美談に隠れた真実、“震災離婚”を掘り下げた『婦人公論』の気概に拍手
「婦人公論」5月22日号の特集は「いつも機嫌のいい人、不機嫌な人、その違いは」。いいタイトルですね~。「機嫌」ってところがいいです、すごく。これが「明るい人、暗い人、その違いは」じゃダメなんですよ。あるいは、「幸せな人、不幸せな人」でも「成功してる人、してない人」でも「輝いている人、いない人」でもダメ。だって、雑誌の特集を読んだくらいで、これまで30年40年だらしなく過ごしてきた凡庸な性格や人生が一変して明るくなったり、幸せになったり、成功したり、輝いたりすることなんて絶対に!! ないですもん。にもかかわらずつい「もしかして……」と一瞬夢を見ちゃったりして、で、夢から覚めて返って“そうでない自分”に「あー」と思ってページを破り捨てたくなる。
でも、機嫌がいい/悪いだったら、どんな人でもありえることじゃないですか。しかも、そのスイッチは、「天気がいい」「甘いものを食べた」「あっちの店より100円安く買えた」などちょっとしたきっかけのことが多々ある。「婦人公論」を読んで機嫌がよくなることも充分あり得るわけです。こんな現実的でやさしさを感じるタイトル、なかなか思いつきません。
<トピック>
◎特集「いつも機嫌のいい人、不機嫌な人、その違いは」
◎被災地で増えつつある“震災離婚”の現実
◎母と娘の断捨離バトル
■乙武クンといえばお約束のこのネタ
特集「いつも機嫌のいい人、不機嫌な人、その違いは」の最初ページは、スポーツライターの乙武洋匡と教育学者の齋藤孝による対談「世の中にはびこるイライラの正体は?」。乙武氏は、「どうしていつもそんなに元気なの?」とよく聞かれるほど元気なのだそう。確かに、Twitterにおける体を張ったジョークを見ると、有吉弘行が「元気の押し売り」と命名したベッキーに勝るとも劣らないほど、元気の産地直売状態。この対談でも、
「僕は逆に、何でみんな元気じゃないんだろうと、不思議なくらい。ただそんな話をすると、『乙武さんは恵まれているから』と言われたり。まあ手も足もない人間が『恵まれている』と言われるのだから、日本もいい意味で変わったなと」
と、うますぎる軽妙トークで惹きつけます。掲載された写真を見てさらにビックリ。今後は五体不満足ネタだけでなく、おでこの毛根不満足ネタもプラスできそうですよ! 着々と芸の幅を広げていますね。いや、もちろんちゃんといいことも言っていますよ。
「人に『恵まれている』と言った時点で『自分は恵まれていない』と認めることになりますよね。そこから不機嫌が始まってしまっていると思うのです」
「僕、不機嫌の正体の一つは、自分の価値観のおしつけではないかと思うのです。相手の価値観を認めようとせず、その結果、どうして普通にやらないのかと、相手の行動にいらだってしまうわけですね」
どうでしょうか。まあ、そんなごもっとも発言もいいんですが、後半もやっぱりこのネタが光る! “血流量が増えると、人をリラックスさせる副交感神経が活性化する”といった話の流れで……。
乙武「僕、ある人に『お前がいつも元気なのは、血流が手足に行かないで、どんどん回ってるからじゃないか』と、真面目に言われたことがあるんですよ。心臓から送り出された血液が、すぐに1回転して戻ってくる(笑)。今の(齋藤)先生の話を聞いたら、一年中上機嫌なのも、その血流のおかげなのかという気がしてきました」
齋藤「なるほど、冷えが一番問題になるのは手の指先と足の裏なんだけど、乙武さんにはその心配がないんだものね」
齋藤先生、ナイスキャッチ! 乙武のジョークセンスには賛否両論ありますが、ほかの人には考えつきようがないジョークであることは確かなので紹介してみました。ほかのページでも、エッセイストの岸本葉子、ウド鈴木、林家パー子らとバラエティー豊かな方々が登場して、おのおの上機嫌の秘訣を語っています。それぞれてんでバラバラで、どうすれば上機嫌になるのかについて決定的な回答は得られませんでした。でも、そこがまたいいんです。
女/男、若い/オバサン、既婚/未婚、子どもの有り/無し、既存のジャンルで人生を分類して、「こんな生活が幸せ」「こんな生き方が理想」「こんな女性が輝いてる」というロールモデルを提示し、薄っぺらな価値観を押し付けてくることほど苦痛なものはありません。でも、この特集にはそれがないんです。乙武氏は多様性のひとつとして登場。手があってもなくても、毛がなくてもあっても、いろんな人がいろんな人生を歩み、いろんな悩みを抱えながらも機嫌がよかったり悪かったりする。その当たり前の事実に改めて気づかされました。そして、自分自身の人生もその多様性のひとつとして肯定されたような気がしました。
■「絆」という言葉のウラ側
東日本大震災から1年以上経ちましたが、「婦人公論」では引き続き震災や原発事故関連のルポを掲載し続けています。その姿勢には頭が下がります。今号では、「被災地で増えつつある『震災離婚』の現実」と題し、震災を機に離婚に至った人々の声を伝えています。昨年は「絆」や「震災結婚」という言葉が流行りました。しかし、現実はそう美しい話ばかりではありません。
このルポに登場する漁師の富坂さん(49歳男性・仮名)は、10年以上別居状態にあった妻と今年1月に離婚。妻から送られてきた離婚届に添えられていた手紙には「もう帰る気はありません。いい機会です。長い間、いたらぬ嫁でした。ごめんなさい」と書かれていたそうです。富坂さんは周りから「優しい人」と言われ、震災当日、学校に避難していた子どもたちのため、100人分ほどの食料や水、物資を調達したそうです。「手紙に“いい機会”って書いてあったのがいちばんつらかった。震災のどこがいい機会なんだって言いたい」と語っています。
記事では、富坂さんのように震災前から心が離れていた夫婦が離婚するケースのほか、震災が原因で物理的に離れ離れになり心も離れてしまったケースも追っています。「富坂さんが避難者のために物資を調達していた」というくだりでハッとしました。一般的には、こういった話は「助け合い」「住民の絆」などの見出しが付けられ、美談として伝えられます。でも、この記事での富坂さんは違います。もちろん、物資を運んだことは素晴らしいことですが、それはそれ。決してそれがすべてじゃない。見ず知らずの人のために尽力する一方で、身近にいるべき人とは心を通わせることができずにいた、それが人間なんですよね。
絆に感動もいいけれど、それ一辺倒ではやはりその枠組みから漏れた人が辛い思いをします。離婚だけでなく、さまざまな事情で絆を感じられない人だってたくさんいたはず。そこを丁寧に掬いとり、それでも生きている証しを伝えていくところは、「婦人公論」ならではと思いました。
ほかにもご紹介したい記事がたくさんあります。連載ルポ「女子刑務所 知られざる世界」では覚せい剤取締法違反で2度目の服役中の女性(小学生の子どもあり)の声を伝えています。小沢一郎の元秘書、石川知裕被告(控訴中)と結婚したアナウンサーの石川香織さんインタビュー「“悪党”小沢一郎の愛弟子と結ばれて」や、ベストセラー『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』の著者で産婦人科医・宋美玄さんが自身の産後セックスレスを語る「まさか私がセックスレスになるなんて」、物を捨てられない年老いた母を描く手記3編を掲載した「母と娘の断捨離バトル」もとてもおもしろかったです。
ひとことだけ物申すとすれば、江原啓之の記事。江原いわく「インチキ霊媒師などに騙されてはいけない」「あの世があることは私が保証します! 信じられないという方は、あの世で私に会った時に謝罪してください(笑)」だってよ。なんだよ、(笑)って。スピリチュアルギャグ、全然笑えません!
(亀井百合子)
乙武さんたら芸達者!
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