カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「HERS」8月号

フェアトレードパンツを売って優雅さを得る! 「HERS」的労働の考え方

2012/07/23 21:00
「HERS」2012年8月号(光文社)

 今月は「HERS世代は、今も“成長期”なんです」ということで『3年前より「今の自分」が好き!』という大特集が組まれています。50代を過ぎても、昔の自分より今の自分の方が楽しいと思えるのは、経済的だったり、身体的に恵まれているということもあるでしょうけれど、もっと言うと、やっぱりHERS世代は「いい時代に生まれた人たち」なんだなと思わされます。これが、20代だったりすると、「今よりこれからの自分が不安」と感じるのでは……。

 この特集には、萬田久子さんと浅田美代子さんの対談が掲載されているのですが、「ずっと一人でいるとね、楽チンだからずっとこのままいちゃいそうで……」と萬田さんがこの先の恋についての話題を振ったところ、浅田さんが「私たちも、聖子ちゃんみたいに歯医者通っちゃう?(笑)」と時事ネタを投入。「HERS」のお気楽ぶりが垣間見えてしまいました。

<トピック>
◎3年前より「今の自分」が好き!
◎私が「期間限定活動」をする理由
◎湯山玲子の人生相談 かる~く五十路越え!

■労働は優雅さの演出方法!?

 既婚女性が主な読者層でありながら、妻であるだけでなく、母であり、女であり、そしてキャリアもある、「いくつもの顔を持ってこそ一人前」という価値観が誌面から漂ってくる「VERY」と「HERS」。その上、最近では、「社会と何らかの関わりを持つ」ということも、重要になってきていいます。「VERY」では、主婦の地域活動を取り上げた特集も、よく見かけるようになりました。

 今月の「HERS」にも、そんな特集がありました。題して「私が『期間限定活動』をする理由」です。期間活動ってなんでしょうか? なんだか部活動みたいですよね。中身を読んでみると、ある人はフェアトレードのパンツを期間販売、またある人はプリザードフラワーを販売、夏の間だけカフェを経営、友人のジュエリーサロンで1日限りのギャラリーを開催といった活動をしているようです。

 「フェアトレード」の意味を調べてみたところ、「安い賃金で働く途上国の人たちの生活向上を目的とし、適正な価格で行う取引、またはその商品」のことを言うそうです。

 確かに、そういった商品を扱うことは、世のためになるということはわかっていても、何か「期間限定」で社会と関わるという行為に手放しで「いいことですね」とは言い難いものがあります。その要因は何なのかと考えると、やはり、社会に対して何かをやりたいというモチベーションよりも、単に趣味の要素が大きいように見えるからかもしれません。

 それでも、「こうした活動はしないよりはいい」という意見ももちろんあるとは思いますが、この特集のテーマにかかるキャッチコピーが「対価はプライスレス!」と書かれていることからも、お金では買えない価値観が欲しいという優雅さが漂ってくるのです。

 昨今は、労働(の体験)をお金で買うツアーもあるんだとか。「HERS」で紹介された労働は、あくまでもお金を得るためではなく、自分を高めてくれる行為とも言えます。途上国の生活を向上させるための「フェアトレード」は、日本人にとっては単なる自分磨きでしかないのだと思うと、途上国と日本の差を余計に強く感じてしまいました。

■家庭を守るのは代行サービスで十分?

 世間知らずで、現代の動きについていけてない、お幸せなお嬢様である「HERS」読者に、現在の世知辛さを教えてくれる「湯山玲子の人生相談 かる~く五十路越え!」。今月の質問は、今、なにかと話題の「夫の第2の女性問題」「離婚の危機」です。これまでは黙認していた、夫の仕事のパートナーでもある女性が、夫との結婚を望むようになってきたという相談者に対して、湯山さんは「戦友であるとともに体の関係もあるとなると、ふたりの絆はずっと強固でしょうね」とズバリ。妻というだけで「家庭を守ってきたのは私よ」と思っていても、「そんなものは家事代行サービスで事足りる」と。長い人生を考えるなら、そんな代替の効く存在であるよりも、「男性と対等な関係を築ける自立した自分を作っていく」のもオススメと、アドバイスしていました。

 男性にとって、家事を完璧にこなす貞淑な妻がいいのか、戦友にもなりうる対等な女性がいいのかは定かではありませんが、若い人の保守化が進む今、保守派の女性を支えられるほど経済力のある男性が、ますます減っているのは事実。こういう考え方は「HERS」だけでなく、「HERS」の娘世代にとっても、重要な言葉なのかもしれません。
(芦沢芳子)

最終更新:2012/08/16 19:15
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