サイゾーウーマンカルチャー漫画レビュー3.11以降、まんがに課せられた意味を「マンガ大賞」から読み解く カルチャー [連載]まんが難民に捧ぐ、「女子まんが学入門」第19回 3.11以降、まんがに課せられた意味を「マンガ大賞」から読み解く 2011/05/04 16:00 まんが難民に捧ぐ、「女子まんが学入門」カルチャー マンガ大賞2011のノミネート作品が発表されたのは1月17日のことでした。遠い昔の出来事のようにも思えますし、実際のところ3.11世以降世界はすっかり変わってしまいました。それでも大賞受賞作『3月のライオン』(白泉社)をいま読み直して思うのは、震災後もこの作品は空々しくなるどころか、より確かな説得力と強度を獲得しているということです。詳しくは昨年6月に本作を紹介した記事をご覧いただくとして、今回はその他のノミネート作品の中からお薦めを紹介したいと思います。 次点の『乙嫁語り』(エンターブレイン)を描くのは、『エマ』(エンターブレイン)で大ブレイクした森薫先生です。いまだ2巻のみの刊行でありながら堂々の2位。いかに書店員さんたちから強く支持されているか、その証しでありましょう。中央アジアの架空の部族を舞台に描かれる本作の見どころは、主人公の乙嫁=アミルがまき散らす「萌え」の数々と、病的なまでに緻密に描かれた布や家具などの手工芸品です。特に後者! 見事と言うほかありません。「あとがき」で森先生が独白するように、『エマ』と同様本作には森先生の「好き」がすべてぶち込まれています。「馬」や「じゅうたん」と言った描きたいものがあって、アミルのような描きたいキャラクターがあって、それらに相応しい物語を描くことができる……森先生は非常に幸せな作家さんであるように思うのです。そしてそんなふうにして幸せに描かれた物語が、面白くないわけがないのです。 『花のズボラ飯』(秋田書店) 4位の『花のズボラ飯』(秋田書店)は、B級グルメマンガ界の巨匠・久住昌之先生の最新作(原作)です。夫が単身赴任しているせいでしょうか、主婦・花の毎日のごはんはまるで一人暮らしの男子のような「ズボラ飯」。その調理も食事もごくごく単純なのに、細かな要素を無駄に掘り下げ、そして異常なハイテンションで盛り上げる久住先生一流の芸風は本作でも健在です。公式にはアナウンスされておりませんが、作画者の「水沢悦子」先生の正体は某成人向けマンガ家さんだと言われております。それがためか花の食事シーンは時としてややエロティック。表面的にはギャグとして描かれてはいますが、食と性という人の営みの近しさを思い知らされます。 久住先生といえば谷口ジロー先生との共作『孤独のグルメ』(扶桑社)が有名ですが、泉昌之名義(泉晴紀先生との合作)で発表された『かっこいいスキヤキ』(扶桑社)シリーズがわたしは大好きです。本作で久住先生の偏執的な面白さにはまった方、こちらの2作もぜひお読みくださいませ。 『失恋ショコラティエ』(小学館) 5位『失恋ショコラティエ』(小学館)も今や大ヒット作となりました。水城せとな先生の代表作『窮鼠はチーズの夢を見る』(小学館)のカバー袖にある文章によりますと、かつて先生は編集者に「水城さんはチョットいい話とか描かなくていいから」と言われたとのこと。その集大成が本作『失恋ショコラティエ』であったかもしれません。主人公は若き天才ショコラティエ・爽太。かつて自分をふった女・サエコを振り向かせたい一心で、チョコレート作りの修行に打ち込むべくフランスへと旅立ちます。数年後、帰国してついに自分の店を持つまでになった爽太ですが、しかし愛しのサエコはすでに別の男と結婚していたのでした……。誰一人として「いい人」が登場せず、そこかしこが三角関係にまみれた本作には、人間のドロドロとしたネガティブな感情が渦巻いております。しかし元を辿れば誰もが誰かをただシンプルに「好き」であっただけ。恋情がこじれた挙げ句の甘くて苦いこの物語は、ショコラの本質をも炙り出す見事な作品です。また、作中に描かれるショコラはどれもとてもおいしそうで、水城先生の確かなショコラ愛をうかがわせます。 『ましろのおと』(講談社) 9位『ましろのおと』(講談社)は『赤ちゃんと僕』(白泉社)の羅川真里茂先生が初めて挑む少年マンガです。先日3巻が発売されたばかりですが、これがまた面白いのです。主人公は三味線の名手であった亡き祖父の音を求めて練習に打ち込む高校生・澤村雪。主に描かれるのはその学園生活ですが、三味線となると雰囲気は一変。演奏シーンの迫力たるや圧巻です。個性豊かな脇役たちも素敵。 『主に泣いてます』(講談社) 12位に沈んだ『主に泣いてます』(講談社)ですが、わたしは大好きです。ご存知の通り『海月姫』(講談社)が大ブレイク中の東村先生ですが、あちらではしっかりと構築された少女マンガの様式美を、こちらではギャグの初期衝動を見せつけ、作家としてのポテンシャルを遺憾なく発揮しています。2巻の後半、カーナビの話だけであそこまで引っ張れる作家が、ほかに存在するでしょうか? 水木しげる先生やつげ義春先生へのオマージュが散りばめられた本作は、21世紀の「ガロ」を体現しているとすら思います。 大賞が発表されたのは震災直後の3月17日のことでした。受賞作が『3月のライオン』だと知り、わたしはほっと胸をなでおろしたものです。 今回ノミネートされた13作品の中には時期尚早ではないかと感じるものがいくつかありました。実は前回の大賞作が『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)であったことにわたしはいまだ違和感がありまして、まだ1巻しか出ていない作品、しかも巻を重ねるごとにパワーダウンすることの多いギャグマンガというジャンルに、そんな大慌てで大賞を与える必要があったのだろうかと疑問に感じたのです。最新巻が8巻までであることがマンガ大賞の条件ですから、『テルマエ・ロマエ』にはまだ数年間の猶予があったわけです。そうでなくとも前回は小山宙哉先生の『宇宙兄弟』(講談社)にとってはラストチャンスとなるマンガ大賞でした。8巻までですでに十二分に美しく、力強い物語を奏でてきた『宇宙兄弟』は、あれからより一層その輝きを増しつつあります。一方、『テルマエ・ロマエ』はどうだったでしょう? マンガ大賞は決して「先物買い大賞」ではありません。マンガを愛する人たちが、膨大なマンガの中から、普段あまりマンガを読まない人でも楽しめるマンガを吟味して選び出し、そして自信満々にオススメして見せる賞だとわたしは信じています。そして3月11日以降の圧倒的な現実の前に、そのミッションはますます困難になりつつあります。しかしそれでもなお、みなに読んで欲しいマンガが、わたしたちマンガ好きには確かにあります。このタイミングで『3月のライオン』を選んでみせた選考委員のみなさんに、惜しみない拍手を送りたいと思います。 小田真琴(おだ・まこと) 1977年生まれ。少女マンガ(特に『ガラスの仮面』)をこよなく愛する32歳。自宅の6畳間にはIKEAで購入した本棚14棹が所狭しと並び、その8割 が少女マンガで埋め尽くされている(しかも作家名50音順に並べられている)。もっとも敬愛するマンガ家はくらもちふさこ先生。 『乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX) 』 GWは漫画喫茶をオールナイトで 【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでます】 ・「笑い」という推進力を持つ”ネオ少女漫画”『海月姫』 ・『ハッピー・マニア』の2つの魔法~スポ根としての女子まんが序論(3)~ ・切なさとユーモアを交えながら、「死」を描いた『夏雪ランデブー』 最終更新:2014/04/01 11:37 次の記事 着衣で添い寝はあり得ない! 映画『抱きたいカンケイ』で学ぶセフレの距離感 > Facebook Twitter プッシュ通知を受け取る クリックしてプッシュ通知を有効にする クリックしてプッシュ通知を停止する アクセスランキング カルチャー ホテルはちゃんと別に取るから! アプリより全然いいじゃん! アラフォー婚活、12歳下の韓国男子 てか気づけば46だし… タイプとか言ってる場合じゃない! アラフォー婚活、45歳イケメンの残念点 AV男優・しみけんがスパッと解答 しいたけ占い人気の裏側 過激セックスがすごいエロ漫画 末っ子長男で姉が2人いるらしい 総合 寛仁殿下、芸者遊びに入れ込み結婚も? 【Travis Japan】歴代売上データ一覧 婚約発表で“元カレ”問題が浮上の皇室 timelesz篠塚表紙の雑誌の転売に注意喚起 風磨、“おこもりデート”報道も「ほぼ無風」 結婚でモメたプリンセスに訪れた悲劇 元光GENJIが仲良しツーショット公開 ホテルはちゃんと別に取るから! 学習院「常磐会」が行った「美智子さまいじめ」 彬子女王の父による伝説の『オールナイトニッポン』 暮らしのおすすめ記事 【花粉症】鼻水くしゃみに悩むなら、この2つ! 薬剤師がおすすめ、眠くならない薬とは? カラダ 【ダイソー】110円のコレ、収納のプロが一番に愛用! 「空中収納」の使用アイデア3 住まい 1位はイオン【トップバリュ】ギョーザ! 栄養士が選ぶ「PB冷凍餃子」ベスト3 食べ物 パパウォッシュ、りんごのAHA、ビオレのスクラブ……アラフォー懐かしの洗顔料 カラダ 【安楽亭】ランチタイムなのにガラガラ……でも「999円焼肉ランチ」の太っ腹ぶりに感動 暮らし 暮らし一覧へ 男性アイドルのおすすめ記事 Snow Man『それスノ』ゴールデン進出、放送枠は「TBS金曜8時」に内定 Snow Man Hey!Say!JUMP・山田涼介の○○姿を中島裕翔が絶賛! 「やめて急に……」照れたワケ 山田涼介 嵐・櫻井翔の主演連続ドラマ代表作は『謎解きはディナーのあとで』がトップに!【ジャニーズファン世論調査】 櫻井翔 Snow Man・佐久間大介、海外旅行での“びっくり”体験明かし阿部亮平は「いいなぁ」 佐久間大介 SixTONESの“本気度”と新たな可能性が感じられた、ドーム公演『YOUNG OLD』レポート SixTONES 男性アイドル一覧へ