NHKなのに、オリンピック開会式を妄想しただけの『時論公論』
今回ツッコませていただくのは、4年に1度の夏季オリンピックに各局・各番組が浮かれる中、異質さが際立っていたNHK『時論公論』。
オリンピック開幕直前の7月27日深夜に放送された同番組のテーマは、「まもなく開幕! ロンドン五輪への視点」だった。
番組を担当するのは、刈屋富士雄解説委員。地味な画面構成で、落ち着いた口調で淡々とロンドン五輪が語られるのだが、その内容は、ところどころ耳を疑うようなものだった。
「イギリス伝統の田園風景を競技場に再現し、見ている世界の人も『あ~、これがイギリスだよね。イギリスと言えば、これだよね』という、代表的な出し物や人が次々と登場してきそうです」
??? なにこれ? 開会式予想? 暴走気味に聞こえるのに、驚くことに、ほぼ無表情だ。
さらに「風刺の国イギリスらしく、ユーモアが」「等身大で過去から現代のイギリスを包み隠さず、自ら風刺を込めて」などの予想が続いた後、トドメに出たのは、こんな言葉だった。
「テレビを見ながら、いろいろなことを話したり、画面に向かってつぶやく、いわゆる“ツッコミどころ満載”の開会式になりそうですが、時間帯が明け方5時からですので、公民館やスポーツバーなどで、みんなとワイワイやりながら見るというわけにはいきません」
平日23時50分からという遅さ&たった10分間という短さ&地味な雰囲気ゆえに、『時論公論』はこれまでノーマークだったが、まさかこんなに刺激的な番組だったとは……。
だが、考えてみれば刈屋富士雄解説委員といえば、「金メダルアナウンサー」などとも呼ばれているNHKの看板スポーツアナの1人。荒川静香が金メダルを獲得した際のハイテンション実況「トリノオリンピックの女神は、荒川静香にキスしました!」などをはじめ、これまでにも数々の伝説を残している人物だ。語調を強めたり、叫んだりしなくとも、静かな淡々とした口調の中に「興奮」は十分伝わってくる。
ちなみに、刈屋解説委員の「開会式予想」を離れ、実際に競技が始まってからも、柔道では「ジュリー(審判委員)」にオジさんたち3人が揃って怒られているように見えるシーンがあったかと思えば、判定が覆って柔道男子66キロ級で海老沼匡が勝利したり、体操男子団体でも、抗議が認められて日本が銀メダルになったりと、別の意味で「ツッコミどころ満載」の大会になってしまってはいる。
ある意味、なぜか予言のようになってしまった『時論公論』。そもそも「公」の「論」と言いつつ、思いっきり主観的ではないか。深夜であまり人が見ていないのをいいことに、実はけっこうやりたい放題の番組だったりして? 今後チェックしてみたいと思う珍番組だった。
(田幸和歌子)