『腐女子の嫁ぎ方』ブックレビュー

墓の中まで「腐女子という生き方」は隠し通せるのか？　『腐女子の嫁ぎ方』に見る世界

2011/09/26 11:45

　「腐女子（ふじょし）」とは男性同士の恋愛や関係性に惹かれ、彼らの仲の良さに「萌え」を感じたり、秘められた物語を「妄想」して楽しんだりする女性のこと。普通の恋愛よりもBL（ボーイズラブの略）に惹かれてしまう自らの性癖を「腐っている」と評価し、「普通の女の子＝婦女子」と一線を画す意味で、「腐った女子＝腐女子」と名乗っていると記憶しています。

　長年オタクをやっているせいで「腐女子ですか？」とよく質問されますが、ただのアニメファンやゲーム好きを女だからと即「腐女子」呼ばわりするのは、むしろ腐女子に失礼ではないかと思っています。アイドルのファンに置き換えると「にわかと○○オタくらいの差がある」という説明で、なんとなく違いをご理解いただけるでしょうか？

　卒業して職業に就き、自分のお金で大好きな趣味の世界を思うさま満喫して、この世の春を謳歌している中に、結婚式の招待状やお見合いの打診が届いたら、「イイトシなんだから、私もそろそろ結婚した方がいいのかな……？」と不安になるのは、腐女子だろうと婦女子だろうと、妙齢の女子であれば誰もが通る道かと思います。

　『腐女子の嫁ぎ方』（メディア・パル）は、友人の結婚式をきっかけに自分の結婚を意識するようになった腐女子を案内役に、恋愛や結婚に対するさまざまな不安や疑問とその解決方法を細かく紹介しています。

　現役腐女子306人（独身腐女子234人＋既婚腐女子72名）の協力で行われた貴重なデータ「実態調査アンケート」も一見の価値アリ！　これで私もすぐにお嫁さんに！　……と言いたいところですが、読み始めてすぐに提示されたのは「”腐ごと（自分の趣味ごと）”愛される道を探る」という高いハードルでした。

　アンケート結果によると、彼氏持ち腐女子9割と既婚腐女子8割が、彼氏や夫に「自分が腐女子だとバレている」のです。一方、彼氏がいない腐女子の5人に1人が「結婚する気はありません」と答え、「いい人がいれば結婚したい」と回答した腐女子ですら「私の趣味に理解を示してくれる」器のデカイ人か、真逆の「趣味に干渉しない相手」を夫に望んでいるところから、愛情の伴った自身の結婚生活をハナから諦めているような気が。本命が脳内にいれば、腐女子的にはオッケーでしょうが、旦那さんになる人はそれでいいんだろうか？

　それでもいいという彼氏が見つかり、同棲や結婚が決まった時の問題が、今までに買い込んだ本やグッズなどの「腐アイテム」や、PCやケータイに溜め込んだデータの行方。見られては困るヤバイものを、まず「保管する」方法、次に「処分する」「隠す」という方法まで網羅されているのが、腐女子ゴコロ（乙女ゴコロ？）を分かってるな、と思った次第。結婚後の主婦……改め「主腐」目線の収納術は、男を呼べるくらいに部屋を片付けたい未婚者にとっても、目からウロコのアドバイスです。

　結婚後の生活の中では、出産や育児を通して得られる「身近な萌え」の発見でますます腐女子ライフが充実するというツワモノ的意見もあり、腐女子が結婚することは決してマイナスではないと猛プッシュ。医師に看護師、保育士や先生などの生態観察だけでなく、特撮や子供向けアニメにまで開眼するママ主腐もいるのだとか。

　「娘が腐女子になるのは複雑だから、腐アイテムは遠ざけておきたい」という親心が垣間見えたり、「娘にうっかり蔵書を見られてしまったが、娘も腐なのでリスペクトされている」という師弟関係へ発展した親子もいるけれど、親子で同じ趣味を楽しむための「英才教育」はせずにあくまで自然に任せるのが、母となった腐女子の教育方針のようです。

　これらの後にそっと添えられた「周囲に腐を晒さない腐女子の逝き方」は、腐アイテムの資産的評価の低さを補って余りある「思い出」と「託す先」の大切さを知ることができ、自分自身の人生を見直すきっかけになった気がします。

　『風の谷のナウシカ』中のセリフ「積荷を燃やして」がオタク同士の財産処分の暗号として話題になってから、30年近くがたちましたが、さすがに「姑が腐女子だった」というアンケート回答はなかったようです。今後の課題になりそうですが、腐女子的に「自分の息子が腐女子と結婚する」のは許せるモノでしょうか？

　パートナーや新しい家族たちと共に腐女子＋αの人生を送るか、選りすぐりの友人と共に腐女子の人生を極めるか。本書で選択のヒントが見つかりますよ。
（山口小夏）