カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「LEE」8月号

スナップで見つけた! 「LEE」が理想とする、おしゃれで手作りできるママ

2012/07/14 17:00
「LEE」2012年8月号(集英社)

 今月号の「LEE」は、ファッションページも読み物ページも充実しています。その中にあって異色だったのが、「Facebook事件簿」という企画。「ママ友から『投稿を見たら“いいね!”を押してね』みたいなことを遠回しに言われました」「『旅行にいってきます』と書いたら、たいして仲よくない友人から『おみやげ待ってます』的なコメントが……」など、よくあるトラブルが誌面の99%を占めています。でも、よくよく考えてみると、「LEE」には「MORE」(集英社)のOLの愚痴こぼしページのような定期的な息抜きページがないんです。「LEE」読者においての愚痴は、嫁姑関係、ママ友関係、夫への不満とシビアになりがち。たまにはお茶受け程度の「くすりと笑えるもの」が必要。改めて、女性誌における読み物ページの意義を考えました。

<トピック>
◎LEE世代カジュアル派の3大勢力リアルスナップ
◎がんと向き合う
◎男と女・どちらが強いか

おしゃれ・手作り・母性の3段攻撃

 まずは今月号のファッション大特集「LEE世代カジュアル派の3大勢力リアルスナップ」。東京・神戸・福岡で撮られた215人のスナップが登場します。「カジュアル派の3大勢力」とは、「抜け感ベーシック」(デニム・チノパンなどを差し色や袖まくりでブラッシュアップする)、「きれいめクール」(体のラインに沿うような細身でフェミニンさと品を感じさせる着こなし)、「ゆるリラックス」(オーガニックコットンや太めのパンツなど心地よい素材やシルエットを愛用。アイテムを彼や夫と共有する)だそうです。

 実際に誌面を眺めてみても、イヤミでも何でもなく、心の底から「こんなにオシャレな一般人、しかもママ・パパがいるんだ~」とため息が出そうになります。「LEE」編集部も「パリジェンヌを思わせるおしゃれ上手を発見」「落ち着いてはけるネイビーを選ぶのがおしゃれ賢者の選択です」「少ない色数でおしゃれの偏差値を上げる好例」と鼻息荒げての大興奮。

 でも筆者は心のどこかで、「ゆるリラックス」派の「彼や夫と共有アイテム多数」というのを信じていなかったんです。いたとしても、「我が道行ってます」系だと。しかし、いました。しかも、「夫のものを拝借したというミリタリーシャツ」にデニムのミニスカート、足もとは赤のバレエシューズを合わせて、まさに「おしゃれの偏差値を上げる好例」!! しかもその隣には、顔立ちからキュートなのにバンダナまでして抜群の「おしゃれ賢者」ぶりを見せつける娘まで。しかもその娘が着ている、絶妙な色のワンピースは、手作りだとか……!! 「手作り=母性」とする「LEE」において、この親子はまさに理想形。現代に生きるママ、特に「LEE」のような専業主婦は「おしゃれ」で「手作り」もできることを求められ、どんどんハードルを上げられているようです。

妊娠・子育て世代こそ読むべき

 今月号の重石となっているのが、「がんと向き合う」というページです。インタビューでは子宮頸がん・子宮体がんで子宮とリンパ節の摘出手術をし、抗がん剤治療を受けた、女優の原千晶が壮絶な体験を語ります。これまでいろんな媒体で闘病を語ってきた彼女ですが、まだ妊娠・子育て中の「LEE」読者には、がんから目を背けてしまったという、原が心情を吐露する部分をぜひ読んでほしいと思いました。

 一旦は子宮摘出を決めたものの、子どもが産めなくなることを考えた結果、毎月の定期検診で経過をみることになったという原。体調もよくなったため、3年目ぐらいから仕事のせいでキャンセルが続いたそう。

「スケジュール調整が難しくなったのは事実。でも本音を言うと、“もういいでしょ”と思ってしまった。がんを忘れたくて、目を背けたんです」

 その後、5年目を迎えたあたりで突然の激痛に襲われ、子宮とリンパ節の摘出手術を受けることになったそう。もちろん、原さんのように危険因子を持っている人に比べれば危機意識が異なるのは当然ですが、「自分だってがんになるかも」という不安に襲われながらも、日々の家事や子育てに追われて、検診を遠ざけている人は少なくないはず。それは「がんになるかもしれない事実から背を向けている」と同じことのように思います。記事の読後感も重いですし、女性にとって最大の恐怖である「子どもが産めなくなる」という事実もしっかりと書かれています。普段、日常を彩ることに全力をかけている「LEE」が本気になった検診への啓蒙記事、読者に届くことを願ってやみません。

 もう一点、今月号でぜひお伝えしたいことがあります。それは、いつかこのレビューでご紹介しようと思っていた、大作家・渡辺淳一先生の連載「男と女・どちらが強いか」が最終回を迎えてしまったということです。今月のテーマは「男と女、どちらが性的快感が強いのか」。『愛の流刑地』(幻冬舎)『失楽園』(講談社)を生み出し、医学博士でもある渡辺センセイのこと、我々一般人がまだ開けぬ秘密の扉へエスコートしてくれるかと思いきや、意外や意外に拍子抜け。

 まずは自慰について、「LEE」読者を想定してか、母親に対し「男子が成長段階において自然におこなう行為として、暗黙のうちに認めてやるのが、むしろ母親のつとめといっても、いいだろう」と大前提を説いています。性的快楽についても「男性の性的快感はみなほとんど等しく、射精の瞬間に集約されているのに対して、女性の快感はより複雑で多彩で、大きな個人差がある」と、これまでさんざん言われてきたことを肯定していてがっくり。テーマは性的快楽の性差なので、具体的な“技”については触れないとのこと。

 最後は男性へ、「自分のどこがいけないのか、そして、どのやり方が、女性にとって好ましくなく、不快なのか」を考えろとのアドバイスで締めくくっています。なんとも中途半端な感じもしますが、保守的思考の「LEE」においてはこのぐらいの言及でも「刺激的」と読者の顔を曇らせてしまうのでしょうか? 「美ST」(光文社)や「婦人公論」(中央公論新社)など欲望たぎる雑誌でのセックスネタですと“いかにも”感が出てしまうのですが、「LEE」のような“実は性的な悩みを抱えてるけど、気付かないフリしてます”系の女性が多そうな雑誌だからこそ、ズバッと渡辺先生に具体例を言ってほしかったです。もはや保守層にズバッと言えるのは、みのもんただけか……。

 来月号の予告には「どうしてる? 義理ママとの付き合い方」の文字が!! 「Facebook事件簿」のようにサラッとは流せない、「LEE」読者のむき出しの感情がどんな形で吐露されるか、今から楽しみです!
(小島かほり)

最終更新:2012/07/14 17:00
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