サンシャイン水族館リニューアルで業界に新風

「人は生き物を見ていない」敏腕プロデューサーが見据える水族館の未来

2011/08/04 11:45
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リニューアルの目玉となる「サンシャインアクアリング」。水槽越しに
高層ビルが見られるのは池袋という立地ならでは

 本日8月4日にリニューアルオープンした、池袋のサンシャイン水族館。中庭には客の頭上でアシカやペンギンが泳ぐドーナツ型水槽「サンシャインアクアリング」、館内には「クラゲトンネル」などが新設され、夏遊びの目玉となることは間違いない。来春には東京スカイツリーに隣接する墨田水族館(仮称)もオープンが予定されており、今後首都圏水族館戦争が勃発するのは必至だ。

 近年は六本木ヒルズのスカイアクアリウムなど大人の楽しめる水族館が増え、水族館という施設に対する見方も変わり始めている。これまでメディアで語られることの少なかったこの水族館ビジネスについて、サンシャイン水族館リニューアルの展示を手掛ける水族館プロデューサー、中村元さんに語ってもらった。

――サンシャイン水族館(以下、サンシャイン)は中庭にアルコールも楽しめるオープンカフェなどもできて、全体的に南国リゾートのような明るい雰囲気に変わりましたね。

中村元氏(以下、中村) リニューアルのコンセプトを「天空のオアシス」にしたんですが、これは完全に大人の客層を狙ってのものですね。水族館は子どものためのものというイメージが強いんですが、集客率の高い水族館は、どこも大人客の割合が8割以上と高いんですよ。だからサンシャインは子どもを排除するのではなく、大人の割合を増やしたかったんです。大人は水族館に特定の生き物を見に来るというよりも、それが泳いでいる雰囲気や水中の感覚を楽しみたい。つまり水を見に来ているんです。だからここでは、水の塊=水塊(すいかい)を見せることに力を入れました。立地的にスペースにも限りがあるし水量も多くは使えないので、沖縄県の美ら海水族館のような大きな水槽は作れない。だからフラッグシップ水槽の「サンシャインラグーン」は、水槽の奥に行くにしたがって底が浅くなるようにして、奥行き感を出しました。バイカルアザラシの水槽にも、厚い氷の下を明るく見せるライティングを施したりと、随所に見せ方のテクニックを使っていますね。

――アシカがひなたぼっこをする「アシカたちの砂浜」では、生き物の暮らしをリアルに見せるという工夫もされていますね。

中村 アシカがごろんと寝て、顔にちょっと砂がついている姿ってすごくかわいいんですよね。ここには特別珍しい生き物はいないんです。だからこそ、”生き物についてくる物語”を見てほしいんです。というと、生き物の特殊な能力を見せればいいと思われがちですが、それは動物好きな人に向けてすべきこと。それより生き物を身近に感じてもらう工夫をしたほうが興味をそそられるんじゃないかと。例えば手の届かないジャニーズのタレントより、身近にいるちょっとイケメンの子の方がリアルに気になったりするでしょ(笑)。そういうものをどうやって作るかですよ。


――来年には墨田水族館もオープンしますし、ライバルも多いですよね。

中村 客層や地域性を考えると、サンシャインの最大のライバルになるのはエプソン品川アクアスタジアム。大人がたくさん集まる街で、癒やしを提供できるスポットという大まかなコンセプトは同じですからね。エプソンは狙ってる女の子を口説くために行くような、ムードを重視した作りですから(笑)、こちらは自然の海や川などを再現してリアリティーにこだわりました。人間って結局自然のあるところを求めるんですよ。それに応えるのも水族館の役目なんです。

――今回のリニューアルで使ったテクを、真似る水族館も出てきそうですが……。

中村 そうかもしれないですね。水族館はもともと公立の動物園から分化した施設ですから、自分で何かをクリエイトする人より、よその水族館と交流があり人気のある展示やショーについて質問できる立場のほうが偉い、とされる傾向があるんですよ。公共のサービスから始まっているならなおさら、地域の人が「うちの近所の水族館はここがすごいんだ」と自慢できるような、個性のある水族館作りをしていくべきだと僕は思いますけどね。

――日本には100を越える水族館があって水族館大国とも言われていますが、日本の水族館の一番の問題点はどんなところにあると思われますか?


中村 中途半端な「公」の施設になっている所が多い、ということではないでしょうか。例えば展示にしても、「公」の施設と思っているから、教育面に力を入れようとする館が多い。水族館のパネルに説明を詰め込んだところで、知識の量で言ったら百科事典ほども学べないんですよ。でも運営側はそれでいいと思っている。だから展示スタッフと、お客様の求めるものがかい離していくんです。

――それで客足が遠のき、悪循環になっている水族館も少なくないと思います。

中村 水族館はアメリカが先進国だといわれていて、新しい試みや冒険を次々としているんですけど、それができるのはアメリカの水族館が入場料でなく寄付金でまかなわれているからです。あちらでは税金を払う代わりに社会施設に寄付ができるので、お客さんが少なくても構わずにどんどん新しいことにトライできる。ところが日本の場合、自治体主導の水族館ならコンセプトなんかよりも、そこの市長や議員のアイデアが優先されてしまいがちなんですよ。よそに視察に行っては「あそこの水族館のあの水槽がすごかったから、あれと同じものを作れ」だとかね。私立の場合は税金がかかりすぎるので、それをカバーするためにお客さんに過剰に配慮をして、集客の目玉になるありきたりなショーや展示を作ることばかり考えなければいけなくなる。これからは水族館はもちろん動物園も、社会施設への寄付や税金体系の見直しを提案するべきですよ。

――最後に、これからの水族館の展示やショーはどんな流れになっていくと思われますか?

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個体が持つ特徴を間近で見られるショー

中村 サンシャインでもやってますけど、最近は動物が人間の近くまでやって来る”ふれあい系”のショーが増えていますね。この手のショーのいいところは、その生き物が派手な技を見せなくても、お客さんがその生き物に愛情や興味を持ってくれること。彼らが人とコミュニケーションを取れると分かってもらえれば、それで十分だと思いますしね。ちなみにアザラシなどの海獣の展示といえば北海道の旭山動物園が有名ですけど、あの中のいくつかのスタイルは、すでによその水族館にもあったもの。これからは水族館の展示やショーをモチーフにした、動物園の水族館化も進んでいくと思います。だから水族館もおちおちしていられないですよ。

こちらもリニューアルの目玉「サンシャインラグーン」。開放感を出すた
めに、下部を掘って高さを出した

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ペンギンとの距離も近く、飛びこむ際には水しぶきがかかることも

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日本唯一のクラゲトンネル。ライティングによって、よりクラゲの神秘
的な姿を見ることができる

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浮かぶのは人工の氷。本当の海中では氷が光を遮断するため、海中は
暗闇。しかし、人間がイメージするだろう海中を演出するために光を
通す人工の氷を設置した

中村元(なかむら・はじめ)
成城大学卒業後、(株)鳥羽水族館に入社。同館副館長を経て、水族館プロデューサーに転身。新江ノ島水族館の展示監督を務め、水族館に関する多数の著作も。8月8日~10日にはサンシャイン水族館で『中村元のサンシャイン水族館ナイト』を開催。詳細は、サンシャイン水族館公式HP
中村さんが運営する、「WEB水族館」「Blog水族館」でも全国の水族館の見所や特長が解説されている。

『中村元の全国水族館ガイド112』

どうしてラッコがどこの水族館にもいるか、考えたことある?

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最終更新:2011/08/04 13:07