毎日お腹を空かせて登園……セレブ一家でも起こりうる育児放棄問題
駒沢の森こども園では、プールを始めました。駒沢という場所柄、都心と違い住宅に囲まれています。駒沢の森こども園は1階にあり、スペースにゆとりがあるので10人用のビニールプールを置くことができました。近隣の幼稚園ですらプールを置いていないので、園児たちは大喜び! 天候がよければ毎日午前中はプールに入ることができます。
私も小さい頃、プールが大好きだったんですが、プールを購入したものの母親がメンテナンスを面倒臭がってなかなか出してくれなかったんです。自分と園児たちがオーバーラップしてしまったので、駒沢の森こども園では毎日プールの時間を設けました! 実際、マンション住まいの子どもが多いし、庭のない家に住んでいる子どもも多いので、保護者からは感謝されまくりでした。日本一、親目線の保育園だからできることなのかも。水質管理や水温管理が面倒なのも事実だけどね。
もうすぐ園創立1周年を迎えます。この1年、激動でした。そもそも保育園というのは、日々いろんなことが起こるところ。楽しいこと、うれしいこと、イヤなこと、危ないこと、そして、親に対して「危ないな」と思うこと。今回は「もしや育児放棄?」と疑った親子の話を書いてみたいと思います。
オープン当初、在籍していた男児2歳(当時)の話です。父親は弁護士、母親は謎の職業、年長で受験生のお姉ちゃん、その男児4人の家族構成。母親は週何日か仕事場所が一定しない仕事をしていて(通常は育児資料表に勤務先を書きますが空欄)、駒沢の森こども園ができる前は、行き先によって子どもの預け場所を変えていたそうです。
その子の親に対して最初に不信感を抱いたきっかけは、連絡帳でした。連絡帳には、保護者から家での様子を書いてもらい、こちらは園での様子を書いてお返ししています。特に、体温、排便、睡眠時間、昨夜と当日の食事の部分は必ず書いてもらっています(言葉をうまく話せないことから、3歳までの子どもは重要)。
その男児は毎晩、「ミートソース」「カレー」の繰り返しで、「スパゲッティとカレーが好きなの?」と聞くと、「アンパンマンが描いてあるから」と答えたのでした。どうやらレトルト食品を毎晩食べているようで、朝は毎日菓子パンと記載されていました。つまり、男児がまともなごはんを食べられるのは、保育園だけです。いつもいつもお腹が減っていて、何度もおかわりをしていました。
そして、その子は靴下をいつも履いておらず、靴はサイズが合っていません。「サイズが合っていないので、痛がっています」と言っても、1カ月間その子は我慢して履いていたのでした。靴下を履いてなかったのは、少しでも長く、小さい靴を履くためだったのです。母親はバーキンを持って、キレイな服を着ているのに、なぜ? 子どもの靴なんて、ABCマートで1センチ大きいサイズを買ってくればいいだけです。手頃な価格の「瞬足」で十分なのに……。育児放棄は金持ちとか貧乏とか関係ないのかもしれませんね。
極めつけは、「トイレトレーニングを始めたいので、トレーニングパンツを持ってきてください」と言ったときのこと。「忙しくて、面倒くさいのでいいです」と母親は言いました。トイレトレーニングは自然とできるものではなく、保護者と保育園の両方でやらなくては完成しないと思うんですよ。「もう、○○くんはできると思いますので、パンツを持ってきてください」……おせっかいだと言われればそれまでですが、子どものためと思い、その後も言い続けました。
「仕事もしてて、上の子のお教室もあって今は忙しいです」。それが母親と交わした最後の言葉でした。保育士や私に言われるのが嫌になったのか、そのまま登園しなくなりました。仕事が大変なのもわかるし、小学校受験の子どもがいると大変なのもわかります。でも、もうちょっと下の子どもに愛情を注いでほしかった。今でも、保育園ではその子の話が出ますよ。「ちゃんと食べてるかな」「生きてるかな」「トイレできるようになったかな」……。
保育園は虐待や育児放棄の疑いがある場合、区の保育課や児童相談所に連絡するよう指導されていますが、体にアザや不審な傷があるなど顕著にわかるもの以外はなかなか難しいのが実態です。男児に対して、あのような対応で本当によかったのか今でもわかりませんし、引っかかっています。私立は辞めたら深追いはしません。「どうか元気で育って」としか言えないですよ。それが現在の法的な枠組みであることもまた現実なのです。
角川慶子(かどかわ・けいこ) 1973年、東京都生まれ。「角川春樹事務所」会長・角川春樹氏の長女。自身も元アイドルという異色の肩書きに加えて、ビジュアル系バンド好きで、元バンギャルの”鬼畜ライター”としても活躍。2011年9月1日に「駒沢の森こども園」をオープンさせる。家庭では4歳の愛娘の子育てに奮闘中。