カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「STORY」9月号

“エア恋愛”に“晩産育児”「STORY」が40代女性に強いる「余裕」とは?

2012/08/04 16:00
「STORY」2012年9月号(光文社)

 今月の大特集は「価値ある安さ『プレプラ服』が40代をアゲる!」です。ただのプチプラ(プチプライス)ではなく、プレプラ(プレシャスプライス)。安いけど価値あるもの=プレプラ服について「『大人の女性が安い服を着ているなんて、イタイ!』そんな時代は今は昔」「安い服を賢く着こなしている人こそ、素敵に思える時代」と、「STORY」流の言い訳リードで訴えておりました。仕事着として、学校行事に、女子会やfacebook同窓会でも、プレプラ服は大活躍の様子。「実は……ZARA」「実は……マウジー」「実は……ユニクロ」など、ブランド名がプライスとともに表記されていて、まさに「してやったり!」の風情。このシチュエーションどこかで見たことあると思ったら、アレです。通販王「トーカ堂」の北社長が価格を発表する時と同じ空気感! 北社長が「すいません……きゅうまんきゅうせんはっぴゃくえーん……」とドヤ顔で謝罪した後、ゲストの八波一起氏が「社長! 大丈夫ですか!? 会社潰れちゃうよ!」と言いながら、社長の肩をつかんで揺さぶるという、鉄板のあのやり取りを想起させます。リードにも「『実は……これ安いの!』なんて答えるのは、最高の喜び」とありますしね。アラフォー女性が「実はコレ……」と言い出した時には、ぜひこの八波さんのリアクションを参考になさってください。それでは今月のラインナップを。

<トピックス>
◎大特集 価値ある安さ「プレプラ服」が40代をアゲる!
◎40代は「エア恋心」がオシャレの原動力
◎私たちのCHALLENGE STORY 晩産ママたちの「子育てと、仕事と、私と」

■エア恋愛、笑っていいとも?

 先月号で大変な反響を呼んだという「月イチ男友達・FACE BOOK同窓会・ダンナの日、の服」。40代女性が“現役感”を勝ち取るために行う秘密の儀式を見るような、そんな気持ちにさせられる趣き深い企画でした。今月はその“現役感”にもう一歩踏み込むページがあったのでご紹介を。名づけて「40代は『エア恋心』がオシャレの原動力」。

 「美しい輝いている40代女性は、どうして“キレイ”をキープできるのか。その秘密を聞くと返ってくる答えとして多いのが『素敵な男性が回りにいる!』」。ハイ。これが言えるかが「エア恋心」の第一関門。「キレイ」と言われて否定せず、さらにそこに男の匂いを忍ばせるなんて、そこいらの小娘ができる芸当ではございません。

 さて肝心の中身はと申しますと、「エア恋心の傾向」と「エア恋心の効能」をジャンルごとに分析しています。エア恋心の傾向としては、「フェイスブックなどSNSがきっかけで再開した旧友が素敵に映って」「“働く40代”は、同僚や取引先の相手に『素敵!』と感じることも多いみたい」「子供関係の集まりで知り合いが増え、世界が広がって抱く『エア恋心』も」という3タイプがあるそうです。特にネットには、女をアゲる要素がザクザクしているんだとか。元彼とfacebookでうっかりつながっちゃったり、元彼の名前をついうっかり検索しちゃったり、ブログでコメントくれる男性にポッとしてしまったり。「ネットリテラシーが……」なんて言わないで。ただでさえネタの少ない40代女性を、指先1つで非日常空間に誘ってくれるのですから。例えそのコメント主が、本当は男性じゃなくっても!

 「恋心の効能」はとにかく「女磨き」です。先ほどまで「洋服に必要以上のお金をかけるのダサいっす!」と言ってたのに、高級美顔器&美容液で土壇場ケア、エステでむくみケアをして、デコったフットネイルで足先をキラキラに、ムダ毛というムダ毛は徹底除去、そしてハイブランドのヒール靴でキメています。なんたるダブルスタンダード! すでに当初の目的は見失い、ただただ自分うっとりにシフトしている彼女たちに「洗練されていくことでさらに他の男性の目を惹きつけるという、嬉しいプラスのスパイラルが起きる人も」とダメ押ししていました。鬼ですね!

 そして……最終ページには「「エア恋心」はあくまで女を磨くための一つのきっかけ。媚薬にとどめてこそ効果があるんです」という一文が。「元彼にフェイスブックで『友達リクエスト』してみたけど、承認してもらえなかった……(37歳主婦)」というオチで締めくくられておりました。まさに「祭りの後」です。

 壮大な「女の現役祭り」の中に、仕掛けられるジュエリーやエステやハイブランドファッションの罠。これぞ女性誌。イっちゃってる企画はとことん真剣に、何の迷いもてらいもなく。テキトーなポエムでゴマかしたりしない、「STORY」のしたたかさが見え隠れする爆笑企画でした。いや、笑っていいんですよね、コレ……?

■その余裕が、首を絞めることも

 40代だからこその「エア恋心」から一転、「STORY」の骨太連載「私たちのCHALLENGE STORY」を見てみましょう。今回、ついにあの方が降臨ですよ。会員番号36番・渡辺満里奈が「晩産ママたちの『子育てと、仕事と、私と』」に登場です。扉ページの満里奈さんは、見事なまでのウォーズマンカットに、山伏のようなネックレス&ブレスレッドを身を着けた格好で、刺繍をするという、なかなかシュールな出で立ちです。

 満里奈さんを含む5人の40代子育てママたちが、「どうして今出産・子育てなのか」「40代育児ならではの悩み/利点」「夫の協力」「仕事」「社会との関わり」について語りまくっています。全体的に漂うのは、やはり「余裕」ですね。1人で育児を抱え込み、あげく乳腺炎にもかかってしまった満里奈さん。「突然、声を出してわんわん泣いてしまった」ことも。しかし「1人で抱え込むな」と言ってくれる理解ある夫、そして「40代のパパたちはまさに働きざかり。全面的に手伝えない。それを理解できるのが高齢ママならでは。いろんなことを乗り越えてきたうえでの子育てだからこそ、夫婦としてもお互いを思いやることができるんですよね」という視座の高い妻。はぁ。英会話スクールを経営する48歳の女性は、「朝の日課として手帳を見せ合う。ジグソーパズルのように二人の時間を合わせて、ご飯は一緒に食べることができるか、息子のお迎えはどちらが行うかなどを決めている」のだそう。いわゆる“イクメン”夫持ちです。「僕はイクメンには二つのパターンがあると思っていて、元来子供好きでサポートをする人と、働いている女性を応援したいという思いから助け合うパターンがあると思います。僕はどちらかというと後者で、家族全体の和のためにサポートしています」とコメントを寄せています。どうやら視座が高いのは妻だけではないようです。

 晩婚化、晩産化が進む現代、「40代で生む」という選択肢は決して珍しいものではなくなりました。この特集を読んで感じたのは「40代ならではの余裕」と、その裏にある「40代だから余裕を持たねば」という重責。これは人生経験豊富な晩産ママにずっと付きまとう十字架なのでしょう。満里奈さんの「長男用に編み始めた手袋とニット帽」「手作り刺繍入りの母子手帳入れとアルバム(無印良品のアルバムをアレンジ)」の写真に、ずっしりとした思いを受け取った次第です。

 子ども、母親、父親、家庭環境……無限の組み合わせから成り立つ子育てには、もちろん正解なんてありません。それなのに、この世の中には、育児に関する情報が巨万とあふれており、不安な母親たちを一喜一憂させます。でも、もしかしたらその“ウロウロ”こそが親としての成長過程なのかもしれません。経験豊かな晩産ママたちにタグ付けされた「余裕」が、かえってママたちの首を絞めることにならないか。「STORY」と併せて「I LOVE mama」(インフォレスト)の購読もぜひともおすすめしたいと痛感した、「STORY」9月号であります。
(西澤千央)

最終更新:2012/08/04 16:00
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