感動したとは言わせない? BL求道の果てには『ダメBL』があった!
インターネット利用者にすっかり定着した感のあるつぶやきサイト「Twitter」では、日夜さまざまな話題が休むことなく「つぶやかれ」ています。世界地図では小さな島国の言語である日本語が、2010年に続いて世界ランキング第2位のつぶやき率を達成したそうです。不動の1位・英語(38%)と2位の日本語(14%)だけで、なんと世界のつぶやきの半数を占めています。
一体、何をそんなに話すことがあるのか? 実はそんなにないんです、話すことなんて(私だけかも?)。心の内を吐き出すためだけに使っていたつもりなのに、フォローしてくれた人から「@」付きで届けられる心温まる言葉や、家族よりも親身なアドバイスがもらえたりするうれしいサプライズ、そしてそこから始まる新しい恋……(ないない)。
失礼しました、話がそれました。
2011年春、ひとりのBL(ボーイズ・ラブ)作家さんがTwitter上の同志たちに向けて「#dameBL」というハッシュタグをつけた、ひとつのつぶやきを発しました。そして同年11月、珠玉の「ダメBL」ネタを詰め込んだコミックアンソロジー『ダメBL』(ブックマン社)が世に出たのです。
『ダメBL』の表紙と巻頭を飾るのは、BL界変化球ネタの巧手・雲田はるこ氏による『Be here to love me』。変態の自覚を持つ足フェチのサラリーマンが、男らしくないカラダと超美脚を持つ後輩(策士)によって後戻りできない領域に堕とされてしまうお話。美脚を見たら即鼻の下を伸ばすサラリーマンの、欲望に忠実な所や、自分のカラダに溺れる先輩の反応に黒い笑顔を浮かべる後輩など、お互いに熱を帯びていく過程の描写が実にすばらしく、「ダメな人がもっとダメになっちゃうBL」として成立してるのか! と納得しました。
「こんなBLが読みたいけど、周りからダメだと言われたネタをお持ちの方」を求めるつぶやきが、身内からリツイート(つぶやきの転送)を繰り返され、思いを同じくする人々を巻き込み、返信が返信を呼び、ついには「誰もこのネタで描かないなら私が描く!」「どうしても読みたい!」と熱い情熱のほとばしりを発したがために、自ら作品を執筆することになった経緯は、本書に収録されている竹内佐千子氏のコミックエッセイ『死ぬまでBL・死んでもBL』に詳しいです。
同作中に描かれたダメBLネタ「死化粧師×死体」(リバ可、初心者は知らなくてもよい言葉です)を見て、「いや情緒あると思うし、海外ドラマとかホラーではこれに近いフェティッシュな描写や演出もありそうな気がするんだけど……えっ、どこがダメなの?」と思った私でしたが、ふと「キミ、それ本気で売れると思ってる?」というどこかで聞いた言葉が頭をよぎりました。なるほど、万人受けしないニッチ過ぎるネタを「売れないからダメ」ではなく、むしろ「未知の可能性」とか「ストライクゾーンが広い」と前向きに捉えることが「ダメBL」の始まりだったのですね!
えすとえむ氏の作品は、ムエタイBL『Khaa Thoong』。裏社会の「賭けムエタイ」で八百長試合を組まされるしか生きる術のない孤高のチャンピオンと、彼との対戦を熱望する挑戦者が、何もかも捨てる覚悟でただ一度の真剣勝負に挑むお話。挑戦者の「連れて逃げる」の言葉の裏に潜む、深い愛と思い入れに心を揺さぶられます。
むしろこの作品で気になるのは、作品のダメBLさ加減ではなく、世界的な大衆文化コンベンション「コミコン・インターナショナル(Comic-Con International)」のアダルト・マンガのアワードにノミネートされたほどのえすとえむ氏が、なぜ「ダメBL」に興味を持ってしまったのか、という疑問。その真実は、BL業界の深い闇に潜らないと分からないのでしょう。
桃山なおこ氏のサイクルロードレースBL『it must be』も、マイナースポーツの世界ですが、こちらはチームメイトと絆を深めるさわやかなお話でした。
作家さん本人が「描きたい!」という思いを込めた選りすぐりのネタだということはどの作品からも感じられるだけに、スペースの都合ですべてを紹介できないのは残念です。他誌では実現しなかった作家さんの偏愛の詰まった作品は、ファンの方に新しい魅力を教えてくれるだけでなく、ニッチな萌えの扉も開いてくれるかもしれません。
読みながら『ダメBL』の作品たちが、売れる・売れない以前になぜダメ出しされるのかという理由を考え抜いて、やっとたどり着いたのは、個人的お気に入りの「老人BL」(植松町江『夏のさいごに寄せて』)「古墳BL」(もろづみすみとも『却の河』)を再読したときでした。
「これ……BLじゃなくても、普通に感動する話だ!」
……そんな賞賛に耳を塞いででも「これを”BLで”読みたい・描きたい」とパッションをたぎらせる事自体が、ダメBLのアイデンティティーなのではないでしょうか。
(山口小夏)
昭和のタウンページくらいブ厚いッす
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