脳神経外科専門医に聞く!

認知症のリスクも増加!? お酒を飲み続けると脳が萎縮って本当?

2009/12/02 11:45
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Photo by a4gpa from Flickr

 ここ数年でずいぶんと浸透した「認知症」。アルツハイマー型認知症のほか、脳血管性認知症やパーキンソン病に似た症状が出ることもあるルビー小体病なども、認知症の一種です。患った本人だけでなく、世話をする家族にも負担が大きいという辛い病気です。そんな中、先日ロイターの記事に「アルコール、飲むほどに脳が縮小」というニュースを発見。米マサチューセッツ州ウェルズリー大学の研究チームの発表によると、「加齢で進む脳容積の減少を、適量のアルコールにより食い止めることが可能か」検証しようとしたが、結果は不可能だったそう。それどころか、アルコールによって脳が委縮するという恐ろしい結果が……。

 夜な夜な一人で飲みながらクダまいてる独身女子としては他人事じゃありません。東京クリニックをはじめ多くの病院で診療されている、脳神経外科医の笹沼仁一先生に脳とアルコールの関係について話を聞いてきました!

――アルコールで脳が萎縮するという、怖い記事を発見したのですが……。

笹沼仁一先生(以下、笹沼) そうなのです。医者の間では以前から常識としてされていましたが、昨年ロイターにこういった論文が出て、やっぱりなと。ちなみにあなたはどれぐらい飲まれるのですか?

――平日はビール350ml缶を1缶と焼酎ロック2~3杯が基本です。翌日が休みだとさらに焼酎3杯、日本酒やワインもいきますね。

笹沼 けっこうな量ですね(笑)。ロイター記事では、適量のアルコールっていうのがどのぐらいの量のことなのかは分かりませんが、週4~5日飲む人は、いわゆる大酒飲み。一般的には、誰でも年齢とともに脳萎縮が見られてきますが、1日2合以上の飲酒で普通の人より10年早く脳萎縮が進行し、有意差が出ると言われております。1日1合ぐらいまでであれば、脳萎縮の程度に有意差はないようです。あなたの場合も、日本酒に換算すると3合は飲んでいますよね。そういう方は、アルツハイマーになるというよりは、脳の萎縮が早くから見られる可能性が高いということです。ただ、まだ30代ぐらいじゃ普通は脳の変化は発見できない。そのペースで飲んでいったとして、早い人で40代。普通は50代から脳の萎縮が分かるようになってきます。


――アルコールによって起こる脳の萎縮について、改めて説明していただけますか。

笹沼 専門外なのでメカニズムに関しては詳しくありませんが、アルコールを飲むと、アルコールそのものの作用やビタミン不足などが原因となり、いろいろな意味で代謝がうまくいかなくなります。脳が萎縮するっていうのは、文字通り脳の大きさが縮んでしまうということ。頭蓋骨と脳の間の空間が大きくなっていくということでもありますね。個人差があるので縮まない人もいます。ただ、お酒を飲んでいれば縮む確率が圧倒的に高い。脳の萎縮=認知症というわけではありませんが、たとえばアルコールのせいで50~60歳で脳が縮んだとしますよね。70~80歳まで生きるわけだから、そのままお酒を飲み続ければ、認知症になるリスクは高いと言われています。

 脳は、たとえば右側前頭葉だけちょっと傷ついても、後遺症が残らないこともある。ダメージを受けてもほかで補えてしまう場合もあって、いまだに解明されていないことが多い。だから脳が多少は萎縮しても、普通に生活するには問題ないとは思います。でも年を取っていくにつれ、脳の萎縮がある人とない人では、体の機能の衰えに差が出る可能性はありますね。

――脳の萎縮には、体質や遺伝などは関係するのでしょうか?

笹沼 認知症になりやすい体質が遺伝する可能性は、ゼロとは言えない。しかし、お酒によって脳が萎縮しやすい体質が遺伝かどうかは、よく分かりません。ただお酒も強い人と弱い人がいるように、個人差がある。肝機能が丈夫だから脳も萎縮しにくいか、それも分かりません。でも相対的に、アルコールをたくさん飲む人は脳が委縮するというのは確実ですよ!


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4枚のレポートで自分の脳内が明らかになります。

――仮に私が今日からお酒を一切やめたら、脳が萎縮する危険性はなくなりますか?

笹沼 うーん、たとえばうちで脳ドックを受けた40代の方で『今はビール1本も飲んでいません』って言う方がいたのですが、それにしては萎縮しているなと思って、よく聞いたら、20~30代は浴びるほど飲んでいたそうです。過去に飲んでいた経歴が40~50代になって出てしまうこともあります。だから30代の方でも気をつけていただいて、年に1度、最低でも5年に1度は脳ドックを受けていただくといいですよ。お酒をやめられないなら特にね(笑)。お酒をやめると脳の萎縮もある程度回復して、もとに戻ってくるという話もありますので、若いうちに気をつけるのが大事ですね。

――でも、若いうちに脳ドッグを受けてもまだ変化は現れないのですよねぇ。

笹沼 若いうちにチェックをしておくことは大事なんですよ。お酒を飲む人など、脳が萎縮しやすい生活習慣がある人こそ、受けておいたほうがいい。自分の状況を確認するっていうのが、ドックの意義。大丈夫っていうことを確認するということです。それに若いうちに健康な脳の状態を撮影しておくと、後で何か病気になったときに比較がしやすいですよ。

――ちなみに、女性がなりやすい脳の病気って?

笹沼 介護保険の適用理由を見ると、男性は「脳卒中」が多いのに対して、女性は「認知症」と「骨折」が多い。ホルモンバランスがどんどん崩れて「骨粗鬆症」になり、さらに年を取るとちょっとしたことでつまずいて転倒し、股関節を痛めて動けなくなる。そうなることで生活環境がガラッと変わって、認知症になるというパターンが多いですね。連鎖していくわけです。だから女性の場合は、脳ドックと骨粗鬆症の検査を両方見たほうがいいかもしれないですね。どっちの検査も痛くも痒くもないし、すぐわかりますから。大腿骨骨折から認知症になるパターンには本当に気をつけたほうがいいですよ。

――目で見えない部分だけにますます怖くなってきました……。脳の病気ってどう予防すればいいのでしょうか?

笹沼 物忘れ外来の先生は「手と口と足を使え」って言いますね。人とコミュニケーションを取って話をする。仕事を持ち続け、手作業をする。そして散歩したりして体を動かすことが、予防につながると。お酒を飲んでテレビを観ながら寝転がっていたりすると、本当にすぐボケてしまいますからね!

 笹沼先生のお話を聞いて危機感を抱いた私は、後日、東京クリニックで「脳ドック」を受けてみることに。何か準備がいるのかと思いきや、何も用意する必要はなし。前日の食事制限もなし。さらには、そのままの服装で頭部MRIを受けられるのには驚きです。わずか1時間程度で検査から診断結果まで分かる手軽さも魅力的。検査中は大きな音がするため、耳栓をしてから検査台の上に寝転がります。頭部を固定してもらったら、あとは頭の中をスキャン。約15分ほどでしたが、その間は音が絶えず鳴っており、その一定に刻まれるリズムで思わず寝そうになってしまったほど。

 正直、受ける前は怖かったですが、実際はただ寝ころんでいるだけなので苦痛はありませんでした。脳ドックの結果はというと、もちろん(まだ?)異常はなし! しかし正常範囲内ではあるものの、飲まない人とくらべて萎縮の程度が高い数値であったため、少し注意するようにしてください、とのことでした。脳梗塞やクモ膜下出血といった、血管系の異常もなく、最悪のケースも考えていただけに、ホッと一安心。老後のリスクを減らすためにも、今後は倒れるまで飲み続けるような生活はやめようと思ったのでありました。

笹沼仁一(ささぬま・じんいち)
日本脳神経外科学会専門医、医学博士。

取材協力:東京クリニック
東京都千代田区大手町2-2-1 新大手町ビル
TEL 03-3516-7151

『脳ボケはNO!―脳を悦ばせて生涯現役 (主婦の友パワフルBOOKS) (単行本)』

おひとりさまでボケたら悲惨よ!

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最終更新:2011/10/04 19:56