伝説のドラマ『抱きしめたい!』、改めてその人気を不真面目に分析したい!
――「あの頃のテレビはよかった」と言うわりに、トレンディドラマなんて全く覚えていない無責任なアナタに、妄想だらけの世界一役に立たないドラマ講義をお届け!
このたび、サイゾーウーマン編集部から、トレンディドラマについてコラムを書いてくれという依頼を受けた。
だが残念ながら俺は、トレンディドラマ全盛なりし時代は、まったくテレビを見ていない。なぜかというと、のっぴきならない理由があり、当時はずっとマグロ漁船に乗り込んでいたから……。とはいえ、この不況時にせっかくいただいた仕事である。聞きかじった情報からドラマの内容を推測し――ネット検索は封印し――、原稿用紙の升目を何とかかんとか埋めていくことにしたい。
第1回のお題は『抱きしめたい!』(フジテレビ系)。
何でも、W浅野を擁し、トレンディドラマ隆盛の礎を築いたレジェンダリーな作品なのだという。
1989年に放送されたこの『抱きしめたい!』が、我が国のテレビ史上に特筆すべきほどの足跡を記すことになった理由は何なのだろう。ここで、日本のエンタテインメント史をひもときながら考えてみることとしよう。老若男女の日本人をもれなく熱狂させることが可能な物語といえば、それはどう考えたってひとつしかない。
『忠臣蔵』に決まっている。
理不尽なお上の裁きに対し、あくまでも忠孝を貫き信義をまっとうしながら、最後は静かに運命を受け入れ死んでいく。このダイナミクスに反応する回路は、ほとんどDNAレベルで民族の脳髄に刻み込まれていることだろう。だから、素材は赤穂浪士に内定。
問題はW浅野だ。これがW大石ならば分かる。大石内蔵助と大石主税の父子に決まっているから。しかし、W浅野となると皆目見当がつかない。
……ひょっとして、浅野内匠頭がふたり登場するってこと? それは斬新だ。事件以来、300年以上に渡りさんざんしゃぶり尽くされ数限りないパロディーが作られてきた義士たちの物語に、新しいパラダイムシフトを持ち込むことは間違いない。
江戸城後宮における男女の立場が逆転する『大奥』が許されるなら、浅野内匠頭がふたりいる忠臣蔵があったっていいじゃないか!
分かった! このドラマでは、ふたりの浅野が、江戸城松の廊下において交互にマウントポジションを狙い、「抱きしめたい!」と絶叫しながら相手の背後から羽交い締めを繰り返すのだ。
素晴らしい。絵になること間違いなしだ。
「抱きしめたい!」
「殿中でござる!」
「抱きしめたい!」
「殿中でござる!」
シュプレヒコールの波が響く中、相手の羽交い締めを振り切っては、長い長い袴の裾を引きずりながらそれぞれ逆方向へと廊下を突き進まんとするW浅野の姿は、まるで『3年B組金八先生』第2シリーズにおける加藤優(直江喜一)と松浦悟(沖田浩之)のごとし。ゆとり世代以降には何を言ってるのかチンプンカンプンかもしれないので(こないだ再放送やってたが)、説明しておこう。教師たちに反感を覚えた彼らふたりが放送室を占拠するも、警察に連行されていくというストーリーだ(うろおぼえ)。もちろん、スローモーションでとらえられたW浅野の攻防シーンのBGMにも、中島みゆきの「世情」が流れていることだろう。
観衆など眼中にない浅野vs.浅野の闘いは続く。背中を見せた方が負け、浅野同士のガチンコ勝負。これぞまさにアサノセメント!(今調べたら、合併を経て「太平洋セメント」と社名が変わった今、アサノセメントというブランドは消滅してしまったらしい。この合併劇もまた、俺がマグロ漁に出ていたころの出来事だ)。
終いに抱き合ったままもんどり打ったふたりは廊下から庭へと転げ落ちる。そして我に返った瞬間、こう叫ぶのだ。
「俺が浅野で浅野が俺で?」
何言ってる! 悩む必要ないだろ! どっちも浅野なんだから!
ここから大林宣彦の『転校生』みたいな方向に話が転べばいいのだが、浅野と浅野なんだから中身が入れ替わっても所詮は同じこと。
しょうがないので、進退極まったW浅野は「裂けるチーズー!」や「幽体離脱ー!」といったとっておきの持ちネタを披露するも、吉良上野介からダメ出しを受け、結局切腹!
しかし、臣下の気持ちは収まることなく、吉良へリベンジ! W浅野だから赤穂浪士も当然二倍。九十四士で討ち入りだ! こうなったら相手の吉良もふたり用意しよう。テレビの国から吉良吉良!
繰り返すが、『忠臣蔵』と『3年B組金八先生』である。日本人の魂を激しく震わせてきた新旧のキラーコンテンツをひとつに盛り込んだこんなドラマが高視聴率を獲得するのは、火を見るよりも明らかだ。まさに昭和元禄!
ということで、次回は、実際に『抱きしめたい!』を見た上でその感想をつづってみることにするよ! 足の爪でも切りながら気長に待つように!
下井草秀(しもいぐさ・しゅう)
1971年宮城県生まれ。照山紅葉a.k.a.秦野邦彦とのユニット、ダミー&オスカーとして「テレビブロス」に“妄想ヨットスクール”を長年にわたり連載。また、「DIME」では新譜CDレビューを担当している。
『フジテレビ開局50周年記念DVD 抱きしめたい! DVD BOX 』
こんな感じで進むコラムなんで4649!
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