小島慶子×辛酸なめ子特別対談(前編)

“女子校育ち”は生きづらい!? 奔放な思春期は女の人生に何をもたらす?

2011/07/28 11:45
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女らしさと、男らしさが共存するお二人

 女子校出身の女性なら誰しもが膝を打つに違いない、辛酸なめ子著の『女子校育ち』(筑摩書房)。多感な中高生時代を女の園で過ごした辛酸氏が俯瞰的に考察した女子校ライフは、「禁断の同性愛」といった男性の理想像をなぞるような女子校イメージを爽快に蹴散らすものだった。男の視線が完全に除外された世界での生活が、その後の女の一生にもたらすものとは何か。筆者である辛酸なめ子さん(女子学院卒)と、女子校を卒業後、女子アナという「疑似女子校」の中で、ラジオパーソナリティーという自身の道を切り拓いた小島慶子さん(学習院女子卒)との濃厚過ぎる女子校対談がここに実現。清く? 正しく? 美しい? 女子校ワールドへ、いざご案内。

小島慶子氏(以後、小島) 『女子校育ち』を拝読しました。これは「救済の書」ですよ。

辛酸なめ子氏(以後、辛酸) ありがとうございます。よく人から「女子校育ちって生きづらそう」って言われるのですが、果たしてそうなのかな? という疑問が私自身にありまして。女子校というものを多角的に考えてみたかったんです。

――そもそもお二人が女子校に通われたきっかけは?

小島 幼いころに海外で暮らしていたこともあり、帰国後転入した郊外の公立校にあまりなじめなくって。母に勧められるがまま、中学受験しました。世間知らずだったので、母の出してくる「学習院女子は素敵よ~」という情報に洗脳されてましたね。


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お母様から「男は狼だ、獣だ」と
教育されたというなめ子さん

辛酸 私は埼玉出身なんですけど、地元は運動能力至上主義で体育ができないといじめられるんです。だからできるだけ、体育に熱心でなく、なおかつプールがない学校を選びました。祖母も母も女子校出身者だったので、自然な流れでしたね。母はさらに女子校の教師でしたから、潜在的に選んでいたのかもしれません。

――学生時代はどういうタイプでしたか?

辛酸 小島さんはイケてるグループだったんじゃ?

小島 いえいえいえ、学習院は幼稚園から通っている”譜代”と中学から編入してくる”外様”でヒエラルキーが構築されてますから。夏休みはハワイか軽井沢。車は外車が数台、家にはお手伝いさん。そんな家庭がザラなんです。私はそもそも自宅が東京23区にない時点でダメ。「学校帰りに広尾図書館(都立中央図書館)で勉強しよう」って言われても、「私、通勤快速で帰んなきゃいけないし」って(笑)。”良家の子女ソサエティー”に入りたいと思いつつも入れなくて、ちょっと地味なグループも違うなと。その中間にいましたね。ただ高校1年くらいになって”中間が一番楽だ”と気付きました。


辛酸 うちの学校は私服だったので、おしゃれ感でヒエラルキーが決定されました。私の家はお小遣いも少ないし、「浦和コルソ」とかでダサい服を買うのがやっと。今はH&MやGAPがあっていいですよね。安くてオシャレができる。当時は「Olive」(マガジンハウス)を見ても1万円の服しか載ってないし。

小島 そうそう、ウチでも渋カジでオシャレな子は、”外様”でも”譜代”のイケてるグループに入っていました。女は昔から「AKB効果」をよく分かってますから、所属するグループは大きければ大きい方がいい。その中でさらにトップにいると自分の価値が上がるということを知ってるんです。

辛酸 アメリカのチアガールと同じ構造ですね。そういう人たちは文化祭実行委員になります。

――純然としたヒエラルキーが存在する女子校生活ですが、一方で他人に寛容な面もありますよね。

辛酸 男性の目を意識しなくていいのは、いいですね。自分のやりたいことをとことん出来る。

小島 からかわれたり、ネタにされたりしない。

辛酸 個性を認め合う空気はあります。


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大学時代は下ネタで男性陣を引か
せまくったという小島さん

――男性の目を意識しないことでの、負の側面は?

小島 品よく育てたいなら絶対共学(笑)。

辛酸 そうですね。和式から小便がはみ出していたり、トイレで手を洗ってそのまま髪の毛で手を拭いたり。そういうのが当たり前だと思っていました。今でも仕事関係の男性に対して「歯から膿が出た」って言って引かれたりします。

小島 「話が面白いか/面白くないか」で判断するので、それが下ネタかどうかはあまり気にしない。「男性ウケするか/しないか」という基準を持ち合わせてなくて、社会に出てから苦労しました。

辛酸 アメリカの学者さんが「男性は女性のギャグを”攻撃”として受け止める」という論文を発表していたのですが、それを聞いて妙に納得しました。

――最初から男性は女性に面白さを求めていないのですね……。

辛酸 そうみたいですよ。男性の視線が介在しない女子校の世界では、野性的な一面が育つ一方で、礼拝などの儀式で引き締められたりもする。そこで自然とバランスを身に付けているのかもしれないですね。

小島 学習院も礼儀作法は厳しかったですね。学習院はお辞儀が長いんですが、それも明文化されているわけではなく「生徒なら分かる、その矜持」という空気が漂っているんです。出るとこ出たら非常に品のある物腰で振る舞うことも出来ますし、一方で吉田戦車さんの『感染るんです』で笑うこともできますのよ、と。

辛酸 それは女子校のいいとこですよね。
後半へ続く、文=西澤千央)

【撮影協力:and people

小島慶子(こじま・けいこ)
1972年オーストラリア生まれ。東京都日野市育ち。元TBSアナウンサー。現在『小島慶子 キラ☆キラ』(TBSラジオ)のほか、『ゴロウ・デラックス』(TBS系)にも出演。

辛酸なめ子(しんさん・なめこ)
1974年東京都千代田区生まれ、埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。祖母、母、妹が全員女子校出身という宿縁の女子校一家に育ち、自然な流れで女子学院中学高校に進学、女子校ライフを満喫する。

『小島慶子 キラ☆キラ』(アスペクト)

熱狂的なファンを持つ、TBSラジオ『小島慶子 キラ☆キラ』を細部まで分析。各曜日パートナーへのインタビューやプロデューサー &チーフ・ディレクターのインタビューなど圧倒的なボリュームで番組の魅力に迫る。

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『女子アナ以前』(大和書房)

少女のころから女子アナ時代、育児、そして今に至るまで、考えてきたことを語った。

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『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)

女子100%の濃密ワールドで洗礼を受けた彼女たちは、卒業後も独特のオーラを発し続ける。インタビュー、座談会、同窓会や文化祭潜入などもまじえ、知られざる生態をつまびらかにする。

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最終更新:2011/07/29 17:30