ジョンベネ事件の元捜査官が記録書を発売、内部犯行説を強く主張
美少女コンテストの常連だったジョンベネ・パトリシア・ラムジー(享年6歳)が、性的暴力行を受けたうえに殺害された“ジョンベネ殺害事件”から、15年がたつ。家族の犯行だと疑ってかかった地元警察の捜査ミスが祟り、現在に至るまで有力な容疑者を特定することができず、完全に迷宮入りしてしまっている。事件がどんどん風化していく中、地方検事に雇われ、捜査に携わった人物が、「外部の人間が事件に関わった可能性は非常に低い」と主張。事件の概要と捜査内容を詳しくつづった記録書を自費出版し、真犯人に関する独自の見解を示していると注目を集めている。
コロラド州ボルダーで会社を経営する裕福な父親と、元ミス・ウェストバージニアの母親の間に生まれたジョンベネ。母親は、自分がかなえられなかったミス・アメリカの夢を娘に託し、幼いジョンベネをお姫様のように着飾らせ、大人への媚の売り方を叩き込んだ。ジョンベネはそんな母親の期待に応え、美少女コンテストを次々と制覇。父親の事業も順調で、ラムジー家は幸せの絶頂にいたのだが、1996年のクリスマスの翌朝、悲劇が起こった。ジョンベネが誘拐され、その後、自宅の地下室で遺体となって発見されたのだ。口をガムテープで塞がれ、首には紐で絞められた痕が残る、無残な姿だったという。
司法解剖の結果、性的暴行を受けていたことが判明すると、メディアはこれを大々的に報道。警察は、捜査に非協力的だった両親の犯行だと疑い、証拠不十分だが起訴しようと大陪審に持ち込んだ。1年半の審議の結果、大陪審は不起訴を決定。その後、両親は警察を名誉棄損で訴え、警察は信用を落とした。02年以降は、ボルダー郡司法当局内で結成された特別捜査チームが、警察からジョンベネ殺害事件の捜査を引き継いでいる。
今回、老後のための貯金の大半を費やし、『Foreign Faction: Who Really Kidnapped JonBenet?』を発行したのは、ジム・コラールという元捜査官。彼は、04年春にボルダー郡司法当局の地方検事メアリー・キーナン・レーシーの依頼を受け、事件を担当するようになった。
事件現場写真とビデオテープ、証拠品リストや関係者へのインタビューの内容、両親を起訴するか判定した大陪審の記録、法医学的証拠などをまとめた6万ページにわたる事件報告書にアクセスする権利を与えられた彼は、警察が見落とした2つの事実が、事件を解決する糸口になるのではないかと確信。警察が軽視した、「ビデオテープに映っていた、地下室の窓にかかっていた蜘蛛の巣」と、「地下室に転がっていた玩具」は、犯人が外部から侵入した者ではないという動かぬ証拠だと、結論づけた。
蜘蛛の巣が残っているということは、犯人が地下室の窓から進入したという説を打ち消す。また、玩具はジョンベネの背中の2つの傷と一致する可能性が高く、ジムは「犯人がスタンガンを背中に押し当て、ジョンベネを脅した」という説を打ち消すと主張。「家族が犯人なら、スタンガンで脅さなくてもジョンベネは言うことを聞くはず」「スタンガンの跡が残っていたということは、犯人は家族ではない」という説を否定したのである。
スタンガンに関しては、多くの時間を費やし、調査や実験を重ねたというジム。捜査に絶対的な自信を持つ彼は、ジョンベネ殺人事件は、外部の人間が侵入して起こしたものではないと結論づけている。
しかし、彼の雇い主であるレーシー検事は、「ジョンベネの下着に付着していた唾液のDNAを鑑定した結果、家族の誰とも一致しなかった」と発表し、ラムジー家に対して、これまで疑惑の目で見てきて申し訳なかったと謝罪。ジムは、これに落胆し、06年3月に捜査官としての職を辞したとのこと。なお、このDNAは、160人にも上る容疑者候補の誰とも一致せず、捜査は完全に行き詰まってしまった。
06年8月にタイで逮捕された米人男性が「自分が真犯人」だと告白し、事件は再び注目されるようになったが、DNA鑑定の結果は不一致。事件は振り出しに戻り、未解決事件として迷宮入りした。ちなみに、ジムは、この騒動をテレビで見て、「ジョンベネ殺人事件の真実は必ずどこかにあるということを、世間に伝えたい」という気持ちになったとコメントしている。
今回、ジムが自費出版した本には、口外しないことを誓約した大陪審の記録以外の、事件に関係することすべてが記されているとのこと。ジムは、ジョンベネが殺害される直前に性的暴行を受けたということに否定的なのだが、そう考える証拠も挙げているという。
コールドケースであるジョンベネ殺害事件を掘り起こし、名誉挽回したラムジー家の人々を再び好奇の目にさらしかねない本を自費出版したジム。米ニュースサイト「The Daily Beast」の取材に応じた彼は、事件の捜査内容を暴露した理由を、「このままだと、誰も起訴されずに終わってしまうと確信しているからだ」と説明。「公正な裁きが下されるべきだ」と信じているからこそ、本を執筆したのだと明かした。
ジョンベネの母親は06年に卵巣がんで死亡。父親は昨年67歳という高齢で再婚しており、事件を引きづりつつも、新しい妻と幸せな時を過ごしている。殺害に関して何かを知っているのではと疑われ続けてきた兄のバークは、10年に捜査当局からコンタクトを受けたと伝えられ、何か動きがあったのかと注目されたが、結局、何も発表されなかった。
DNA鑑定の結果、無実となったラムジー家。家族に同情しながらも、怪しいと思っている人はかなり多いとされている。アメリカ国民が、本書にどう反応するのか、興味深く見守っていきたい。