女が稼いで男は家事! 『だいこくばしズム』が宣言する来るべき”大黒柱”像
男が働きに出て、女が家を守る。それが当たり前のことだと脳内に刷り込まれてきた私たち。しかし、多くのフェミニストたちが声を荒げて反発するように、それはジェンダー的概念と繰り返された歴史の産物に過ぎない。女性誌などで活躍するイラストレーター小迎裕美子氏は本書『だいこくばしズム』(朝日新聞出版)にて、自らの”大黒柱化”を高らかと宣言する。女が家計を支えるとはどういうことなのか、生活を共にする男性として相応しい像とは、そして……実際の夫婦関係はどのように機能しているのか。全国の働き続けたい女必見! これが来るべきニッポンの未来、”how to 大黒柱オンナ”を小迎氏にうかがった。
――『だいこくばしズム』拝読しました。小迎さんの猛烈な働きっぷりもさることながら、こんな男性は本当にいるのかと疑いたくなるほど出来たダンナさんにもビックリです。
小迎裕美子(以下、小迎) 私の仕事は夫のサポート無しでは成立しません! 家事全般、経理関係からアシスタント業務まで、それはもうフル稼働。執事のように、それこそ影武者のようにぴったりと寄り添ってくれています。
――まるで『ベルばら』のオスカルとアンドレのようです。元々そういう男性が好みだったのですか?
小迎 私の場合、父親の洗礼が強烈だったんですよ。もう絵に描いたような昭和の九州男児で。本にも書きましたけど、買物に行っても荷物一つ持たないタイプ。養ってやってる意識が強いんでしょう。だから小さい頃から「人のお金でご飯を食べるのは絶対にイヤだ」とは考えていました。そもそも男性から「オマエ」って呼ばれるのもイヤなんです。
――小迎さんは、旦那さんのような献身的な男性をどのように見抜いたのでしょうか?
小迎 口に出して言わなくても「女はかくあるべき」と考えている男性はまだまだ多いと思うんですよ。で、そういう気持ちは必ず態度に表れる。夫は男女問わず接し方がジェントルマンでしたし、一方で仕草や表情にキュンとくる可愛さもあって、なおかつ美尻。ここ重要です(笑)。「直感」ではなく「観察」し続けた結果です。
――結婚してもジェントルマンで美尻は変わらず?
小迎 たぶん、私が必死に仕事をしている様子を一番間近で見ているから、憐れみにも近い感情が彼の中にあるのではないでしょうか。不眠不休で風呂にも入らず一心不乱に仕事をしている妻……これはいたわってあげないと、と(笑)。私は私で、茶碗の洗いすぎで手荒れしている夫を見ると「悪いことしてるな」って気分になる。お互いに申し訳ない気持ちになって、少しずつ優しくなれるような気がしますね。
――本に書かれていたように、「本当は僕が(私が)するべきことをやってもらってごめん」という”後ろめたい感情”が強い分、既存の夫婦よりもお互いを気遣える、と。ではオンナの大黒柱化で、苦労することはなんでしょう?
小迎 この夫婦の形は、出版業界で働いていて、しかも東京に住んでるから許されるのだろうと思います。夫の親戚や夫の親にはわざわざ「夫は専業主婦で私が稼いでます」という宣言はしていません。この本についても知らないと思います。「こういうカタチがあったっていいじゃん!これで私たちは幸せなんだから」と思いつつも、それが全く通用しない世界、理解してもらえない世界が、地方の私たちの親世代だけにかかわらず、都会の若い世代にもあるので、そういう場面では夫に肩身の狭い思いをさせないように「いい嫁」を演じる努力をします。「嫁」プレイ感覚で。「夫が外で働いてない」って、”ヒモ”のイメージじゃないですか。ジャージの上下着て「パチンコ行くから金くれよ」ってせびる感じの。
――小迎さんご夫婦がスゴイのは、そうした悲壮感が一切ないところです。
小迎 私は(自分が大黒柱化することを)全く不幸だとは思っていません。むしろ、やりたい放題で本当に楽しい。「家族の為に働いている」なんて一切感じてませんし。自分が楽しくなければ、家族も楽しくないでしょう。だからイヤなことはしないし、嫌いな人は切る(笑)。たとえその代償として2~3日徹夜して仕事をすることがあっても。それがフリーランスの醍醐味ではないでしょうか。ただこのところ、”お父さん”化が激しいのか、ヒゲが濃くなってきた気がするんですよ(笑)。あぁ女をサボってるとふと気づいて、狂ったように美顔用のスチームを浴びたり。
――大黒柱化の影にヒゲ問題が。
小迎 人体って不思議ですね(笑)。一方、夫はますます美尻でフェミニンに。私、実家にいた時よりも居心地がいいんですよ。彼はとうとうお母さんを超えてしまった。
――”母なる夫”ですね。
小迎 母性と父性のマリアージュと申しましょうか。この人が夫でなければこんなに仕事は出来なかったと思うし、夫にとっても相手が私でなければ今の関係は築けなかったと思います。共依存ですね。この人と同時に棺桶に入るにはどうしたらいいんだろうって、真剣に考えてます。ちょっと気持ち悪いですね(笑)。
――「男と女」としてはどうでしょうか。
小迎 う~ん……「夫に男性としてのトキメキがある」と言えばウソになりますね。付き合った当初と感情は大分違いますから。ただ、この本の裏表紙を見て下さい。夫が恥ずかしそうにバラ売りの鮭を選んでいる絵。私はこの瞬間の夫がたまらく好きなんです。いじらしいというか、みじめというか、何とも言えないこの表情。それを陰から観察する私。最近では夫もそれを知ってわざとかわいそうな顔したりするんですよ。フフフ。
――それは……小迎さんご夫婦ならではのセクシープレイ……。
小迎 この間などは、私が翌日に着て行く予定のカーディガンについていた毛玉を一生懸命取ってくれていました。それを背後から見てまた「フフフ」と。確かにおかしな関係ですが、私たちにとってはこれが何より自然で居心地がいい。
――毛玉取りまで……。小迎さん、ダンナさんは本当に実在しますよね? まさかの夢オチじゃないですよね!?
小迎 それもよく言われます! います、いますよ! 今日も出かける2時間前には起きてコーヒーを入れてくれました!
――お皿洗いながら舌打ちしていたことは? ゴミ袋をボッコボコに蹴っていたりとか?
小迎 ないです(きっぱり)。
――……とにかく私の日常生活レベルでは絶対にお見かけしない男性だということは間違いなさそうです。
小迎 自分で言うのもなんですが、いいの掴みましたよ私(笑)。自分からプロポーズして一度は断られましたが、ひるむことなく前へ前へ。まさに”寄り切り”結婚です。良い物件だと思ったら、それこそ先手必勝ですよ。すぐ手付を置いて契約するぐらいの気合いでいきましょう。元々気が小さくて、自分の中で「大丈夫、イケる」という確証を得るまでは会社を辞めてフリーランスにはなれなかった私ですが、夫との結婚に関しては迷いなく進んでよかったなぁと本当に思います。彼を説得するための、ハッタリや騙しも多少ありましたけど。いや、大丈夫。そんなの後から何とでもなりますから。とにかく大切なのは、自分。Let’s自分本位です!
小迎裕美子(こむかい・ゆみこ)
愛知県名古屋市出身。女子校のちデザイン専門学校グラフィックデザイン科を卒業後、広告デザイン事務所勤務を経てフリーイラストレーターに。著書に『脱力道場』(共著・小学館)、『ノスタル煮込み。ナゴヤ青春プレイバック雑記052』(双葉社)など。
『だいこくばしズム』(朝日新聞出版)
1カ月に平均40本もの締め切りを抱える、売れっ子イラストレーター。彼女はどうやって、仕事も恋もゲットできたのか? いかにして、女だてらに一家の大黒柱となったのか? 専業主夫の知られざる生活とは? 読めば勇気が湧いてくる、笑いと感動のノンフィクションコミックエッセイ。
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