「茶のしずく」回収騒動、弁護団発足の事態へ…… 急成長企業に潜む脆弱性
「あきらめないで!」のCMでも有名な悠香の「茶のしずく石鹸」だが、同製品を使用した女性がパンなどの小麦製品を食べた後に、アレルギーによるショック症状を起こす事例が数多く起こっている。2008年あたりからこの様なケースが医療関係者から報告されていて、昨年10月には厚生労働省が悠香製品と特定せずに注意喚起を行う事態に発展した。それから半年ほど経った今年5月にメーカーが自主回収を開始。7月頃からは、遂に各地で弁護団が発足している。
弁護団の説明会では被害女性から「アナフィラキシーによるショック症状で2度倒れたが原因が分からず病院を転々とした」「2009年から使い始め妊娠6カ月の時にアナフィラキシーを発症し、何度か病院に搬送された。なすすべなく自宅静養を続けている」などと切々とした訴えが聞かれた。よもや石鹸が原因とは自覚のないままに使用を続け、その結果、原因が分からずに突然襲われたアナフィラキシーによって退職など社会的制約を余議なくされた人も少なくない。また被害女性の多くは原因が特定された今でも小麦製品を摂取することができないために、食生活の手間暇や経済的負担がかかっているという。
アレルギー問題に詳しい国立病院機構相模原病院アレルギー科の福富友馬医師によると、09年頃から「ちょっと変わった小麦アレルギーが増えてきた」との所感があり、通常の小麦アレルギーであれば主な症状は蕁麻疹だが、今回のケースでは目の痒みが特徴であったという。ただそれが、同製品に起因するものとはすぐには分からなかったのである。
これらアレルギーを起こす物質として今回問題となっているのは、「茶のしずく石鹸」旧製品に配合されていた”加水分解コムギ”という成分。天然の食物タンパク質を工業的に加水分解したものであり、化粧品やヘアケア製品に保湿成分として含まれているものだ。しかしなぜこれがアレルギー症状を引き起こしたかについては諸説あり、未だ明確にはされていない。
前出の福富医師によると、成人は肌や粘膜を通して食物アレルギーに至ることがとても多く、花粉やヨモギスパイスが食物アレルギーを引き起こしたケースも稀ではない。「茶のしずく石鹸」は洗顔石鹸であることから、顔を洗った際に目や鼻孔から問題の成分が吸収されアレルギーを引き起こしたのではないかと思われる。最初は肌の赤みや痒み程度だったものが、使い続けるうちにアレルギー症状が悪化する事例も多い。症状は深刻で、パスタやパン、ラーメンなどの小麦製品を食した後に運動(5分程度の歩行を含む)をすると、目の痒みや全身の発赤などが現れ、ひどいケースでは血圧低下、意識喪失という症状に至っている。
東京弁護側が設けた「被害110番」には8月中の2日間で600件以上の相談があり、潜在的な被害はさらに大きいと見られる。同製品は2005~06年に発売を開始し通信販売をメインに昨年8月までで少なくとも4,000万個を販売。大々的なコマーシャル戦略を展開し幅広い年齢層の女性に支持を得ていた。
通常、化粧品による被害は即時的に分かるものがほとんどで、その製品を使うのを止めてしまえば被害はなくなる。今回のように重篤な事態に陥ることは極めて稀なのだが、なぜこれほどまでに被害が拡大したのだろうか。
弁護団の神山美智子弁護士は「被害はもちろん意図的なものでないとしても、メーカー側の対応にやはり問題があった。厚生労働省の通達から半年以上も積極的な対応をせず、被害者に十分な説明もなかった」と話す。会社側は被害者が医療機関で診断書を作成してもらっても、同社製品による小麦アレルギーだとは認めようとしなかったという。そしてダイレクトメールや手紙、ハガキによる注意喚起はされたものの、まったく情報が浸透していないという現状がある。
実際、石鹸と小麦アレルギーの因果関係は医療関係者でも困惑するほど分かりづらいものであった。だからこそテレビコマーシャルなど、これまで販促で使ってきたメディアを通して被害を報告する義務があったのだ。被害を最小限に留めることができていれば、集団訴訟という最悪の事態を防ぐことができたからだ。
一連の騒動は急成長企業に潜む、売ることだけに力点が置かれた体制の脆弱性を露呈した。もちろんこれらは悠香だけの問題では済まされない、業界自体の信頼に関わってくる問題になる。なぜ工業会や学会など業界内にある連携が自浄作用として機能しなかったか、この問いを掘り下げていく必要があるだろう。そして消費者としては化粧品がアレルギーの原因になりうることや、皮膚や粘膜を通して吸収されるさまざまな物質が体内に影響を与えるという可能性を忘れてはならないだろう。
(庄司真紀)
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