夏の怪談スペシャル! 安彦麻理絵の「本当にあった私の不思議体験」
夏。夏といえば「怪談」である。先日、工藤美代子さんの『なぜノンフィクション作家はお化けが視えるのか』(中公文庫)という本を読んだ。久々の怪談本。工藤さんの本は、いわゆる巷の怪談本とはひと味違って、なんていうか「コワイ話の中にも、人生のビミョーな話が、ほどよくトロっと混ぜ込まれてる」みたいなカンジで、そこがすごくおもしろかった。全編、工藤さんの体験談である。読んでいくうちに、自分も工藤さんに触発されて、「私のフシギ体験」を総括してみたくなった。以下、数少ない私のヘンな体験、である。
その1)
中学時代、授業中に隣の席の女の子の二の腕のあたりに、プカプカ浮かぶ白い人影を発見。それはなんとなく「オールバックの中年の男」という感じがした。「なんだこれ?」と凝視してるうちに、突然、急に怖くなって「うおおおおお~~~っっ!!!」と、ジャイアンみたいな声で悲鳴をあげたら、ソレはパッと消えた。私の突然の悲鳴に教室中、大パニック。ちなみに、隣の席の女の子に、その後、何か悪い事があったかというと、別になんにもなかった。一体何だったんだろう、あれ。
その2)
今から10年以上前の話。実はウチの弟は「視える系の人」らしいのだが、その弟が「姉ちゃん、なんとかしてくれ!!」と泣きついてきた。なんでも、家の中のモノが勝手に動く……とのことで。あんまりコワイんで家の玄関に「盛り塩」をしていたのだが、それもいつのまにか、ひっくり返って散らばってたらしい。お札とか貼っても、とくに効いてるふうでもなく、まったくどうしたものかと、頭を抱えている。その有様を見て、私はなんとなく「怖がらせておもしろがってる奴がいる」ような気がした。なんだか無性に腹が立った。そこで、「ブスのイラスト」(調子に乗ってるブスのコギャルなど)を4枚くらい描いて「これ、部屋に貼ってみろ」と弟に渡したところ。「姉ちゃん、部屋で変な事、起こらなくなった」と、弟が驚いている。なるほどな、と私は思った。「トンマ・マヌケ・バカ・爆笑」の気が流れてる所に「悪い奴ら」は寄って来れないのだ、と確信した。ヘンなものに取り憑かれたくなかったら、ウジウジクヨクヨしないに限る。弱みを見せるとつけ込まれる……「ブスが悪霊を撃退」。思い出に残る「フシギな話」であった。
その3)
元・夫の友人が、住み込みでビルの管理人をやっていた。寝泊まりしてるのは、そのビルの地下。そこに「出る」んだそうである。元・夫も含め、友人5~6人でその「地下の部屋」に行ってみた。ボイラーとかコンクリートむき出しの地下室の隅に、6畳くらいの和室がある、というヘンな作り。我々は、その和室ではなく、ボイラーむき出しの所に、イスとテーブルを並べて酒を飲んでいたのだが。ふと、和室の方に目をやると、誰もいないはずの部屋の壁に「黒い人影」が、ユラユラ動いている……ああ、ほんとにいるんだな、と、妙に落ち着いた気持ちでソレを眺めていた私。なんで悲鳴をあげなかったかというと、友人の中に「もうイヤ!! イヤ!!」と、過剰に怖がってる女の子が1人いたからだ。なので私は、その場では何も言わず、普通に酒を飲んでいた。で、後日談である。その、管理人をやっていた人、その後、どっかの病院に緊急搬送されて入院してしまった。なぜそんなふうになったのかは、よくわからないのだが、救急車で運ばれる時、どういうわけか「『怯え』が異常なくらいにひどかった」そうなのである。その人が、その後どうなったかは聞いた事がない。
その4)
「霊感」なんてものは、私にはない、と思っている。しかし「カンはいいほうかなぁ?」と思う事が時々ある。この話も多分「カンがいいから」で済ませたい話である。
今から20年くらい前。知人に「精神的にちょっと弱いらしい」人がいた。精神科に通っていた事もあるみたいだ。確かにすごく繊細そうで、その人に会うと私はいつも緊張して、逆に自分のテンションを上げすぎて、何しゃべってんだか、ワケの分からない状態になるのだった。そんなある日。私は一人で新宿の書店をブラついていた。そして、ふと目の前を見たら、向こうから、す~~~っと、こちらに近づいてくる人がいる。文字通り「す~~~っと」である。それは「歩いてる」感じがしなくて、なんていうか「地上2~3センチ上を浮いた感じで移動してきた」ふうに見えた。一瞬ギョッとしたのだが、よく見たらそれは「知人の、その人」であった。その人は、私の顔を見て、なんとなく力のこもってない笑顔でヘラ~~~っと笑ったので、私も笑顔で会釈してその場を後にした。なんだか、悲しいような、イヤな、妙にやりきれない気分になったのを覚えている。それから少しして、共通の知り合いから、その人が自殺した事を知らされた。悲しいというよりも、なんだかすごく怖かった。
それから10年以上がたち。これまた別の友人の話である。彼女とはとても仲が良かったのだが、ある時期を境に、絶縁状態になってしまった。ちょっとした諍いのつもりが、ちょっとどころじゃなくなってしまった、というか。私としては「別にまぁ、それもしょうがないだろう」と、復縁をあきらめていた。しかしそれから約5年後。今まで全く何の音沙汰もなかったのに、突然、彼女から電話があった。ビックリした。普通に元気そうにしゃべっている。そして、また、会いたいねー!! と、言ってきたので、それならじゃあ、と、久々に一緒に飲む事になった。久しぶりに会った私達は、5年のブランクを感じさせないような、そんなノリでワイワイ近況報告をしあい、ガンガン酒を飲んだ。そうこうしてるうちに彼女が、ちょっとトイレに行ってくる、と、席を外した。そして。店内を横切ってトイレに向かう、その姿を見た時。私はギョッとした。なぜなら。「あの時」と同じだったからである。新宿の書店での、あの時。彼女は「地上2~3センチ上を浮いてるみたいに、す~~~っと、すべるように移動して」トイレに入っていったのである。死んだ知人の事が思い出された。あまり深い事は考えないようにしたけれど。私はその夜、飲み過ぎてひどい酔い方をしてしまった。帰りのタクシーから降りると、四つん這いでゲロゲロ吐いた。それから1週間ほどして。共通の知人から、電話があった。彼女が、喘息の発作を起こして急死したとの事だった。今思えば、彼女は自分の死期を悟っていたんだろうか? だから突然「会おう」なんて言ってきたのだろうか……そして。「もうすぐ、死ぬらしい人」は、地上2~3センチ上を浮いてるみたいに移動する、っていう、なんだかよくわからない共通点。なんで私には、そんなふうに見えたんだろう? ただの偶然なんだろうか。とはいえ、あの時以来、私は「そういう人」には、お目にかかっていないし、これからもあまりお目にかかりたくはないなぁ、なんて思っている。
てなわけで。以上がまぁ、私の人生の中での、ちょっとした「ヘンな体験」である。もしかしたら、もっとほかにもあったかなぁ、なんて思ったが、あんまりこういう事について考えすぎると、ヘンなのが寄ってきそうなので、コワイからもうやめとこう。
ところで。先日、4歳の長男が私に「ねぇねぇ、ユーレイなんてこわくないよねぇ!?」と、聞いてきたので「こわくないよぉ、ユーレイなんてこわくない!」と、私は答えた。そして。「生きてるニンゲンのほうが、ず~~~~っとコワイよぉ~~~~~」と言ったら長男は、暗い目をして無言になっていた。