[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」8月7日号

本気を出した「婦人公論」、杉良太郎のインタビュー記事に号泣

2011/07/28 16:00
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「婦人公論」8月
7日号(中央公論新社)

 これまで「夫のカレー皿は猫の皿と共用」「夫はお金以外の魅力なし!」「義母の前でよい嫁を演じ、遺産の恩恵にあずかりたい」といった衝撃的な読者体験談を紹介し、自己中、居直り、開き直りをスタンダードとしてきた「婦人公論」ですが、今号の特集はなんと! 「人のために生きる、新しい私に出会う」です。「婦人公論」読者が人のために生きることってあるんですかね。震災後、あらゆるメディアで報じられた「ボランティア」というテーマを、「婦人公論」がどのように扱うのかという点も気になります。では、さっそく中身を見てみましょう。

<トピック>
◎特集 人のために生きる、新しい私に出会う
◎プラダで受けた私の苦しみ、一時は自殺も考えました
◎安部譲二×山田詠美 人生相談劇場

神のような夫を支える伍代夏子もすごい!

 今号は電車の中で読んでいたのですが、いきなり泣かされました。特集内に掲載された杉良太郎のインタビュー「福祉活動52年、『自然なこと』だから続けられた」。杉様は現在、1年のうち8カ月を福祉に費やしているそうです。今回の震災でも支援に尽力されたことはスポーツ紙などでも伝えられました。しかしその胸の内はあまり詳しく知りませんでした。

 杉様がなぜ福祉活動をするのか。それは、「生まれつきの性格と言うしかありません」とのこと。3歳のころから、物乞いにお金を与えるよう母親に頼むような子だったそうです。芸能界に入ってからも、52年間も刑務所の慰問を続け、自宅を担保にいれても経費を持ち出し、収益はすべて寄付というチャリティー公演を開いてきました。ベトナムの孤児院に行ったときは、満足に食べられない子どもたちのために山盛りのお菓子やオモチャを買って持っていったそう。ところが、お菓子を食べようとしない子がいました。

「『なんで食べないの?』と聞くと、『お父さん、お母さんがほしい』と言う。僕は外に飛び出して泣きました。そして、孤児の子どもたちの心を理解できなかったことを恥じたのです。あれから、福祉とは何か、またスタートラインに立たされました」


 これを書いていても泣いちゃうんですけど~。ここで自分を恥じ、省みる杉様がすごい。「売名行為」という人もいるけれど、「現実は、福祉で負担がかかり、約束した海外公演が中止に追い込まれそうになったことさえあるのです」と語り、体を担保に銀行から借金をして寄付を続けたそうです。彼の福祉に対する思い、人生観はぜひご一読いただきたいと思います。ほかにも、ライターによるがれき撤去体験記やボランティア入門、福祉に携わる女性を追ったルポなど、どれも読み応えのある硬派な記事ばかりでした。「婦人公論」も本気を出したらこうなるんだなと思わせてくれます。特集タイトルをもじれば、「新しい婦人公論に出会う」といった印象の特集です。

■プラダを敵に回す記事も堂々掲載

 今号は本当に読むところが多い! 「あなたは醜い」「やせろ」と上司からパワハラを受け、雇い主のプラダ・ジャパンを訴えたボヴリース里奈さんのインタビュー「プラダで受けた私の苦しみ、一時は自殺も考えました」も衝撃的でした。この件に関しては、すでに一部のメディアでも報じられてはいましたが、女性誌がプラダを敵に回すこうした記事を掲載するのは影響力が大きいのではないかと思います。心のメンテナンス特集「精神科はこわくない」も精神科医による鼎談や震災ストレスから身を守るための方法など、お役立ち情報が満載です。本当にどれも正攻法の記事で、おちょくる隙がありません。

もういいかげんにしてほしいのは……

 考えさせられる記事が続くなか、唯一浮いていたのは安部譲二と山田詠美の「人生相談劇場」でした。これ、安部譲二と山田詠美が対談形式で読者のお悩み相談に乗るという不定期連載ページなのですが、ページが多すぎて(6ページ)間延びしすぎ、脱線しすぎ、内容がなさすぎ! ただ二人が飲みながらダベっているだけ。安部譲二が「ジャイアンツが嫌いな女じゃなきゃダメ」とか、そんなのどうでもいいっつの! 「老害」という言葉もちらほら浮かぶ内容ですよ。おちゃらけ企画にしてもあまりにふざけすぎています。こんなページ、モノクロだし写真を大きく扱うわけではないので社内の会議室で収録すれば十分だと思うのですが、今回、安部譲二は妻同伴で、山田詠美は恋人同伴で、わざわざ京都で宴席を設けて対談しています。いったいなんの接待だ、これ。社内的な事情があるんでしょうかね。そういうところも、読者って意外と見てるもんですよ。なにせ神のような杉様の撮り下ろし写真が一枚もないんですから、アンバランスさが際立っています。


 というわけで、濃い記事が多かっただけに、安部譲二と山田詠美の軽薄さが悪目立ちしていた今号ですが、杉様のインタビューがすべてを帳消しにするほど素晴らしいものでしたので、総合的にはヨシとします。「婦人公論」で涙を流したのは初めてです。エロネタも好きですが、他の女性誌にはない硬派な記事が読めるのは「婦人公論」ならでは。今後も期待しています。
(亀井百合子)

「婦人公論」

「偽善」は「動かない人」よりはるかにまとも。

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最終更新:2011/07/28 16:00