うちの読者は、関ジャニ∞のような彼氏が欲しいと願い、西野カナのようになりたいのだ」と考えているわけです。

 しかし、これは、あくまでも表層的な憧れといってもいいのかもしれません。先にも述べたように、「Ray」読者の特徴は、「カレに愛されたい、甘えたい」と、何のてらいもなく言える素直な女の子。くどいくらいに「会いたい会いたい」と歌い、しまいには「震える」と発作騒ぎまで起こしてしまう西野カナの曲を、真っ直ぐに受け止め、共感できちゃうような子が読者なんです。「“会いたい”のリフレインに込められた西野カナの思想とは?」なんて、歌詞分析を始めちゃうサブカル思考は微塵もありません。顔がカワイイから西野カナちゃんが好き、着ているお洋服がおしゃれだから西野カナちゃんが好き、そして、「好きだから会いたい!」ただそれだけなんです。

 そんな竹を割ったような「Ray」ですが、今号には、芸能人に、大切な一冊を紹介してもらうという特集「ハートに響くMyライブラリー」も掲載されていました。表層ではなく、「Ray」読者の心の奥底に訴えかける憧れの芸能人とは誰なのか、わくわくしながらページをめくりました。……が、そこにはなんとも不思議なメンバーが集結。EXILE・MATSU、中川翔子、佐藤かよ、園山真希絵、杉村太蔵、西川史子という、期せずして『サンジャポ』(TBS系)のひな壇のようなラインナップに。せっかく巻頭で桐谷美玲が、「Ray」らしさを発揮したにもかかわらず、MATSUが『超訳ニーチェの言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を、杉村太蔵が『憲法』(岩波書店)を、そして園山真希絵が『媚びない人生』(ダイヤモンド社)を紹介するという暴挙に出ていました。「Ray」読者は、一体このページから何を受け取るのか。「いや、媚びてるっしょ!?」ということには、気づいてほしいと思います。

■「Ray」読モに有吉の生霊が降臨

 「Ray」読者とは一体何者なのか。それを探るために、「Ray」の読者モデルを務める女子大学生3人の座談会「プリ娘。の部屋」を読んでみましょう。両手を軽く握り、あごに沿わせる“田中みな実”ポーズを決める読モたちが語らうのは、「彼を凹ませちゃった経験って?」というテーマ。「彼が部活でチームを降板させられたとき、私は大学が楽しくなりはじめた時期だったんですね。それをいつも話してたら“いいね理紗は楽しそうで”って……」「私サロモの撮影が楽しくてしょうがなかった時期があって。仕事ばっかりしてたんですよ。そしたら“本当にオレのこと好きなの?”って、気まずくなったことがあります」など、キラキラと輝く、ポジティブ一辺倒の「Ray」読モに、卑屈になっている男の影が見え隠れします。一番身近にいる彼氏ですら「ちょっとウザい」と思ってるなんて……。やはり、「Ray」読者の心の中は、分け入っても分け入っても、お花畑なのでしょうか。

 そんな中、座談会参加者の中で、こんなことを言っている女の子がいました。彼が気にしている自身の「鼻の形」について、何の気なしにからかってしまい、落ち込ませたと嘆いているのですが、なんと「にんにくナルシスト」と呼んだとのこと。「にんにくナルシスト」……その突出したあだ名センスに大爆笑すると共に、突如「Ray」読モから向けられた笑いの刃に驚いてしまいました。それに対し「冗談も度がすぎるとダメってことですか?」「やっぱり彼を立てるというか、尊重することが大事だなって思った」と、無邪気な男性掌握術を語らう彼女たち……。「Ray」読者は、素直で、ポジティブで、天然で、だからこそ、たまに奇跡のような面白さを発揮するのかもしれません。

 「Ray」に対して、「はいはい、すっごく可愛いね。彼にも可愛いって言ってもらえるよ。よかったね~毎日幸せで。ゆるふわゆるふわ~」と、上から目線で語りたくなる人も多いかと思います。しかし、何だかそれでは負けのような気がしてしまうのです。戦意のない相手に、敵意をむき出しにする“ひとり相撲”状態に、哀れさを感じると言ってもいいかもしれません。でも、やっぱりなんか言ってやりたい! もし、「Ray」を具現化したような女の子が部下になったら……将来、自分の息子が彼女として連れて来たら……そんなくだらない不安を抱きながら、今月号の「Ray」を閉じました。
(豊島ユイ)

最終更新:2012/09/05 19:49
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