夫の浮気、借金地獄、顔面麻痺。「婦人公論」の読者ノンフィクションがすごい
今号の「婦人公論」は、年1回恒例の読者によるノンフィクション傑作選。これがまた充実の重苦しい内容ばかりで、読んでいて正直な話、気がめいりました。めいりつつも、目が離せなかった! 自分の半生を書くという陶酔感と、他人の半生を覗き見るという陶酔感が絡み合って、組んずほぐれつ繰り広げられるおんな相撲。落ちているのか上がっているのか、平衡感覚を狂わせられるエクスタシー。そんな感覚です。今号はかなりの危険号だと思います。では、中身を見て見ましょう。
<トピック>
◎特集 「嵐を生きる女たち 幸せは涙の先に」
◎城田優×ペピー・フェルナンデス 3人の夫を持つ母に教えられた「自由」の意味
◎緊急特集 薄毛に悩むあなたへ
■60歳過ぎのハゲ夫がコンドームを隠し持っていた!
特集「嵐を生きる女たち 幸せは涙の先に」には、読者の手記が6編掲載されています。「津波を逃れて病院を脱出し、親戚28人に、毎朝炊いた米3升」「キャッシングをやめられない! 主婦の私が堕ちた借金地獄」「顔面麻痺は誰のせい!? 眠る夫の首に手をかけた夜」などタイトルだけでも太田胃散がほしくなるんですが、その中でも特にでき過ぎだろ! と言いたくなるくらいスリリングな傑作「夫の浮気現場を押さえたい。雨のしまなみ海道を追いかけて」はこんな内容。
投稿者は59歳主婦。62歳の夫は若いころから性欲が旺盛で、かつてはアダルトビデオに狂い、ビデオで仕入れた体位を強要したり、お尻を平手でパンパンしたり。50歳を過ぎセックスレスになってからは、ネットでAVを見ながら自慰行為をしていたそう。1年前、夫のゴルフバッグの中からコンドームを発見。携帯をチェックすると「えりな」という人物との通信履歴が! そこで夫の追跡調査を開始する……。
この主婦は浮気現場を押さえることができるのか、そのとき夫はどう言い訳するのか、そして夫婦は別れるのか、読んでいる最中はサスペンスドラマを見ているようでハラハラしておもしろかったです。しかし、これはドラマや小説ではありません。ノンフィクションです。しかも、破天荒な人生を売りにしている私小説家ではなく、ごく一般の主婦の手によって書かれたもの。そのことを改めて思い、「読んではいけないものを読んでしまった」という気持ちになりました。
この手記を読んでからというもの、スーパーのレジに並んでいる間にも、前のおばさん、後ろのおばさんに秘められた愛憎劇を勝手に想像してしまうようになりました。そのうちの何人かは手記を書いて「婦人公論」に投稿しているかもしれないと考えると、恐ろしくておちおち道も歩けません。これが、Twitterやブログに愚痴をちょこまか書き散らしてるんじゃだめなんです。それじゃ軽い。創刊90年以上の「婦人公論」に投稿してこそ意味がある。誌面で数え切れないほどの女が泣き、怒り、心を裸にし、経血が染み込んだ「婦人公論」に投稿してこそ、情念の炎は防火壁を突き破り激しく燃え上がるのです。女たちよ、書け、書くんだ。
■吠えまくるエイミー
私的にくだらない企画ナンバーワンの不定期連載「安部譲二と山田詠美の人生相談劇場」も、今号は燃えていました。こんなに燃えたのは初めてじゃないかな。これまでは相談内容そっちのけで安部譲二が一方的にエロ話をし、山田詠美がそれを適当にいなすという形でしたが、今回は珍しく山田詠美がスパーク! 相談内容は、56歳主婦の「作家になりたい」。「私が結婚した頃、森瑤子さんが鮮烈なデビューをされました。彼女のようになりたいのです」「自分は表現に向いている、作家になるべき人間だ、と思うのです」。これに対し、山田詠美から厳しい言葉が次々とぶつけられます。
「『小説で自分を表現したい』なんて言ってる人はダメなような気がする」
「『森瑤子さんみたいになりたい』と言った段階でダメだよ。私も安部さんも、他の誰でもないでしょ?」
「この人のイメージにある小説家って、華やかな生活が前提にあるもんね。小説家が華やかだというのはもう幻想だよ」
「森さんに憧れているなんて安易に言われるとカチーンとくるんだよねえ」
素人相手にここまで言わなくても……と読んでて引くほど、本気でカチーンときているご様子。これまでは愛やセックスがらみの相談が多かったんですが、今回のような文学や、あるいは政治に関する相談の方が意外と白熱しておもしろい企画になるのかもしれません。それにしても、小説とノンフィクションはジャンルが違うとは言え、特集で執筆欲を煽られた上でこの厳しい言葉は堪えますね。「アンタそれでも書きたいなら書きな」とエイミー番長に焼きを入れられちゃった。ノンフィクション傑作選の第1次審査みたいなもんですかね。
■意外とよくできた息子だった
城田優と母親の対談「3人の夫を持つ母に教えられた『自由』の意味」が掲載されています。城田優の母親はスペイン人。城田の父親以外に2回結婚しており、城田純と優の兄弟のほかに父親が違う子どもが3人いるのだそうです。母親を「ペピー」と名前で呼ぶのはインターナショナルなご愛嬌として、いいこと言ってるんスよ、彼。
「自分がここに存在するのは、両親、何よりペピーのおかげだから、自分の誕生日は、親に感謝する日だと思ってる」
「家族みんな仲がいいし、兄妹5人いて、3つの名字があるけど、1回も気にしたことはない。それはみんなペピーから生まれているから。種が違うから咲く花の色が違うだけで、後は何も変わらないと思ってる」
城田優って赤西仁のマブダチというイメージしかなかったんですが、意外といいやつじゃないか。どう育てたらこんないい息子になるんでしょうか。教えてほしい! ここでも城田の母親という女性の激動の半生を思い、その力強さと偉大さに畏れ入りました。今号の「婦人公論」は女たちの生き様がギュウギュウに詰まっています。薄毛の悩み特集もあります。熱い。熱いよ、「婦人公論」! そして次号の特集はお待ちかね「40代からの『性』を愉しみ尽くす」。なんだ、この流れ。たまらないじゃないか。みなさん、「婦人公論」に注目ですよ。
(亀井百合子)
「婦人公論」は合法ドラッグみたいなもんですから
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