コンサバ復活の「VERY」に潜む、「社会問題と向き合う私」という価値観の萌芽
今月から、「VERY」は井川遥さんのコラムが終了し、表紙も読者モデル・滝沢眞規子さんになりました。そのせいか、そこはかとなく先月までのアグレッシブさが薄まり、コンサバが戻ってきた感じがするのは、滝沢さんのビジュアルに気をとられているための、ただの印象論でしょうか?
ここ1年くらいの「VERY」は、「とにかく消費一辺倒」の方針を卒業して、「コ・ジ・マ・メ・セ・ンのもしかしてVERY失格」や「母ゴコロ エコゴコロ」といった、女として、母としてのあり方を考えさせるような連載があり、華やかなファッションページと2つの軸で進んできたわけです。そのせいか、おのずとコンサバ、甘さの割合が弱まり、「美味しいごはんに放射能フリーの知恵」「しのびよる『妻だけED』の真実!」(2012年7月号)や小島慶子さんと北原みのりさんが木嶋香苗を語るという対談ページ「なぜ、女性は自分だけの佳苗を語りたがる」(2012年8月号)までが組まれる事態に! これまで「VERY」を読んでいなかった人にまで、「あれ? なんかVERYが違うぞ!」と思わせるところまで来ていました。
それが、滝沢さんが表紙になった今号は、“ゆるふわコンサバ”路線にバックラッシュしているような……。読者としては、もっとあの勇ましい路線がよかったのにという気持ちと、いやこの“ゆるふわ”誌面ににじみ出る本性こそが「VERY」の真骨頂という気持ちで揺れています。
<トピック>
◎滝沢眞規子さんの『主婦ベーシック』の作り方
◎最近、私“可愛い”が足りない!
◎今、“サードプレイス”が子育てママを救う!
◎「VERY」の大転換!
前置きが長くなってしまいましたが、まずは大特集「滝沢眞規子さんの『主婦ベーシック』の作り方」からじっくり見ていきましょう。
滝沢さんというのは、スカウトがきっかけとなり、31歳で「VERY」に登場。「主婦、そして母であることに誇りを持ち、今どきの“主婦らしい”ファッションを体現している」ところが人気なんだとか。しかし、ただ“主婦らしい”のではなく、プール帰りでもジミー・チュウ、公園でもトレンチ、餃子の王将でもパリっとシャツ、自転車でもオール白など、「え? こんな時も?」というシーンで油跳ねも泥跳ねもいとわずに、きっちりしているところも魅力になっているそうです。
このほか、1週間前から準備を始めるバースデーイベントのことやら、自宅のシューズクローゼット公開から、挙げ句の果ては旦那さんとお子さん3人とのショットまで載せる充実っぷり。こうした“リアル”を読者はどう受け止めるんでしょうか。
というのも、井川遥さんはタレントということもあり、家族のことや暮らしぶりもある程度までしか見せないわけで、そこにはヴェールに包まれた“非リアル”さがありました。だからこそ読者としては、「VERY」の世界観に憧れを保てた部分もあったと思うんです。ここまで滝沢さんのリアルを出されると、読者自身との対比が際立ってしまいます。次号以降、マイナーチェンジをしていくのか、それともこのまま滝沢リアルを提示していくのか気になります。
◎女性誌に潜む「女の目」
今月の「甘さ」へのバックラッシュは、これ以外にあります。題して「最近、私“可愛い”が足りない!」です。まんまここ数カ月の勇ましいモードを反省しまくってるとしか思えません。とはいえ、ママになってまんま「可愛い」を実践していると、「痛い」と思われることも危惧しているようで、「痛くならない可愛い加減を学びます!」とのコピーが躍っています。
しかし、「VERY」に限らず、昨今の女性誌で「可愛い」「甘い」「男受け」を狙ったページを作る時は、なぜあんなにもエクスキューズが多いのでしょうか。もちろん、30代雑誌にも多いのですが、若い子向けの「JJ」(光文社)にも、「おしゃPだって男受け!」(2011年12月号)と、やはり女目線を気にしつつの男受け特集がありました。このように、「女」の部分を出そうとする時に、ネタ化させないといけない空気が女性誌界に蔓延しているのは事実ですが、「VERY」も然りというのは、興味深いところです。
◎「甘さ」を調和するための「社会問題」記事
「男受け」や「可愛い」にエクスキューズがいるのは、やっぱり「女性集団の空気を乱してはいけない」ことが重要視されているという、窮屈さからくるのではないかと思われます。そんな時代を象徴してか、「VERY」にも、「今、“サードプレイス”が子育てママを救う!」という特集がありました。
サードプレイスというのは、アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグが、「人には自宅、職場に次ぐ第三の場所が必要」と提唱したのが始まりで、あのスターバックスも採用しているコンセプトだそうです。
「VERY」のママたちにとっては、家庭、ママ友、そしてサードプレイスという位置づけは必要なようで、テニススクール、英会話の先生、母のような先輩ママなどが「私のサードプレイス」としてあげられていました。ま、肩肘をはらなくても良い趣味空間という言い換えも可能ですが、ここでも周りと比べたり、張り合ったりしている現実が見えて、げんなりしてしまいました。
「甘さ」は復活したにせよ、今号の「VERY」では、このような「サードプレイス」の話題が上るほか、原宿カウンセリングセンター所長・信田さよこさんを招いての「30代で『母』と向かい合う」という特集も組まれています。社会問題と向き合う“ちょっと意識の高い私”という価値観が、徐々に「VERY」誌面を割くようになってくるのでしょうか。
滝沢さんが表紙になって、甘さがぶり返したかと思いきや、その路線で突っ走るわけにはいかなさそうな片鱗も見えた今月の「VERY」。来月がどう来るか、楽しみです。
(芦沢芳子)